専門的に学ぶ4つの専攻
社会学専攻
人間社会のさまざまな現象の「当たり前」を問い直す
社会学専攻では、個々の態度や関係から全体に関わる制度や構造まで、幅広い視点で分析を行います。対象の領域は、グローバル化、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、貧困、労働、教育、医療、地域社会、宗教、自己など多岐にわたります。こうした人間社会のさまざまな現象について、「当たり前」を問い直しながら実証的に探求します。

PICK UP 授業
仕事の社会学(長松奈美江 教授)
「働くこと」の過去・現在・未来
皆さんは、日本人の働き方についてどう思いますか?日本では、なぜ学校卒業後すぐに就職することが「普通」とされているのでしょうか?なぜ過労死や過労自殺がなくならないのでしょうか?なぜ男女で働き方が違うのでしょうか?なぜ、働くことによって幸せになれたり不幸になったりするのでしょうか?
この授業では「働くこと」にまつわるさまざまな疑問について、社会科学のツールを用いて多角的に検討していきます。鍵となるのは日本的雇用システムの理解です。「仕事の社会学」で学ぶことで、日々の労働ニュースの裏側にある事実を理解できるようになるでしょう。
ボランティアの社会学(関嘉寛 教授)
ボランティアから現代社会における コミュニケーションを考える
ボランティアを勉強するというと、ボランティアをうまくする方法やボランティアする人の動機を考えると思われるかもしれません。しかし、この授業ではボランティアから見える社会の特徴を考えていきます。例えば、お金をもらって被災地で片づけをしても、「ボランティアで」片づけをしても、どれも同じ「片づけ」です。ボランティアの特徴は、活動の内容にあるのではなく、私たちのボランティアに対するイメージに由来しているのです。したがって、このイメージを探ることで、ボランティアや現代社会について理解を深めることができるのです。
ゼミ紹介
大岡ゼミの調査テーマは「つながりの社会学」です。私たちの生きる現代社会は「選択縁」の社会と言われています。かつての社会では家族や親戚、ご近所など、自分では選ぶことができない人たちとの強いつながりが社会の土台になっていました。それが現代では、SNSなどにも代表されるように、自分が選んだ、自分の付き合いたい人とだけ、選択的につきあうことが可能な社会へと変化してきました。個人は自由を手にしました。その反面、社会的孤立やコミュニティの弱体化、それに伴う新たな課題が、わたしたちを孤独で、生きづらくしている側面もあります。

ゼミでは、こうした現代社会における社会的つながりの課題と、課題解決に向けた新しいアプローチを、フィールドワークを通して学んでいます。強いつながりに変わる弱いつながり、緩いつながり作りが「どこ」で、「だれ」によって生み出されているのか。
学びを通じたコミュニティ、ユースセンター、カフェや喫茶店、地域食堂やつどい場、マルシェ、市役所など、さまざまなフィールドでインタビューをし、地域の人と出会い、語りに耳を傾けます。またともに活動する中から、課題解決につなげるまちづくり実践として、地域イベントやワークショップを行うこともあります。主に大学のある西宮市をフィールドに活動しています。
大学進学で西宮市に下宿していても、西宮市に通学していても、西宮と出会うことなく卒業する学生も多いので、身近なフィールドワークを通して、自分の暮らす、そして学ぶまちの魅力に気づいてもらうのも、ゼミの調査目的の一つと言えるかもしれません。

メディア学専攻
メディアと日常生活の密接な関係を学ぶ
メディアとつながることで、社会は便利で楽しいものになると同時に、様々な問題や新たな課題に直面しています。そうした社会の現状を、歴史・技術・文化・経済・政治などさまざまな視点から考えていきます。

PICK UP 授業
公共圏とメディア (阿部潔 教授)
「話し合い」の空間を考える
話し合いで物事を決めましょう。そう学校で教えられます。では、そうしたコミュニケーションは、どこで/だれによってなされているのでしょうか。まず思い浮かぶのはSNSかもしれません。そこでは、さまざまなユーザーがいろいろな話題について自由に意見を交わしています。今では当たり前のメディアを用いた意見のやり取りは、いつから/どのようにして生まれたのでしょうか。この講義では、社会の中で話し合いの場がどのように成立し、メディアの発展とともにコミュニケーションがどのように変化してきたのかを考えていきます。
ソーシャルメディア論 (松井広志 准教授)
ソーシャルメディアと現代社会の関係を考える
みなさんはInstagramやXなどのSNS、あるいはYouTubeやTikTokなどの動画共有サイトを使っていると思います。小説やイラストの投稿サイトを見る、という人もいるでしょう。ソーシャルメディアはこれらの総称ですが、あまりに身近なゆえに、深く考えることは案外少ないかもしれません。この授業では、ソーシャルメディアについて、より以前からあったマスメディアやパーソナルメディアと何が違うのか、理論的に整理します。また、各プラットフォームのしくみや、それが促すコミュニケーションについて検討します。さらに、ソーシャルメディアが形成するポピュラー文化についても論じていきます。
ゼミ紹介
メディア産業やコンテンツビジネスなどの
現在と未来について考える場としてのゼミ( 難波功士 教授)
社会学部に入り、メディア学を専攻する学生の多くは、メディア・コンテンツ・エンタテインメントといった領域に少なからず興味があり、そうした業種・業界に進みたいという希望を漠然と抱いていることが多いでしょう。現在、20世紀に君臨していたマスメディアは「オールドメディア」と呼ばれたりもしています。たしかに、特定の組織から広範な人々へと一方向的に情報やコンテンツが流れていくだけの時代ではありません。しかし、今世紀急成長を遂げた企業群(デジタル、ネット、モバイル関連)が、既存のメディア各社に完全にとって代わるという状況でもありません。要するに混とんと激動の時期にあります(もちろん、現在すべての業態や職種が、多かれ少なかれそうなのですが)。

