社会学研究科のススメ_電子書籍版
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三み浦うら 耕こう吉きち郎ろうは、修士論文や博士論文の完成をめざします。指導の方針としては、まずは、「社会学的な問いの深化」ということを第一におきながら、フィールドから得られたデータの分析や解釈、当事者視点と研究者視点のすり合わせ、フィールドに存在する論理の言語化、研究テーマの明確化、論文の構成の体系化、論文の論理展開の精緻化、社会問題の解決への寄与、論文の投稿先、等々といった点について適宜、アドバイスを行っていきます。 なお、ご参考までに、これまで私が指導した院生の博士論文の題目の一部を以下にあげておきます。「介助現場の社会学 身体障害者の自立生活と介助者のリアリティ」「路上コミュニティの仲間たち 野宿者と支援の社会学」「『ひきこもり当事者』の社会学的研究 主体から問う『ひきこもり』と社会」35 研究・教育内容 私は、研究者として歩み始めた院生の頃には、民衆思想・民衆文化・近代化・環境問題といった領域に興味をもっていました。大きな転機は、35歳のときで、縁あって「部落生活文化史調査」に参画したことにはじまります。それまでは、主として理論的な研究に軸足をおいていたのですが、それ以降は、二ヶ月に一回くらいの割合で、被差別部落へ通ってインタビューやフィールドワークを行うようになりました。そこで得た学問的直感は、現場にこそ部落差別を解明するための理論があるということでした。理論は、書物やアカデミズムにあり、データは、現場にあるという、私の思い込みが吹き飛ばされたということです。そして、部落で私が遭遇した調査拒否の事例をもとに、私たちの調査行為や同和対策事業が、じつは、ある面で部落差別の再生産に加担する側面をもつという理論的な発見を論文にまとめました(三浦, 2004)。 このような、フィールドでの出来事の中に、あるいは、フィールドで出会った人々の語りの中に、新しい理論の萌芽があるという認識は、私の社会学観を一変させるものでした。これは、いわば「人びとの社会学」との出会いといって良いものであり、それ以降、被差別部落の他にも、屠場(食肉センター、と畜場)や在日の人たちの「不法占拠」地区の調査研究を並行して行ってきましたが、〈当事者視点の重視〉ということが私の社会学研究の特徴となりました。しかし、そうは言っても、全面的に「人びとの社会学」に依拠するというのではもちろんなくて、当事者の視点と研究者の視点をできるだけ対等におく〈対話〉的アプローチをとっています。なお、ここでの〈対話〉とは、一般的な意味での「対話」とは異なり、いわば〈ディスコミュニケーション状態における対話〉のことを指しています。なぜ、こんな表現をするかというと、現場の人びとと社会学者とは、そもそもお互いに大きく異なった認識枠組みをもっていることが普通なので、両者の思考を対等に扱おうとすれば、〈ディスコミュニケーション状態〉に注目せざるを得なくなるからです。 なお現在は、被差別部落にある人権啓発を目指すNPOに参与しながら、部落差別の現在についての研究(三浦, 2016)を継続するとともに、重度の認知症であった父親の看取りをテーマとして、父の入居していたグループホームで父が自然死(平穏死)をどのようにして遂げることができたか、について社会学的な探求を行っています(三浦, 2016~18)。 大学院のゼミのテーマは、「〈社会問題〉〈差別問題〉に関する調査・理論研究」です。基本的な進め方としては、院生の皆さんが現在行っている研究についての報告を中心にしています。最終的に 代表的な著書・論文等三浦耕吉郎, 2004,「カテゴリー化の罠  社会学的〈対話〉の場所へ」好井裕明・三浦耕吉郎編『社会学的フィールドワーク』世界思想社三浦耕吉郎編, 2006,『構造的差別のソシオグラフィ 社会を書く/差別を解く』世界思想社三浦耕吉郎編, 2008,『屠場 みる・きく・たべる・かく 食肉センターで働く人びと』晃洋書房三浦耕吉郎, 2008, 「「部落を認知すること」における〈根本的受動性〉をめぐって 慣習的差別、もしくは〈カテゴライズする力〉の彼方」『解放社会学研究』No.20三浦耕吉郎, 2009, 『環境と差別のクリティーク 屠場・「不法占拠」・部落差別』新曜社三浦耕吉郎, 2014,「風評被害のポリティクス」『環境社会学研究』No.20三浦耕吉郎, 2015,「『人間の解放』をめざす人びと」「堅粕 改良住宅の民俗誌」『新修福岡市史 民俗編二 ひとと人々』福岡市史編集委員会三浦耕吉郎, 2016,「部落差別の今は……? 「部落」・「部落民」の表象のゆくえ」好井裕明編『排除と差別の社会学 新版』有斐閣三浦耕吉郎(共編), 2016~2018,『新社会学研究』第1号~第3号,新曜社三浦耕吉郎, 2017,『エッジを歩く 手紙による差別論』晃洋書房専門分野・キーワード⃝生活史⃝差別問題⃝環境社会学⃝質的調査法教授

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