社会学研究科のススメ_電子書籍版
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宮みや原はら 浩こう二じ郎ろう会のあり方について考えてきました。そのなかでウェーバー、フーコー、ニーチェなどの社会理論の研究、源氏物語の社会学的な読解、「変身願望とアイデンティティ」の研究などを行いながら、観念的な学術概念(あたま語)だけでなく感性的な日常言葉(からだ語)に耳を澄ませ、その現場体験から社会を考察する「言葉の臨床社会学」にも取り組んできました。 こうした流れのなかで、ここ10年ほど、社会学に美学・感性論(aesthetics)を導入し、新たな社会認識の可能性を探ることを試みています。日常生活で出会う社会空間(さまざまな人工物を含むコミュニケーションの場)のもつ感性的あじわいや雰囲気に注目しながら、現代社会のありようや人間関係の変容について考えること。感性でふれる社会の「生きた姿」を取り込む社会学の方法を探究しています。 そのなかで現在はおもに2つのテーマに沿って研究を進めています。一つは、「社会を感じる」ことの可能性(と限界)を考えること。これは美学・感性論の対象を社会に拡張する試みですが、一つの焦点として遊戯的な社会空間に着目し、社交の場、趣味サークル、街並みや景観、アートプロジェクト(参加型アート)などにおける空間の質感を探究しています。理論的には、シラーの美学思想の流れに立ち返り、その社会学化を試みたジンメルや、社会的相互行為の美学・感性論を構想したバーリアント、さらには芸術の感性的・解放的ポテンシャルを説くランシエールなどを参考にしています。もう一つは、日常的な社会空間にさまざまな雰囲気が生まれる仕組みについて考えること。ここでは従来のコミュニケーションの社会学(社交、遊び、対話、贈与交換、相互行為儀礼など)をあらためて整理し直しながら、社会空間に感性的質をもたらす社会学的要因について探究しています。 感性的なものの社会的側面を指摘することはブルデューはじめ社会学的知識の定番ですが、逆に、社会(空間)のもつ感性的側面に目を向けることも必要だと考えています。過剰になりがちな意味の読み込みを可能なかぎり抑制し、身のまわりに息づく社会空間の感性的質をそのまま感じとることのうちに、現代社会や文化についてあらためて考察していく糸口があるのではないかと考えています。20宮原浩二郎 1992 『貴人論-思想の現在あるいは源氏物語』新曜社宮原浩二郎 1998 『ことばの臨床社会学』ナカニシヤ出版宮原浩二郎 1999 『変身願望』ちくま新書宮原浩二郎 2005 『論力の時代-言葉の魅力の社会学』勁草書房宮原浩二郎・藤阪新吾 2012 『社会美学への招待-感性による社会探究』ミネルヴァ書房(論文)Kojiro Miyahara 1983 Charisma: From Weber to Contemporary Sociology, Sociological Inquiry 53(4)宮原浩二郎 1989 「現代社会学における知識人とイデオロギー-グルドナーからハーバマス、フーコーへ」『社会学評論』40(1)宮原浩二郎 1994 「エスニックの意味と社会学の言葉」『社会学評論』44(4)宮原浩二郎・森真一 1998 「震度7の社会空間-芦屋市の場合」『社会学評論』49(1)宮原浩二郎 2006 「「復興」とは何か-再生型災害復興と成熟社会」『先端社会研究』5宮原浩二郎 2008 「自分の言葉で語ること-言葉の感性的次元をめぐって」『社会言語科学』10(2)Kojiro Miyahara 2014 Exploring Social Aesthetics: Aesthetic Appreciation as a Method for Qualitative Sociology and Social Research, International Journal of Japanese Sociology 23(1)宮原浩二郎 2017 「社会空間の感性的質について」『関西学院大学社会学部紀要』126(編著)宮原浩二郎・荻野昌弘 2001 『マンガの社会学』世界思想社大村英昭・宮原浩二郎・名部圭一 2005 『社会文化理論ガイドブック』ナカニシヤ出版 研究・教育内容 言葉や感性、知識や芸術といった文化的なものを通して、現代社 代表的な著書・論文等(著書)専門分野・キーワード⃝文化社会学⃝社会空間への感性的アプローチ⃝現代社会理論教授

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