ゼミ生には、混とんとした状況を冷静に分析し、自分はそうした激動の環境を楽しみ、サバイバルしていくタイプの人間なのかを考えてもらいたいと思っています。そのためには俯瞰的に現状を把握することも大切ですが、現役で働いている人の声を聞くことも重要です。機会があれば現場に足をはこんでお話をうかがう、Zoomなども活用しながらゼミ卒業生たちに聞き取りを行う、といったこともゼミ活動として取り組んできました。具体的には放送・広告・出版・映画・情報通信など各社に勤務する先輩たちにインタビューするわけですが、それら業界間の垣根が無くなりつつあり、異業種からの参入、もしくは異業種への進出が盛んに試みられている現状が、よりリアルに実感できたりするようです。また他大学のゼミと連携し、企業から現業に即したテーマをいただいて、その企業の方々に学生たちが自ら考えた企画を直接提案するといったイベントにも参加してきました。
ゼミは、大学生が社会に出ていこうとする時期をともにする場です。お互いに刺激しあい、視野を広げ、社会と自身の将来について思考と知見を深めていってほしいと考えています。

社会心理学専攻
社会に作られる個人、個人が作り出す社会
人の思考、感情、行動が社会環境によってどのように形成されるのか、またそれらの思考、感情、行動が社会環境をどのように形成していくのかを研究します。研究方法としては、実験や調査などを通してデータを収集し、そこから客観的に人の心を読み解く方法を身に付けます。

PICK UP 授業
グループ・ダイナミックス (森久美子 教授)
「集団」を複眼的に眺める
私たちはさまざまな集団に属して生活しています。周囲の意見に流されたり、空気を読んで言いたいことを飲み込んだりする時、集団はひとりの個人では到底かなわない力を持っているように見えます。でも、誰かの発言で流れが大きく変わったり、新しい価値観が古い常識を覆したりすることがあるように、集団の力や「雰囲気」を作り出し変えていくのもまた、ひとりひとりの個人なのです。この授業では、集団と個人が「互いに影響を与え合う」現象について取り上げます。個人の視点と集団の視点を切り替えることで、私たちの生きる集団について多様な見方をしてみませんか。
文化心理学 (岩谷舟真 専任講師)
心の文化差とその起源を読み解く
私たちの心には文化差があります。成功したときに「頑張ったから」と言う人が多い国もあれば、「運が良かっただけ」と謙遜する人が多い国もあるでしょう。では、なぜ心の文化差が見られるのでしょうか。この授業では「◯◯人だから△△な心を持つ」という同語反復に近い説明からさらに進んで、社会環境の違い(新しく友人を作る機会が多い社会か少ない社会か、稲作が盛んな社会か麦作が盛んな社会かなど)が心の文化差を生み出す可能性について説明します。この授業を受講することで、「◯◯人は△△だ」というステレオタイプ的な理解よりさらに深い他者理解が可能になると期待できます。
ゼミ紹介
身近な関係を科学的に研究する (清水裕士 教授)
私の研究テーマは社会心理学で、とくに対人関係や態度などミクロな社会行動がテーマです。具体的には、どうすれば友達とうまくコミュニケーションがとれるだろう?みんながグループで助け合うにはどうすればいい?人の好みや印象を知るにはどうすればいいのか?などを研究テーマにしています。そのため、清水ゼミでは身近な対人関係やコミュニケーション、人への印象をよくするための方法などについて研究している学生さんが多いです。また、消費者行動について研究する人が毎年数人います。

