金きむ 明みょんす秀教授は、「在日コリアンの民族性とはなんだろう」というものでした。多くの在日コリアンが成長過程で直面する問いなのですが、ぼくが研究を志した当時はまだ学術的には研究の対象とされていませんでした。在日のエスニック・メディアではさかんに論じられていましたが、論者によって主張することがまったく違うし、にもかかわらず誰も主張の根拠を調査によって確かめようとせずに、ただいたずらに激しく議論を闘わせるだけという状況だったのですね。この問題に誰も学術的に取り組もうとしないのなら自分がやってみよう、議論の係留点となるようなエビデンスを提供しよう、そう考えて研究者の道を志しました。研究のアプローチとして量的手法を用いてきたのも、すこしでも多くの反証可能性を確保したいと考えてのことです。 もう一つ、大学院生のころに抱いたリサーチクエスチョンがあります。「在日コリアンは民族的な差別や不平等をどうやって克服しているのだろう」というものです。マイノリティが置かれた社会経済的な不平等は「民族的階層化」と呼ばれる研究テーマで、世界的にはたくさんの先行研究がありました。というより、社会階層論の中心的なテーマといっても過言ではないほどなのですが、なぜか日本には研究例が一つも存在しなかったのですね。こちらも、だったら自分でやればいいやということで、社会階層の民族間比較についても研究を始めました。 「三つ子の魂」というわけでもありませんが、それ以後、現在までエスニシティ、ナショナリズム、差別意識などの社会意識について統計解析を駆使しながら正体を明らかにする計量社会意識論と、社会的不平等の実態とその克服プロセスを量的に特定する社会階層論に取り組んでいます。 大学院のゼミは、主として計量社会意識論の技法と問題設定を学びながら、各学生の関心に合わせて研究発表をしたり、データ解析の妥当性について議論したりします。同じデータでも、切り口や分析モデルによってまったく異なる様相をあらわにしますので、ゼミでは実践的に討議をしながら、可能なかぎりバイアスが少ないようにデータを要約するためのスキルを習得します。学出版会40金明秀,2015,「日本における排外主義の規定要因―社会意識論金明秀,2016,「ヘイトスピーチ問題の構成過程─3.11以降の金明秀,2018,(単著)『レイシャルハラスメントQ&A』解放出版http://han.org/blog/ツイッター https://twitter.com/han_org社のフレームを用いて―」『フォーラム現代社会学』14巻運動が可視化させたもの」『支援』6号、生活書院 研究・教育内容 大学院時代、ぼくの研究の出発点となったリサーチクエスチョン 代表的な著書・論文等福岡安則・金明秀,1997,『在日韓国人青年の生活と意識』東京大 研究紹介のホームページなど追加情報ブログ「Whoso is not expressly included」にエッセイ記事群専門分野・キーワード⃝エスニシティ・ナショナリズム⃝社会意識論⃝社会階層論
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