社会学研究科のススメ_電子書籍版
44/62

長なが松まつ 奈な美み江えおいて不平等が生じているのか、ということです。現在、日本は「格差社会」になったと言われて久しく、社会における様々な不平等や格差の存在が指摘されるようになっています。しかし、いつの時代でも、どのような社会でも、何らかのかたちでの不平等は存在していたのであって、現在の社会が突如として不平等な社会になったのではありません。私は「働くこと」によって生まれる不平等に焦点を合わせ、私たちの社会における不平等はどのようなかたちをしており、どのような要因によって影響を受けて、今後どのように変化していくのかを研究しています。 私の現在の研究課題は、主に以下の2点です。第一に、社会調査データの計量分析によって、労働条件の不平等の実態を研究しています。たとえば就いている職業によって、労働時間や賃金、福利厚生、非正規雇用へのなりやすさなどは大きく異なります。近年、多くの国で所得格差が拡大し、不安定な雇用が増加するなど、「仕事の質」が悪化しているのではないかという関心が高まっています。この変化の背景にあるのが、脱工業化の進展です。生産のグローバル化や技術革新によって製造業での大量雇用が失われ、第三次産業従事者が増加しています。産業構造や職業構造が変化しており、このことが労働条件を大きく変化させています。私は「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」などの全国規模の量的社会調査や公式統計を利用して、どのような要因によって「仕事の質」が差異化されているのかを分析しています。 私の第二の研究課題は、地方自治体における就労困難層への就労支援施策の研究です。現在、日本における多くの地域は工場の撤退による雇用の減少、雇用の不安定化、家族の不安定化、少子高齢化などの課題に直面しており、そのなかで生活と就労の面で不安定性に直面する人びとが増加しています。地方自治体による生活困窮者支援が始まっていますが、人的資源や地域の社会資源の不足などにより、多くの自治体が制度構築に様々な困難を抱えています。多くの国で実施されているアクティベーション政策の動向に目を配りながら、日本の各自治体における就労支援施策の展開について調査を実施し、施策を発展させるうえで必要な条件を考察しています。 大学院生の指導においては、階級・階層研究、不平等研究、計量分析という大きな枠組みのなかで、院生自身のテーマを尊重します。少人数体制なので、大学院生が自身のテーマについて発表し、42コメントをもらう機会を多く設けます。大学院時代は、研究テーマについて学ぶことはもちろんのこと、時間をかけて方法論を体系的に修得できる貴重な期間です。近年は、パネル調査や公式統計など様々な形式のデータ活用にともない、新しい計量分析手法が開発されています。私の研究課題および大学院生の関心にしたがって新しい計量分析手法を取り上げ、ゼミのメンバーとともに勉強し、それを修得するための機会を作ります。また、大規模な社会調査データは他の研究者と共同して実施することがほとんどなので、関心があれば、私が所属している社会階層研究およびアクティベーション施策に関するいくつかの共同研究に参加してもらいます。「仕事の質」に注目して」,『日本労働研究雑誌』No.666: 27-39.Nagamatsu, Namie, 2015, “Inter-Industry Wage Differentials in Japan: Evidence from Quantile Regressions,” KWANSEI GAKUIN UNIVERSITY SOCIAL SCIENCES REVIEW, vol.19: 25-50.数理社会学会(監修), 筒井淳也・神林博史・長松奈美江・渡邉大輔・藤原翔(編集),2015, 『計量社会学入門―社会をデータでよむ』世界思想社.長松奈美江,2014,「連携によってつながる支援の輪―豊中市における生活保護受給者への就労支援」筒井美紀・櫻井純理・本田由紀(編著)『就労支援を問い直す―自治体と地域の取り組み』勁草書房,143-159.長松奈美江,2011,「長時間労働をもたらす「不平等」な条件」 佐藤嘉倫・尾嶋史章(編)『現代の階層社会1―格差と多様性』 東京大学出版会,97-111.ています。 研究・教育内容 研究を始めた当初からの私の問題関心は、なぜ私たちの社会に 代表的な著書・論文等長松奈美江, 2016, 「サービス産業化がもたらす働き方の変化― 研究紹介のホームページなど追加情報私のウェブサイト(http://n-namie.com/)にて、研究業績等を紹介し専門分野・キーワード⃝階級・階層研究⃝労働条件の不平等⃝脱工業化と仕事の質⃝計量分析⃝地方自治体における就労支援施策准教授

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る