3年生では、社会心理学の論文の読み方などを学びながら、グループでテーマを決めてみんなで一緒に研究を進めていきます。リサーチクエスチョンの立て方、仮説の導き方、そしてデータ分析なども勉強しながら、社会心理学の研究方法を身につけていきます。たとえば、自分の意見がグループの中でどのようにうまく伝えられるのかのトレーニングをしてみたり、アカデミックな場面での質問の仕方なども議論したりします。そして、心理学では国際的な研究が多いので英語論文も読みますし、実験計画法や統計など科学的な研究に必要な知識も獲得していきます。最終的にはグループの研究成果はそれぞれひとりひとりがレポートとしてまとめます。そのなかでアカデミック・ライティングも身につけてもらいます。

4年生では、3年生で学んだことを活かして一人で卒業論文執筆を行います。テーマは比較的自由に選んでもらっていて、日常で不思議に思っていたこと、就活中に気づいたことなどをとりあげている学生が多いです。社会心理学は科学的な方法を使うこともあり、大学生活で学んだことが一つ一つ積み上がって、研究に活用されていくことが特徴です。ゼミでの課題などは大変なこともあると思いますが、ゼミ生はみんな卒業するころには「ゼミではちゃんと大学生っぽいことができた!」と自信を持ってくれています。
文化学専攻
個別と普遍を往復し、文化や芸術の意味や価値を探る
社会構造の中で人が行う言語的・非言語的な実践としての文化、およびその産物としての芸術に対して、主に質的データの分析を通してアプローチします。ことば、物語、信仰、慣習、芸能、音楽、食、文化遺産、ファッション、ツーリズム、ミュージアム、パフォーマンスなどを扱います。

PICK UP 授業
文化人類学 (中谷文美 教授)
自分たちのあたりまえを問い直す
文化人類学はその名の通り、「人間」の「文化」について考える学問です。ここでいう「文化」とは、地球上のさまざまな人びとが日々行っているありとあらゆる事柄を指します。
持ち運ぶこともできないくらい巨大な石のお金にはどんな価値があるのか? 贈り物を受け取ったら、お返しをしないといけない気分になるのはなぜ? 映像資料にもふれながら、世界各地の事例を通じて、日頃考えたことのない問いに取り組むことが、自分たちの日常を新しい視点で切り取る機会につながります。半期の授業が終わる頃には、いつもの景色がちょっとちがってみえる…はず!
現代民俗学 (島村恭則 教授)
日本とその周辺をフィールドに、日常生活文化の謎を解く
民俗学は、人びとの日常生活文化(=民俗)について、その来歴や意味を解明する学問です。年中行事や祭り、昔話や伝説、民間信仰や冠婚葬祭、食文化、都市伝説やネット怪談といった伝承文化を、日本とその周辺地域でのフィールドワークや歴史文献の調査を通して考察するところに特徴があります。講義では、ベストセラーになった『現代民俗学入門』(島村恭則編)をテキストに、現代に生きる私たちにとって身近な民俗をとりあげ、現在と過去、日本と海外を縦横に往復しながら、その謎を解明していきます。
ゼミ紹介
文化について、楽しみつつも冷静に考える (鈴木慎一郎 教授)
文化や芸術は〈楽しみをみんなで無条件に分かち合う〉瞬間を含んでいます。一方で制度化や商業化に向かう動きが含まれることもあります。両者のせめぎ合いに感覚を研ぎ澄ましていくのがこのゼミのねらいです。
このゼミで大切にする先人の考え方には少なくとも2つあります。1つは「文化とはありふれたもの」(レイモンド・ウィリアムズ)という考え方です。文化とは権威づけられたどこか「格上」のものという先入観があったなら、それを外してみましょう。日常生活にニュアンスを加える営み、といった程度に文化を捉えれば、至る所にそれを感じ取れるでしょう。ありふれているから研究に値しない、のではなくその逆です。もう1つは「限界芸術論」(鶴見俊輔)です。限界芸術とはアマチュアがつくり受け手もアマチュアであるような芸術のことです。これは、純粋芸術(=専門家が作り専門家が鑑賞する)や大衆芸術(=専門家と企業が合作し大衆が消費する)とは、区別できると同時に連続してもいます。限界芸術に興味を寄せることは、芸術や文化の専門化・制度化・商業化に敏感になることでもあるのです。

授業の1つの柱は、オーソドックスではありますが文献講読です。また、限界芸術のようなものを共同で制作し論評する、ということもしばしば行います。さらに、ミュージアムやその他のさまざまな場所へフィールドトリップを行うこともあります。このゼミの卒論では、各人の趣味など、その学生本人にとって思い入れのある題材が扱われる傾向があります。それらの卒論について近年特筆すべきは、〈持続可能なファン文化〉のあり方を探ろうという志向がみられることです。そこには、文化産業における人権侵害やファンによる誹謗中傷などの害悪が問題視されつつある中、これからのファンはどのようにふるまうべきか、という切実な問題意識がうかがえます。この志向には大きな可能性を感じさせられます。
