
学生 将来世代への協力行動に関する研究者をめざす
今回ご紹介するのは、次世代を担う優秀な若手研究者が選ばれる日本学術振興会「特別研究員」に採択された、社会学研究科博士課程後期課程1年の三木毬菜さんのインタビューです。
日本学術振興会「特別研究員」制度とは?
特別研究員制度は、独立行政法人日本学術振興会により行われている研究者養成事業の1つであり、優れた研究能力を有する大学院博士課程在学者(DC)及び修了者等(PD)で、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する者を「特別研究員」として採用し、研究奨励金を支給する制度です。
特別研究員への採用は、国から投資に値する人材であると認められたことになり、研究者として非常に高いステータスを得ることになります。
今回、三木さんが採択された特別研究員(DC1)の採用率は約14%で、まさに狭き門と言えます。
大学院への進学は、いつ、どのようなきっかけで考えられましたか。
元々は高知県にある高知工科大学の経済・マネジメント学群に所属しており、大学院への進学を考えたのは、学部2年の後半頃でした。
高校生のときは大学院の存在を認識しておらず、アニメやゲームに夢中で、自分が研究の道に進むなんて思ってもいませんでした。
きっかけは、就活のエントリーシートや面接で疲れちゃったなというときに友達が大学院に進むと言い出したことです。面白そうだと話を聞いていたら私もこちら側に来ていました(笑)。きっかけは逃避に近いものでした。
ただ、学部で学んでいた経済学と進化生物学、社会心理学がすごく楽しくて、もっと知りたかったですし、各分野の知見を数理で融合させて人間行動を分析してみたいという気持ちもあったので、指導教員に相談したのが最初だったと思います。
なぜ関西学院大学社会学研究科(前期課程・後期課程共に)に進学されましたか。
指導教員に数理を使って心理学をしたいと相談したときに候補に挙げてくださった進学先の一つが、関西学院大学社会学部の清水裕士先生でした。
清水先生のホームページや論文を検索して方法論に詳しいことやモデルを使って意思決定の研究をしていること、面談をしたことから清水先生の研究室に行きたいと思うようになりました。
また、社会学研究科は奨学金や研究支援制度が充実していることも決め手の一つとなりました。修士課程では教学補佐やTA(ティーチングアシスタント)などの学内バイトに支えられ、博士課程では2025年度から始まった博士課程の授業料実質無償化の制度に助けられています。
どのような研究に取り組まれていますか。その研究内容に興味をもったきっかけや研究の面白さ、魅力について教えてください。
SDGsなどを想像すれば分かりやすいと思いますが、将来の人たちのために人はどのように協力行動をするのかを研究しています。
協力行動とは、「コストを伴った、他者の利益になる行動」のことを指し、寄付や献血などがこれに当てはまります。つまり、将来の人への協力行動とは、「今を生きている私たちが何らかのコストを支払って、将来の人の利益になる行動」のことです。将来の人への協力行動の重要性は言説に留まらず、個人や企業、国家が実現に向けての実践をされている一方で、気候変動や海洋汚染などは深刻化し続けています。
ここで、「将来の人の環境を壊すべきではない」とか「将来世代は守るべき存在だ」というような規範意識(社会のルールを守ろうとする意識)を使わずに、人はどのように将来の他者への協力行動を生起させるのかを分析できることが私の研究の面白さです。
具体的には、他者への配慮として、「将来の人の便益に重みづけをする」変数のみを仮定した場合、その便益の重みに応じて人がどのように将来世代への協力行動を変え得るのかを、数式を使ったモデルと実験の両方で調べています。
モデルとは、複雑なものをあえて単純化した構造のことです。例えば、物理学では、摩擦係数をゼロと仮定することで、物体の運動の特徴が理解しやすくなりますよね。
様々な文化や価値観を持つ人が存在する社会をそのまま分析するのは大変です。そこで、社会のある側面を切り出すためにあえて単純な仮定をおくことで、その条件のもとでの人間行動の傾向を分析しています。
どういった時に研究のやりがいを感じますか。
研究のやりがいとはズレるかもしれないのですが、数理モデルを使って考えることで、言語的な推論だけでは導きにくい示唆(気づきやヒント)が得られたときに嬉しくなります。
