社会学研究科のススメ_電子書籍版
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渡わた邊なべ 勉つとむ業経歴という側面から、明らかにすることにあります。その際、「社会的不平等」という観点に立って、研究を進めています。また近現代日本社会にとって、アジア・太平洋戦争は、社会や人々に対して大きな影響を与えているため、戦争に焦点を当てた研究もおこなっています。 具体的な研究は、社会調査データのデータ分析によっておこなっています。日本の社会調査データには蓄積があり、例えば日本の代表的な社会調査である社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)を利用すると、1890年代(大日本帝国憲法が発布され、日清戦争をしていた頃)から2015年までの人々の職歴、つまり約120年もの期間の市井の人々の生活を、部分的にですが、知ることができるのです。 ところでこれまで私は、社会運動、地域社会、社会階層といったテーマで研究をしてきました。テーマをいろいろと変えていて、かなり飽きっぽいと言えるでしょう。ただ、それぞれのテーマについて、一貫していたのは主として数理的、計量的方法を使った研究(数理社会学、計量社会学)をめざしていたということであり、数学という言葉を使って、厳密に分析したいと考えてきました。 社会階層、特に、職業経歴に関心を持つようになったのは、1995年におこなわれた社会階層と社会移動全国調査に、幸運にも参加したことにあります。調査に参加したものの、統計手法もよくわからず、統計ソフトも使えない中で、少しずつ分析をしていきました。最初は、正直おもしろくありません。当然です。できないのですから…。しかし、少しずつ分析を重ねていく中で、だんだんとおもしろくなってきました。厖大な単なる数字の羅列に過ぎなかったデータから、人々の生き方が見えてくるような気がして、さらには戦後の日本社会全体が感じられるような気がしてきたからです。 職歴に関心を持っているのも、人々の人生から社会を描いてみたいという思いがあるからです。1890年代から2015年までの人々の職歴から人生を描き、例えば戦争によって、人々の人生はどれほど翻弄されてしまったのか、戦後の混乱期の中で、人々はどうやって逞しく生きてきたのか、高度経済成長期は? バブル期は? …人々はどうやって生きてきたのだろう。会ったこともない人々の人生を、計量という方法によって紐解いていくことで、日本社会がどのような社会であったのかを知りたいと思っています。 ゼミは、参加する学生によって内容が変わることもありますが、まずは学位論文の執筆に向けた研究を進めていく必要があるので、研究報告をしてもらい、互いに議論していきます。その上で、社会階層や不平等にかんする研究論文の講読をすることが多いです。ただ参加する学生の能力、研究関心によって変更しています。例えば計量分析の素養がある学生の場合には、専門的な計量研究を講読します。必ずしも計量分析の素養が十分でない学生のときは、計量分析の方法を、実習を通じて習得していくこともあります。さらに、大学院に入学した当初は計量研究をするつもりであったけれども、あるいは不平等に関心があったけれども、その後研究を進めていく中で、インタビュー調査を中心とした事例調査へ、あるいは不平等から別のテーマへと変更した学生には、学生のニーズに応じたゼミをおこない、指導しています。ちなみにこれまで指導してきた学生は、職業(職歴を含む)、家族、教育に関する不平等(日本、中国など)を研究テーマにすることが多かったといえます。『2015年SSM調査報告書6 労働市場Ⅰ』(2015年SSM調査研究会).渡邊勉, 2017,「階級・階層」盛山和夫他編『社会学入門』ミネルヴァ書房所収.渡邊勉, 2017,「兼業するシングル女性たち」『生活経済政策』250.渡邊勉, 2014,「誰が兵士になったのか(1)(2)」『関西学院大学社会学部紀要』119.渡邊勉, 2011,「職歴からみる雇用の流動化と固定化:職業経歴の多様性」石田浩他編『現代の階層社会2 階層と移動の構造』東京大学出版会所収.ては,HPがあります.http://www.l.u-tokyo.ac.jp/2015SSM-PJ/43 研究・教育内容 私の現在の研究関心は、近現代日本社会の特徴を、主として職 代表的な著書・論文等渡邊勉, 2018,「近現代日本の職業経歴の時代的変化」阪口祐介編 研究紹介のホームページなど追加情報 1995年から参加している社会階層と社会移動全国調査につい専門分野・キーワード⃝社会階層論⃝職業経歴⃝計量歴史社会学教授

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