社会学研究科のススメ_電子書籍版
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森もり 久く美み子こを持って研究を進めてきました。血縁関係のない他者とも幅広く協力関係を築くことは人間に特徴的に見られる現象ですが、なぜそのようなことが人間に(のみ)可能となったのかについてはまだよくわかっておらず、さまざまな分野で盛んに研究がなされているところです。私は信頼や共感が状況認知を介して協力を促す仕組みについて、実験ゲームを用いた行動実験によって検討してきました。関連して、自閉症スペクトラムなどの発達障害児者の社会的意思決定過程についての実験研究も行いました。 このような研究をする中で、関心は不確実状況での意思決定過程全般へと広がっていきました。それは以下のような経緯によります。他者との相互依存場面での意思決定は、自己の決定のみによって結果が決まるわけではなく、自己と他者の決定の相互作用により結果が決まります。相手の出方が完全にはわからない中で自身の態度を決めねばならないという状況は、社会的な不確実性を含む状況といえます。しかし、「相手がどう出るかわからない」という社会的不確実性が持つ意味は、「当選番号がわからない中で宝くじを買う」「雨が降るかどうかわからない中で傘を持っていくかどうか決める」といった非社会的な不確実性とはどのように違うのでしょうか。社会的意思決定における「社会性」の内容を明らかにすることは、「人間とは何か」「他者とは何か」という根源的な問いの答につながる問題だと思います。また、不確実状況下での意思決定は人間が日常的に直面しているものであり、消費者行動やリスク・コミュニケーションなど、現実場面での実践にも応用しやすい研究テーマであると思います。応用的なテーマとしては、寄付や献血のような利他行動の促進や、歩きスマホなどの非規範的行動の抑制にも関心を持っています。 大学院のゼミ運営においては、上記のような担当教員の専門分野に縛られる必要はないと考えており、基本的にはまず院生個人の研究関心を尊重します。ただ、研究テーマあるいは研究手法のどちらかの点で教員の関心と一部オーバーラップするような形の方が生産的だと思いますので、指導の中でできるだけそのような接点を見つけていきたいと考えています。自身の研究関心と同時に教員の研究にも関心を持って積極的に参加していただける方を歓迎します。大学院ゼミでは、研究領域に関連する先行研究についての議論、データ収集および論文執筆に必要なスキルの習得、収集したデータの分析と解釈についての議論などを行い、平行して論文執筆を進めます。各自の進行状況に応じて、文献紹介や作成した実験計画、データの分析結果などを持ち寄り、議論しながら論文完成に向けてブラッシュアップしていきます。研究方法としては実験室実験や質問紙調査が多くなるとは思いますが、できるだけ多様な測定方法を併用することが重要だと考えています。そのため、各自が研究目的に応じた手法を独自に取り入れることも積極的に支援したいと思っています。のジレンマを用いた実験研究による検討』風間書房.森久美子, 2009. 「行動的ゲーム理論から考える」坂上貴之編『意思決定と経済の心理学』朝倉書房, 169-187.森久美子, 2009. 「迷惑の生成と受容過程―列車内での携帯電話マナーに関する意識の変遷から」吉田俊和・斉藤和志・北折充隆編『社会的迷惑の心理学』, ナカニシヤ出版.森久美子・行廣隆次, 2011. 「協力的意思決定過程における相手の行動推論と相互協力選好の役割」『認知科学』, 18, 127-137.森久美子, 2018. 「行動実験による態度測定―社会心理学における態度研究への基礎心理学の貢献」『基礎心理学研究』, 36, 222-229.ス(researchers.kwansei.ac.jp/)より検索していただくことが可能です。47 研究・教育内容 大学院生時代から、「人はなぜ協力するのか」ということに関心 代表的な著書・論文等森久美子, 2006. (単著) 『社会的交換における協力生起過程―囚人 研究紹介のホームページなど追加情報ホームページは設けていませんが、関西学院大学研究者データベー専門分野・キーワード⃝社会心理学⃝協力⃝社会的意思決定⃝規範的行動教授

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