
学生 人間福祉学部×社会学部——2つの学部で学んだからこそ見えた「現場」と「社会構造」
今回ご紹介するのは、関西学院大学のマルチプル・ディグリー(MD)制度という最短4年間で2つの学部を卒業(2つの学位を取得)することができる制度を利用して、人間福祉学部から社会学部へ編入された社会学部4年生の乾彩海さんのインタビューです。
MD制度を利用するまでの経緯や、実際に利用することでどのように学びが深まったのかをお伺いしました。
マルチプル・ディグリー(MD)制度とは?
最短4年間で2つの学部を卒業(2つの学位を取得)することができる制度。
関西学院大学公式ホームページで詳しくご紹介しております。ぜひ、以下よりご覧ください。
副専攻プログラム(学部を出て、他分野を学ぶ)|関西学院大学
高校生の時に関西学院大学の人間福祉学部を選んだ理由を教えてください。
もともと社会学部も受験しましたが不合格となり、人間福祉学部に進学しました。
人間福祉学部を選んだ理由は、元々興味のあった環境問題に取り組む前に、解決すべき社会問題がまだまだあると感じたからです。
環境問題に目を向けられる人は、衣食住が安心できるからこそ取り組めるのだと考えています。生活が苦しい人に「環境問題に取り組んで」とは言えないと感じ、その背景にある問題を知る必要があると考えました。
そこで、社会問題は耳にするものの、具体的な実態は知らなかったため、「今学ぶべきことは何か」を考え、人間福祉学部で学ぶことを決めました。
MD制度について知ったとき、すぐに「挑戦したい」と思いましたか?
迷わず選びました。入学時に受け取った資料に副専攻の冊子があり、それを見て制度を知りました。もともと社会学部にも興味があったため、「やってみよう」と思いました。
受験勉強はあまり好きではありませんでしたが、自分で考えてレポートにまとめることは性に合っていて、大学の学びをしんどいと思ったことはほとんどありません。
MD制度を利用して、たしかに単位数が多く大変でしたが、その分多くの授業を受け、充実した学びが得られました。
また、実際の進路は別の方向になりましたが、小学生の頃からアナウンサーを志望していて、テレビ局に関心があったので、社会学部でメディアを学ぶことは必須だという思いがありました。
MD制度を利用する際、不安はありませんでしたか?
アナウンサーの就職活動が2年生の2月頃から始まるため、単位の取得や人間福祉学部の卒論が重なることに対して、「本当に両立できるのかな」という不安はありました。
ただ、その不安があった一方で、履修を組むのはとても楽しかったです。
例えば、この授業は第13回目の授業で試験がある、この授業は第14回目に試験、これは学期末に試験があるから…と試験のタイミングをずらして授業を組んだりと、自分なりに工夫をしました。その結果、「この時期がすごくしんどい」ということは意外となかったです。
もちろん、テストが大変だと感じたこともありましたが、MD制度を利用したからから特別しんどかった、ということはあまりなかったです。
人間福祉学部と社会学部の学びの違いを教えてください。
人間福祉学部は、現場出身の先生が多いので、授業では「高齢者施設ではこういう状況」「児童養護施設ではこういう対応」といった具体的な話を聞くことができました。実際に薬物依存を経験した方が来てくださって、自助団体での取り組みについて話してくださることもあり、現場目線の授業が多かったです。
一方で、社会学部は、そうした社会問題がなぜ発生したのか、どのような仕組みで社会が成り立っているのかという視点で捉える学問です。つまり、社会学は「構造として捉える学び」、人間福祉学部は「現場として捉える学び」だと感じました。
先生や学生の雰囲気で違いを感じることはありましたか?
先生方の雰囲気は、2つの学部でかなり違うと感じます。
人間福祉学部の先生は、現場経験がある方が多いことも影響していると思いますが、「大学の先生」という印象はあまりなく、学生との距離がとても近いです。
先生によってはお母さんのような温かさを感じる方もいれば、小学校の先生のような親しみやすさを持つ方もいます。
社会学部の先生は、マニアックな方が多い印象があります。学問として新しい視点を与えてくれる、まさに「大学の先生」という感じの方が多いと思います。
私の所属ゼミの難波先生は、就活の相談にもとても親身になってくださり、大きく支えていただきました。一方で、研究が本当に好きなのだろうなという雰囲気も強く感じます。
また、人間福祉学部の学生は色で表すならオレンジや淡いピンクのような温かさがあります。
一方で、社会学部は黄色や蛍光オレンジのような明るさを感じます。
もちろん「優しい=人福」「優しくない=社学」というわけではありませんが、印象としては、人福は優しい雰囲気、社学は明るい雰囲気が強いと思います。学内でも、この二つの学部の雰囲気はかなり違うと感じます。
人間福祉学部にいた頃から、社会学部には「社ガール」という言葉があるくらい、キラキラしたイメージがありました。実際に入ってみても、その印象は変わらず、華やかさを感じます。
社会学部で学んで、どんな気づきや変化がありましたか?
