社会学研究科のススメ_電子書籍版
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野の瀬せ 正まさ治はる 「個人と組織との関係」の研究について一例を挙げましが、関係性は形を変えて多種多様であるため、それに応じて研究テーマも多種多様です。そして、これからの社会を考えると、「個人と組織との関係」の研究は不可欠で、他の例を挙げれば、(現在、私は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の日本での構築に必要な条件についての依頼原稿に、この紹介文の締め切りを挟んで執筆中ですが)、冒頭に述べた働き方改革の別の柱の1つである2019年4月施行の「高プロ制度」について議論するためには、アメリカのFLSA(公正労働基準法)の適用除外制度、すなわち「ホワイトカラー・エグゼンプション」が日本の職場でどのように機能するかの研究がまずもって必要であり、早速、取り掛かっている訳です。 なお、ADRについては、社会で職場の個別労働紛争解決(例えば、パワハラ、セクハラ等のあっ旋)を実践し研究に取り組んでいます。 大学院に来られる方は、学部教育でいずれか一分野の知識はあるかと思います。私のゼミでは、本人の希望(取り組みたいテーマなど)や進路を踏まえたうえで、現在の社会でウエイトが高まっている「個人と組織との関係」の視点から分析研究できるようにしています。なお、関連専門分野は必要に応じて、その関連専門領域が効率良く勉強できるようにします。野瀬正治,2017,「日本版コーポレート・オンブズマンのすすめ: 長時間労働是正など職場のフェアネスと働き方改革のために」『経営センサー』196号 野瀬正治(編著),2016,『個別的労使関係と新時代の人事労務管理-個の欲求と組織充足の調整・繋ぎ』晃洋書房野瀬正治(編著),2012,『変化する労働社会関係と統合プロセス-社会化する企業・NPO・ソーシャルキャピタル・情報通信技術』晃洋書房野瀬正治,2012,「個別労働紛争と人事労務管理-法・経営・社会学の視座から-」『ジュリスト』(特集:企業経営と人事管理のこれから)1441号 野瀬正治,2011,「わが国の個別労働紛争調整システムの課題-イギリスとの比較を中心に-」『日本労働研究雑誌』(特集:個別労働紛争の背景と解決システム)No.613号19 研究・教育内容 私の研究は、「個人と組織等との関係」がテーマで、特に、「個別的労使関係・雇用関係」の研究がテーマです。一般的に工業化社会においては、労働組合と組織(会社)との関係(集団的労使関係)が中心でしたが、昨今、労働争議件数の激減にも見られるように、また、ハラスメント(個人への嫌がらせ)の増加や働き方改革の個人の尊重などにもみられるよう、関係主体が大きく変化しています。この変化は、日本だけでなく先進国にも共通にみられる変化(労使関係・雇用関係の変化)で、現代社会での様々な経営現象、労働現象として把握することができます。これら経営・労働現象に対する分析には、多様なアプローチが有りますが、私のアプローチは、社会学、法学、経営学および経済学からアプローチして分析を行います。この種のテーマの昨今の特徴は、複数領域の専門性を持った研究者による分析が重要になっていることがあります。労働法学者が社会学者のような指摘もするし、経済学者が労働法学を基礎に研究をし、あるいは経営学者が法学的素養をもって分析することも多くなっています。例えば、昨今、社会的課題となっている「働き方改革」の3本柱のひとつ、長時間労働是正の問題で言えば、法的視点だけで考えるのであれば、規制(36協定の厳格化等)で一見事足りるのですが、社会学的視点(例えば、職場の社会関係)から言えば、それではまったく問題は解決しないので、いずれかの領域のみの分析でなく、この2つの問題を理解した所から長時間労働是正の本当の研究が始まることになります。それは、法学的視点においても、社会学的視点から職場の社会関係の研究が求められることになります。電通事件では、業界の模範的労働組合であったにも拘らず刑事事件にまで発展したこの事件において労働組合は全く機能することはありませんでした。基礎的問題の一つとして、職場の社会関係などが大きく関わっているのです。 同じ様な構造は経営現象でもみることができます。同じ様な構造とは、社会関係が大きく影響しているという構造で、ここでは一例として、品質データが改ざん問題、を挙げたいと思います。つい先日(2018.8.)、三菱マテリアルの不正が改めて報道されましたが、それに限らず神戸製鋼の問題など、この種の不正は後を絶たないのですが、理由の一つは、文書で社内ルールが存在し個人が不正であることを認識できても、職場集団では不正と認識しないでよいとする暗黙的規範があるからです。なぜ、そうした集団特性が発生するのかの研究はとても興味が湧くテーマですし、私なりの考えはもちろんあるわけです。しかし、私の考えがすべての解答ではない訳で、そこに新たな研究シーズもあると思います。 代表的な著書・論文等Masaharu NOSE,2018, “Study on Administrative Bodies Involved in Resolving Labour Conflicts ―In Comparison Japan with Australia and the UK―” International Public Policy Studies, Vol.23 No.1専門分野・キーワード⃝個別的労使関係⃝経営社会学⃝ADR(代替的紛争処理) ⃝人事労務管理教授

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