2019.06.28.
第1回手話学コロキアム(研究講座)を開催しました

去る6月16日(日)「言葉の森にでかけよう」と題し、2019年度第1回目の手話学コロキアムを開催しました。このコロキアムは、手話言語を取り巻く様々なテーマについて、いずれは自分で研究してみたいというモチベーションを持っていただくことを目的にしています。まずは、どのような研究があるか、その醍醐味や重要な点は何かを手話に限らず講師からお話をいただきます。今回のテーマは「フィールドワークによる言語の研究」です。心配された雨も降らず、当日は16名の方々がご参加くださいました。
 今回の講師は、国立民族学博物館の菊澤律子先生と相良啓子先生。音声言語と手話言語のフィールドワーク研究についてそれぞれお話をしていただきました。

フィジーの「川」のイメージについて

フィジーの「川」のイメージについて

まず、菊澤先生から「フィジー語の森に出かけよう!-「ことば」と「場」と「担い手」と-」というタイトルで、太平洋の島々で行なっている音声言語の言語調査の様子などのご講演がありました。先生のお話では、世界にはおよそ7000の言語があり、その中には教授法のない言語も多く存在しているそうです。

現地のかごを手に取り解説

現地のかごを手に取り解説

そのような言語を調査する手法であるフィールドワークでの、言語の記述について具体的なお話がありました。例えば、フィジー語で「私たち」という言葉には6種類もあるそうです。それらの意味を的確に把握していくためには、他の言語の使い分けの知識が役に立つとのことでした。そして、対象となる言語を使えるだけではなく、収集したデータを分析する力が必要であり、そのためにはろう者・聴者問わず研究に関心を持つ者が専門的にトレーニングを受けられる環境が必要であると述べられていました。最後に、自分の言語や国にはない経験、予期しない困難を解決していくこと、人との関わり、対象社会およびその社会を超えた貢献などフィールドワークの様々な魅力についてお話しくださいました。

語彙収集で用いるゲームの紹介

語彙収集で用いるゲームの紹介

次に、相良先生からは「手話の森にでかけよう-ろう者による言語のフィールドワーク-」というタイトルで、ご自身がろう者の研究者である立場からフィールドワークのご経験をお話しいただき、後半では、参加者によるグループディスカッションもありました。前半のお話では、イギリスのセントラル・ランカシャー大学で手話の類型論の研究に出会い、研究者となっていったご自身の経験や、データ収集にあたって協力してくださる方との信頼関係や同意書を取ることなどフィールドワーク研究の留意点や研究倫理についてのお話がありました。また、ご自身の手話の類型論に関するフィールドワークについてもお話しいただき、数や色彩、親族名称の語彙を引き出すゲームについて、実際の映像を交えながらご紹介いただきました。

参加者によるグループディスカッションの様子

参加者によるグループディスカッションの様子

後半には、参加者が3つのグループに分かれ、フィールドワークで数、色彩、親族名称の語彙を調査する際に、対象者から語彙をどのようにすれば効果的に引き出せるか等、話し合いを行ないました。

菊澤先生、相良先生、素晴らしいご講義とワークショップをありがとうございました。また、手話通訳の皆さん、長時間にわたる情報保障お疲れ様でした。
 最後に、ご参加された皆様に感謝申し上げます。第2回のコロキアムは10月に予定しています。詳細が決まりましたら当センターのホームページやSNSでお知らせいたします。また、お会いしましょう。