人間福祉学部では、1年生の最初に必修授業でさまざまな社会問題を扱い、外部講師の方のお話を聞く機会がありました。そのとき、日本の現状の深刻さに圧倒され、個人的には「日本はもう無理だ」と絶望的な気持ちになったこともあります。
しかし、社会学部で社会の仕組みを学んだことで、「こういう部分を変えていけばいいのではないか」と希望を持てるようになりました。
人間福祉学部で問題の深刻さを知り、社会学部で「社会は変わっていく」「こういうふうに変わってきた」という視点を学べたことで、私の捉え方はポジティブになったと思います。
2つの学部で学んだことで、視野の広がりはありましたか?
はい。現場の視点と、社会全体を仕組みとして捉える視点は全く違うものだと感じました。現場だけを見ていても、どれだけ願っても社会の仕組みとしてうまくいかないことはたくさんありますし、逆に理論だけで「こうすればうまくいく」と言っても、現場ではそう簡単にいかないことも多いと思います。
まだ学部生レベルの学びではありますが、両方を学んだことで「どうにもならない部分」があることも見えてきました。それでも、現場でどうにかしようと活動している人たちがいることを知り、2つの視点を学んだからこそ、「本当にどうにもならないことはないはず」という思いを持つようになりました。
社会学部で現在、特に力を入れて学んでいる内容を教えてください。
現在は、メディア系の難波ゼミに所属し、卒業論文の執筆に取り組んでいます。卒論のテーマは、私が人材系の会社に進む予定であることも踏まえ、「ドラマにおけるハラスメントの描かれ方」を分析することにしました。
具体的には、ドラマで描かれるハラスメントの表現を比較し、その背景にある「ハラスメント」という言葉の意味を考察します。近年、「○○ハラ」という言葉が非常に多く使われていますが、厚生労働省などが定義するハラスメントの範囲よりも、社会ではずっと広い感覚で捉えられていると感じます。
その結果、働きにくさを感じる人が増えている現状もあり、これは良くない傾向だと思っています。そこで、「これからハラスメントという言葉はどう変化していくのか」を探りたいと考えています。
メディアは社会との関係性が深く、視聴者が望むものを描き、それが視聴率を通じて広がり、さらに社会に影響を与えるという循環があります。ドラマはその象徴的な存在であり、いくつかの作品を比較しながら、ハラスメントの描かれ方がどのように変化してきたのかを分析します。
そして、今後この言葉がどのような意味を持つのか、また適切に使われるためにはどうすべきかを、4年間の学びの集大成としてまとめたいと考えています。
これからの進路について教えてください。メディア業界から人材業界へ志望を変更された際には、どのようなきっかけや流れがあったのでしょうか?
もともとは本当にメディア業界しか考えておらず、夏や秋のインターンまではテレビ業界だけを受けていました。ただ、惜しいところまで進んで落ちることが何度か続いたとき、「少し視野を広げてみよう」と思うようになりました。
テレビ局に入れなかった時点で、自分の中で「就活に失敗した」という感覚がありました。そこから、メディア業界なら仕事に全力を注ぐつもりでしたが、違う業界ならワークライフバランスを意識した働き方もありだと思うようになりました。
「働くとは何だろう」と考え続ける中で、「人生は働くだけじゃない」と強く感じました。日本の働き方はとても真面目で、もちろん経済的には必要なことですが、働くことを生活を楽しむための手段の一つとして捉えられたらいいなと思うようになりました。そんな考えに共感できるキャッチフレーズを掲げていた人材会社に出会い、「こういう働き方の捉え方もあるんだ」と新しい視点を得ました。
就職活動で多くの失敗を経験する中で、自分が導き出した答えと、その会社の理念が一致していると感じたことが大きな決め手でした。さらに、社員の方々からもそれを実現しようとする姿勢が伝わってきたため、最終的にその会社への就職を決めました。
社会学部での学びや就活での経験を通して、これからの人生で活かせそうだと感じることはありますか?
「何を学びましたか?」と聞かれて言語化するのはとても難しいのですが、大学で改めて、最新の社会の流れや新しい考え方を学べたことは、社会に出る立場として「新しい風を吹かせられるのではないか」と感じました。
大学の学びと社会をつなぐことができるのは、これから社会に入っていく世代の役割だと思います。
こうした経験を通じて、自分の価値基準に大きな変化があり、新しい視点を得られたことが、社会学部で学んだ一番の成果だと感じています。
最後に、関西学院大学のMD制度を利用して学んできたことを、今後どのように活かしていきたいか教えてください。
どちらの学部の学びも、今後社会で生きていく中で頑張る源になったと感じています。現場で悩んでいる人がいて、社会にはこうした構造がある―その両方を知っているからこそ、現場の声を踏まえて社会をどう変えていくかを考えることが、私にできることだと思います。
現場だけを学んでいても、現場を良くすることはできても、社会全体を変えることや、人々の意識を変えることにはつながりません。社会学部での学びによって、視野がさらに広がったと感じています。
記事担当者の感想
明るく、フレンドリーな雰囲気で気さくにお話ししてくださる姿が印象的な乾さん。
2つの学部で学んだからこそ、視野を広く持ち、ポジティブに考えられるようになったというお話から、何事も一つの視点に固執せずに捉えることが重要だと改めて気づかされました。
春からは社会人になられるとのこと。失敗からも前向きに学びを得ようとする乾さんであれば、きっと多くの方に寄り添ったお仕事をされるのだろうと思います。これからも応援しています!