社会学研究科のススメ_電子書籍版
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佐さ藤とう 哲あき彦ひこ会学の古典を研究しながら、他方でインタビューや参与観察をもとに薬物使用と薬物政策の研究を社会学的観点から続けてきました。おそらく「その場で何が起きているのかについて知りたい」ということが、私の関心の根本にあるもののように思われます。ですので、研究開始当時は「薬物は悪であることに疑いはないのだから、わざわざ研究する必要はない」などと批判されつつも、そのまま研究を継続してきました。その間はむしろそのような批判に対抗して、「悪」と当然視されているものをどのような観点や方法で研究すればよいのかについて悩み、試行錯誤しましたが、シンボリック相互作用論やエスノメソドロジーなどの研究を経て、その後とくにディスコース分析を活用し研究してきました。これは端的にいえば、書かれたり語られたりした言説の類型や動きから社会と呼ばれる圏域を分析する方法です。この方法を基礎としてその発想を応用しつつ、犯罪をめぐる言説の研究や医療をめぐる言説の研究を続けています。とはいえ、研究は対象によってこそ駆動されるものですので、方法論はむしろそれを助ける補助エンジンだという意識をもつことが必要だと考えています。 現在は世界各国でのインタビュー調査を中心に、薬物使用や薬物政策(最近はハーム・リダクション研究が中心)を続けていますが、それに加えて近年は薬害研究も重ねており、日本学術振興会の科学研究費だけでなく厚生労働省の科学研究費で組織された研究チームにも参加しています。これらの研究の重要な特徴は、当事者(薬物使用者)の活動に参加しつつ話を聞いたり、当事者(薬害被害者)とともに研究を行っているということです。とくに当事者とともに研究を行うことは、いわゆる当事者研究とは違った形で、社会学的研究のさまざまな局面に新たな変革を求めることになると考えています。 大学院ゼミはこれらの研究経歴を踏まえて運営しています。運営の仕方は、通常のゼミのような、参加者が自分の研究発表をすることよりもむしろ、参加者が持ち寄った調査資料を参加者全員で分析するという、ある種のデータセッションが中心です。調査資料は歴史文書資料の場合もあれば、音声資料の場合もあります。いずれにしても、シンボリック相互作用論やディスコース分析の考え方を学習し(参考文献を指示します)、それらを踏まえて全員で実践的な分析をするのが当ゼミの最大の特徴と言えます。また、学部ゼミと32合同で、私のテーマと関わりのある活動をしている当事者にゲストに来ていただいて話を聞くこともあります。他に、薬害研究などでは音声・映像資料の整理や分析を共同で行う必要がありますので、関心のある大学院生や研究員にはそれらの共同研究に加わってもらうなどしています。佐藤哲彦, 2008, (単著)『ドラッグの社会学─向精神物質をめぐるAkihiko Sato, 2009, "Methamphetamine use in Japan after Akihiko Sato, 2009, "Japan's long association with ampheta佐藤哲彦, 2012, 「テーマ別研究動向(犯罪)─「逸脱の社会学」佐藤哲彦, 2013, 「写真と写真ディスコース」中河伸俊・赤川学編『方佐藤哲彦, 2017, 「逸脱研究の論点とその探求可能性─ディスコーしています)http://synodos.jp/society/6754 「薬物をめぐって世界はゆっくりと回る─薬物戦争とハーム・リダクションの間で」, 『シノドス(webマガジン)』, 2014.1.17、(薬物政策研究とはどのようなものであるのかが分かると思います)統治技術—』東信堂作法と社会秩序』世界思想社the Second World War: Transformation of narratives", Contemporary Drug Problems, 35/Winter 2008mine", R. Pates ed., Interventions for Amphetamine Misuse, Wiley-Blackwell死後における犯罪の研究」,『社会学評論』63(2)法としての構築主義』勁草書房所収ス分析をめぐって」、『社会学評論』, 68(1) など多数への被害の研究) 研究・教育内容 当初は、一方でシカゴ学派などアメリカ社会学における逸脱の社 代表的な著書・論文等佐藤哲彦, 2006, (単著)『覚醒剤の社会史—ドラッグ・ディスコース・ 研究紹介のホームページなど追加情報http://sociography.jp (Aki’s Labo:私の論文などについて紹介専門分野・キーワード⃝逸脱論/社会問題論⃝医療社会学⃝ディスコース分析⃝薬物使用/薬物政策研究⃝薬害研究(医薬品等による健康や社会生活等教授

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