中なか野の 康やす人ととするフリーソフトウェア運動に興味を抱き、研究環境を全てフリーソフトで構築することがながらく実益を兼ねた趣味でした。その中で、R というデータ分析環境に出会いました。90年代後半から社会調査データをRで分析する環境づくりとその普及にも取り組んできました。最近では、国外でRによるテキストマイニングの講習会を開くことが多くなりました。 大学院ゼミでは、⑴分析手法の修得、⑵各自の研究報告、という二本立てで運営しています。⑴については、参加者の研究に必要な分析手法について教科書の通読による原理の修得と実際のデータ分析による技法の修得を目指します。⑵については、参加者の研究で使用するデータの準備とその分析について、共有して改善を試みます。計量的な研究は、データ分析そのものも重要ですが、そこに至る過程でデータを準備する(調査を実施する、データを分析可能な状態に整形する)ことにコストがかかります。全体を通して、参加者全員がアイディアを出しながら、Rを中心とした計量分析の作業をワークショップ的に進めていきます。・中野康人, 2004, 「三人集団の形式 ―ジンメル小集団論と提携形ゲーム」, 『社会学の古典理論 -数理で蘇る巨匠たち- 』, 三隅一人編, 勁草書房.・中野康人, 2010, 「読者投稿の記述的計量テキスト分析 -「声」と「気流」-」,『関西学院大学先端社会研究所紀要』, 2:43-57.・中野康人, 2012, 「景観評価と地域移動 ―安曇野市景観意識調査の分析―」,『地域ブランド研究』, 7:19-31.・中野康人, 2017, 「“Environment and Behavior”の計量書誌学的分析」,『関西学院大学社会学部紀要』126, 1-11.41 研究・教育内容 「社会的ジレンマの研究」というのが学部卒業論文のタイトルでした。爾来、人々が集まることによって生じる秩序、というのが今日までの一貫した研究テーマです。大学院では行動科学という名前のついた研究室に所属していたこともあり、行為者の意識と行動から問題にアプローチしていく、という方法も四半世紀間変わらないハビトゥスでしょうか。当初は、ゲーム理論やコンピュータシミュレーション(今でいう Agent Based Model)などの抽象的な取り組みと、調査票調査のデータ分析による具体的な取り組みを並行しておこなってきましたが、博士論文を書く頃には後者が研究の中心となりました。環境問題を社会的ジレンマの一事例として捉え、環境配慮行動の促進要因を探る調査票調査のデータを計量的に分析するという研究です。仙台市民を対象にした環境配慮行動の調査は数年おきに今でも継続して実施しています。仙台では「ごみ」に関する環境問題が主要なテーマですが、主観的な「景観」に関する調査を、西宮市、安曇野市、キルティプル市(ネパール)で実施してきました。 初めて調査票調査の実査に関わった時は、「回収率が80%を超えないとまともな調査ではない」と言われていました。ところが、社会調査の実施環境は年々悪化し、今では回収率が10%や20%であることも珍しくありません。また、無作為標本に基づく推測統計、という分析枠組み自体も絶対的なものでは無くなってきました。そのような現状をふまえ、標本調査以外のデータ利用や調査データの二次利用と再現可能性の向上というテーマに関心を抱くようになりました。前者については、様々な媒体に残された「テキストデータ」を計量的に分析するという取り組みです。継時的に蓄積された新聞記事データの分析に始まり、現在では国会議事録の分析に取り組んでいます。国会議事録の分析については、国外の研究者と共同して複数の国の議事録を同一テーマで分析するプロジェクトになっています。後者については、社会調査データの「規格化」を目指す取り組みです。調査企画、調査票、データ、分析結果など、社会調査の Data Life Cycle の全てにおいて統一的な規格を整備し、調査の実施・共有・再現の効率化を図るものです。具体的には、DDI(Data Documentation Initiative)という規格を援用し、R における社会調査データの統合分析環境を提供することを目指しています。 Rとは、データ分析のためのソフトウェアの名前です。データ分析をする上ではコンピュータとソフトウェアの利用が不可欠です。自由がもたらす秩序、という研究関心から GNU project をはじめ 代表的な著書・論文等・SHICHIJO, Tatsuhiro and NAKANO Yasuto, 2002, “Properties of Learning Models in Collective Action: Rationality of Backward-looking Players,” Journal of Mathematical Sociology, 26:57-69. 研究紹介のホームページなど追加情報http://www.soc-nakano.net/専門分野・キーワード⃝計量社会学⃝多様な社会調査データの分析と 視覚化の技法⃝秩序と規範の行動科学教授
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