社会学研究科のススメ_電子書籍版
46/62

研究紹介のホームページなど追加情報 ウェブサイト(http://k-inamasu.net/)やTwitter(@k-inamasu)稲いな増ます 一かず憲のり右・左、保守・リベラルといった枠組みが当たり前のように使われていますが、このような枠組みに基づき政治を理解する人は少数派です。また、常日頃から政治ニュースを追いかけ集団的自衛権・金融緩和といった用語を理解する人も多くありません。このように政治の専門家たちと一般有権者の間には乖離があり、後者が多数派であるにも関わらず、少なくとも私から見ると、政治学における有権者の行動の研究は専門家の視点を当然と捉え過ぎているように思えます。そこで私は、政治専門知識やそれを獲得する動機づけを持たない一般有権者が、どのような手段で政治情報を入手し、政治をどのように捉えているのかについて、大学院生時代から継続して研究を行っています。私が依拠する学問分野は社会心理学ですが、政治家などの特殊な個人に注目するのではなく人間一般が持つ傾向を明らかにすることを目的とする社会心理学は、上記のRQと相性が良いと考えています。 また、関西学院大学への着任以来、メディア・コミュニケーション研究も大きな研究の柱となっています。メディア・コミュニケーション研究の中でも、主に計量的手法を用いてメディアへの接触が人々にもたらす効果を検証する分野はメディア効果論と呼ばれますが、現在この分野は2つの大きな問題を抱えているように思えます。1つは、とくにインターネット普及以降の研究が整理されておらず、専門外の人が知見を扱いにくいことです。他分野や学界以外からの需要や期待はあることを考えると、この現状は勿体ないことであると考え、現在、自分なりの視点でメディア効果論をまとめる仕事を行っています。2つ目は、メディアへの接触の測定法が研究ごとに異なっており、測定法の違いがもたらす影響に無自覚なまま、効果が検証されているということです。測定のための道具に大きな欠陥があっては、効果の有無を正確に判断することはできません。分野の発展には測定法の向上が不可欠と考え、この課題に取り組んでいます。 大学院生の指導においては、院生が私の研究テーマに囚われ過ぎることは研究者としての自立を妨げる可能性があるため、社会心理学の研究室の多くがそうであるように院生自身のテーマを尊重します。一方で、共同研究の実施にも、先端的な研究に触れる機会となる、データ取得や発表において金銭的な支援を行いやすい、研究業績を上げやすいといった院生にとってのメリットがありますので、院生自身の研究と私の研究の間に何らかの接点が見つかれば共44同研究も行いたいと思います。博士後期課程に進学するのであれば、自身のテーマと教員との共同研究として行うテーマの2つを持つことが理想的かもしれません。研究手法としては、私自身は量的社会調査やサーベイ実験を用いる場合が多いですが、実験室実験、内容分析、質的面接調査等をその時々の研究対象に合わせて使い分けています。院生にも、研究テーマに合わせて複数の手法を使い分けられるよう、在学中に複数の手法を修得し実践する機会を提供したいと思います。大学院のゼミは、院生が調査・実験の計画やデータ分析の結果などを持ち寄り、教員や他の院生がコメントを行うリサーチ・ミーティング方式で行います。なお、2コマある大学院のゼミの時間のうち1コマは、清水裕士先生の研究室と合同で開催しており、教員2名に他専攻の院生等も加えて大学院生の発表に対してアドバイスを行っています。選好に基づくもうひとつの選択的接触」『社会心理学研究』, 31, 172-183.稲増一憲, 2015, (単著)『政治を語るフレーム─乖離する有権者、政治家、メディア』東京大学出版会.Kobayashi, Tetsuro & Inamasu Kazunori, 2015, “The Knowledge Leveling Effect of Portal Sites.” Communication Research, 42, 482-502.稲増一憲, 2011, 「世論とマスメディア」 平野浩・河野勝編 『新版アクセス日本政治論』日本経済評論社, 117-142.稲増一憲・池田謙一, 2009, 「多様化するテレビ報道と、有権者の選挙への関心および政治への関与との関連:選挙報道の内容分析と大規模社会調査の融合を通して」『社会心理学研究』, 25, 42-52.においても、研究室に関わる情報を発信していますので参考にしてください。また、私自身および研究室に所属する大学院生は、関西学院大学社会心理学研究センター(https://www.kg-rcsp.com/)や、政治コミュニケーション研究会(https://sites.google.com/site/tomoyayokoyamalab/polcom)等の場を通じて、他分野や他大学の研究者とも研究交流を行っています。 研究・教育内容 政治討論番組や論壇誌などでは、政党や政治家を分ける軸として、 代表的な著書・論文等稲増一憲・三浦麻子, 2016,「「自由」なメディアの陥穽─有権者の専門分野・キーワード⃝社会心理学⃝メディア・コミュニケーション研究⃝政治心理学⃝世論研究教授

元のページ  ../index.html#46

このブックを見る