村むら田た 泰やす子こダー、セクシュアリティにかかわる幅広いテーマに関心がありますが、とくに女性が母親として家族の内外で行う実践に関心を持ち、研究してきました。 わたしの研究の第一の軸は、「ふつうの母親」の研究です。妊娠・分娩や小さい子どもの世話など、母親たるものの仕事の9割ぐらいは生物学的な要素によって決定されていると思われるかもしれませんが、その中身は時代をつうじて大きく変化してきました。最近、戦前の『児科雑誌』という医学雑誌を通時的に分析してみてわかったことですが、たとえば母乳育児について、戦前にはそもそも「母乳」という言葉は使われておらず、「人乳」という言葉が使われていました。いまだ人工栄養法が確立されていない時代、人乳には大きな価値が置かれていましたが、それは必ずしも産みの母親の乳である必要はなかったのです。やがて小児科学が学として成立する過程で、「母乳」という言葉とともに、医師(のちに助産師)の監視・助言のもとでの授乳が一般化していきました。また、イギリスなど他国の状況と比較してわかることは、日本の母乳育児規範の厳しさです。日本の母親は他国の母親に比べ、母乳を長く与えているにもかかわらず、自身の哺乳経験を否定的なものと捉えるという研究結果があります。研究をつうじて、母乳育児という言葉に込められた多大なる意味や期待を、解きほぐしていきたいと思っています。 わたしの研究のもう一つの軸は、子捨てや子殺し、虐待、ネグレクトなど、「ふつうの母親」から逸脱するひとびとの研究です。ふたたび母乳育児の話で言うなら、戦前期、生活に困窮するひとびとはいかに母乳を与えていなかったのか、そうしたひとびとを取り締まるために、近代以降どんなテクノロジーや制度が設けられたのかに関心があります。 大学院ゼミでは、もちろん、母乳のことを研究する必要はありません。ゼミでは、各自の問題関心に沿って、文献を読んだり、研究報告を行ったりしています。なお、大学院ゼミは、現在修士課程のみ開講しています。 また、ゼミとは別に、月に1回のペースで、セクシュアリティ読書会とフェミニズム読書会を開催しています。読書会にはゼミ生以外の学生も参加しています。大学院での学びはゼミがすべてではないので、学外の研究会などにも積極的に参加されることをお勧めします。 これまでに指導した、あるいは現在指導中の学生の研究テーマには、下記のものがあります。・世代間育児援助とジェンダーからみた現代中国の家族・現代中国都市部における男性同性愛者の「形婚」・マナーとジェンダー・在日既婚中国人女性の社会的ネットワーク(副指導)・トランスジェンダーと現代社会(副指導) など村田泰子・伏見裕子,2016,「明治期から昭和初期における小児科村田泰子,2017,「家族政策と社会階層(前編)―イギリスInfant 村田泰子,2019,「家族政策と社会階層(後編)―イギリスソル井上俊・伊藤公雄編,2005,『社会学ベーシックス5 近代家族我部山キヨ子ほか編,2016,『助産学講座4 母子の心理・社会学 者によって子どもの虐待を低減するシステムの構築」(http://parent-supporters.brain.riken.jp/c-member.html)。これは理系の研究者と文系の研究者が協働して児童虐待問題の解決に当たるプロジェクトで、研究の手法やアプローチがまったく異なる研究者との交流から刺激を受けています。本学の大学院生も参加しています。もなう母乳哺育を行う母親の語りと実践から」『関西学院大学社会学部紀要』121号。医の母乳への関心―『児科雑誌』の分析から」『関西学院大学社会学部紀要』124号Feeding Surveyに見る、授乳期家族に関する知識とその活用」『関西学院大学社会学部紀要』126号フォード市「ブレストメイツ(Breastmates)」の実践から考える、オルターナティブな母乳育児支援の可能性」『関西学院大学社会学部紀要』129号(出版準備中)とジェンダー』世界思想社第5版』医学書院21 研究・教育内容 わたしの専門は、家族社会学とジェンダー論です。家族やジェン 代表的な著書・論文等村田泰子,2015,「授乳が作り出す社会関係―厳格な食事制限をと 研究紹介のホームページなど追加情報 現在このような研究プロジェクトに参加しています。RISTEX「養育専門分野・キーワード⃝家族社会学⃝ジェンダー論、 フェミニズム理論⃝母性⃝セクシュアリティ研究教授
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