社会学研究科のススメ_電子書籍版
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稲いな津づ 秀ひで樹き三さん藤とう 祥しょう子こ 私が社会学研究科の博士後期課程に進学したのは、2008年4月のことでした。気づけば、そこから10年以上の月日が流れたことに驚かされます。私にとって本研究科の魅力的だった点は、個人研究を進める上での教育支援環境が充実していることのみならず、大学院生間で共同研究を愉しむ文化をつくる、まさにそのプロセスに参加できたことにありました。 これを振り返る上でも、2008年という年は研究科にとって大きな転換期を迎えた年だったように思えます。当時21世紀COEプログラムを終えたばかりの研究科は、ポストCOEの全学事業として「先端社会研究所」を開設。そこに大学院GPプログラムの採択も後押ししながら、「東アジアのストリートの現在」をはじめとする院生の共同研究活動が始まりました。そこでは若手研究者や他大学の院生、大学外のゲストを交えた公開研究会や研究合宿の開催に加え、中国やネパール、そしてオーストラリアといった海外の大学院との研究交流も行われていきました(今の『KG社会学批評』に続く院生書評誌が刊行され始めたのもこの頃でした)。 研究科の研究・教育体制がこうした変化を迎える中で博士課程を 社会学研究科に入学したのは、27歳の時です。地元の四年制大学を卒業後、4年間働いた会社を辞めて進学しました。もともと進学希望はあったので、チャレンジするなら早い方がいいだろうと、あまり悩まずに決めてしまいました。 社会学研究科は、研究をするにはとても良い環境が整っています。費用面のことなど心配な点はありましたが、学費全額相当額、あるいは半額相当額を支給される奨学金制度(返還不要)や授業の補佐、学部行事や学部学生の教育支援の補助業務をしながら研究できる教学補佐制度(給与あり)など、研究生活を支える様々な支援を受けることができます。 社会学研究科には、研究職を目指す人もいますが、私の同期の多くは博士前期課程修了後に民間企業に就職しています。私も入学時から博士後期課程には進学しないと決めていたので、同期とともに二度目の就職活動を始めました。 就職活動中はたびたび「なぜ仕事をやめてまで大学院に進学したのか」と聞かれました。 私は、「自分の研究が社会の役に立つように」とか「就職の役に立つように」とは考えておらず(結果として役に立つのは素晴らし過ごさせてもらったことは、色々ありましたが、個人的にとてもヨカッタと思っています。院生室をはじめ様々な場所で研究会や書評誌(ひいては互いの修論や博論の悩みなど)について語らうことは、一院生としてとても充実した時間でした。そうして個人の問題関心を踏まえた社会的な問いを見出し、それを時に国境も越えた様々な立場から探究することの「面白さ」を学ばせて頂いたと思っています。 2017年4月より鳥取大学地域学部に職を得ることができました。そこでは地域学研究会という研究会の一幹事として、学部共通の「地域学」講義をはじめとする、教員・学生・住民を交えた研究・教育の機会づくりに携わっています。地域という現場も社会と同様、様々なアクターや力が競合しあう空間ですし、その内実を学問する上での見方と距離も、立場で大きく異なります。本研究科での学びから得られた共同研究を愉しむ構えは、社会学のディシプリンに留まらない諸学との、ひいては近代的科学観では捉えきれない地域の知識体系との日々の対話の中で、今も生かされています。いことですが)、自由に好きなことを研究していました(それができるのも関学の魅力だと思います)。それでも、興味のあることを思いきり研究できたということ、自分なりに苦しんで修士論文を書き上げたことは大きな自信になりましたし、その過程で得た経験は私をより柔軟で前向きな性格に変えたと思います。就職活動では、研究内容よりもその経験が魅力的に伝わるように話しました。 現在は、地元熊本で県職員として働いています。配属当日に熊本地震が発生し、「いつも通り」が分からないまま「例外的な対応」を求められ、1年目はあっという間に過ぎていきました。入庁3年目の今年は、条例改正や歳入予算の取りまとめ、広報等の仕事をしています。 現在の業務は、研究とは直接関係ありませんが、仕事の進め方や物事の見方などは、社会学研究科での経験が大いに役に立っています。公務員の仕事は、ルールに従った、型にはまった仕事だと思われがちですが、一方で自由で柔軟な発想と前向きな行動力が求められる仕事でもあります。 大学院への進学を迷っている人がいれば、ぜひ前向きに考えてもらいたいと思います。55鳥取大学地域学部 准教授社会学研究科社会学専攻博士課程後期課程2010年3月 満期退学2013年3月 博士学位取得熊本県庁社会学研究科社会学専攻博士課程前期課程2014年3月 修了

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