また、議論の中で自分とは異なる視点からコメントを頂いたときには、新しいアイデアが浮かんでわくわくしますし、それをモデルに落とし込むとしたらどう表現できるかを考える時間がとても楽しいです。
大学院生の生活がどのようなものか教えてください。
大学院生の生活は人それぞれなのですが、私の場合は毎日院生室に行って、論文を読んだり書いたりしています。学会の準備をすることもあります。ただ、基本的には卒論を書いている学部生の生活と大きく変わらないように思います。
学部生の頃との違いがあるとすれば、研究会や学会に参加して学外の先生方とお話できる機会が多くなったことと、自分の研究の学術的・社会的な貢献を説明する機会が増えることだと思います。
前者については、他大学が取り組んでいる最新の研究動向が知れることは大変面白いですし、自身の研究発表を聞いて興味を持った方が議論してくださることは純粋に嬉しいものです。
後者については、学部生は研究領域への貢献などを考えてないというのではなく、大学院生になるとこの説明をより鋭くできる必要があるのかなと思っています。
日本学術振興会特別研究員(DC1)に採択されていますが、いつから申請を考えておられたのでしょうか。特別研究員になるまでの経緯を教えてください。
日本学術振興会特別研究員(以下、特別研究員)への申請は、大学院に進学すると決めて動き出していた学部3年生のときには考えていました。学費や生活費、研究費など何かとお金はかかるので、大学院進学を考えたときに色んな制度や奨学金を調べていました。
生きていくために絶対に採択されるんだ!という気持ちで関学に入学したのを覚えています。
特別研究員採択までに関西学院大学院や社会学研究科の支援で役立ったものはありますか。
特別研究員の申請書の作成は指導教員と相談をして進めました。私の場合は、指導教員と先輩、大学院の環境のすべてが恵まれていたと思います。
風通しのよい研究環境の中で、特別研究員の制度の説明や特別研究員に採用された先輩方・先生方から申請書の書き方のアドバイスを受けることができました。また、社会学研究科は図書館に近いので文献を取りに行きやすいですし、院生室は集中できる環境でした。
あわせて、社会学研究科は修士論文作成合同演習という学術論文執筆の基礎力を身に着けるための科目があり、そこでご指導いただいたことは大きな力になりました。
他にも、社会学研究科はGSSPという大学院生サポートプログラムがあり、その中で研究代表者として学内外の方と調整して研究会を企画したり、KG社会学批評という院生が発行する刊行物に投稿できたりしたことで自身の研究実績を積み重ねることができました。
※共同研究会参考・・・共同研究会|社会学研究科|関西学院大学
※刊行物参考・・・刊行物|社会学研究科|関西学院大学
今後は現在の研究をどのように発展させていきたいでしょうか。目標などあれば教えてください。
博士課程では、目の前の研究課題を一つずつ取り組むことを大切にしたいと考えています。まずは現在取り組んでいる研究を論文としてまとめ、学術的な形で発信することが直近の目標です。その過程を通じて、自身の研究テーマである、将来世代への協力行動について、どのような問いを立て、どのように発展させていけるのかを明確にしていきたいと考えています。
修了後、大学や大学院での学びを生かしてどのように活躍していきたいと考えていますか。
修了後はアカデミアの世界に残って、将来世代への協力行動の研究者として生きていきたいです。大学院で専門性や数理的な技能を身につけ、社会に還元できるような信頼性と頑健性の高い研究をしたいと思っています。
また、学部時代と大学院の指導教員の先生方のように、研究に真摯に取り組むと同時に、学生が研究を「面白い」と感じられるような教育ができる大学教員になりたいと考えています。
記事担当者の感想
毎日院生室で研究に向き合い、論文の読み書きに真摯に取り組まれているというお話からも、研究者としての熱意が伝わってきました。
こうした地道な積み重ねが、今回の特別研究員採択につながったのだと感じました。
三木さんは、実際にお会いすると明るく朗らかで、とても柔らかな雰囲気をお持ちの方でした。その穏やかな人柄と、研究内容の鋭さとのギャップには思わず驚かされました。
特別研究員として採択された今後、研究者としてますますご活躍されることを心より願っています!