社会学研究科のススメ_電子書籍版
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高たか原はら 基もと彰あき位取得退学です。東京のいろいろな大学での非常勤講師や、日本学術振興会特別研究員などを経て、2012年から関西学院大学に勤務させて頂いています。 研究の出発点は、2002年の日韓共催ワールドカップの時期にソウルと東京をまたいで行った、サブカルチャーを通じた文化交流のフィールドワークでした。その後、日本・韓国ともに文化産業の中で中国市場が大きな注目を集めていることを踏まえ、北京にも現地調査の足を拡げました。 日中韓をまたぐ現地調査を続ける中で、狭義の文化の問題より、それを支える社会・経済的な背景に関心が移っていきました。格差拡大(両極化)や若年失業など、その頃日本でも問題化されていた現象が、韓国や中国でも同時代的に起きていることに着目しながら、初めての単著『不安型ナショナリズムの時代』を書きました。 2006~7年には、韓国・ソウルの聖公会大学校・東アジア研究所に、2009年いっぱいは北京の社会科学院に訪問研究員として滞在しました。その問、韓中の研究者と日本について様々な対話を突わし、国内外で受け入れられるような「戦後日本の通史」を作ろうという意図で、二冊目の単著『現代日本の転機』を書きました。 その後、1990年代以後の東北アジアの変化をふまえ、雑誌などで政治的なコメンタリーをしたりしています。中国の大国化、アメリカの影響力後退、世界共通で進行するポピュリズムの拡大などを受けて、各国の政治イデオロギーに生じている構造変動を研究しています。 このような研究の経緯を書きますと、通俗的な「ナショナリズム」にまつわる事件について研究したいという志望が、例年よく届きます。出てきてネットで話題になっては消えていく、こうした個々の話題自体について「研究」する必要はあまりないと私は思っています。社会(科)学とは、歴史的にも、理論的にも、巨視的な社会変動を研究するものだからです。この種類の話題は、あくまで小さな事例であり、研究テーマにはならないと考えて頂きたいです。 また、お互いの国のイメージが「なぜ悪いのか」「どうすれば良くなるのか」というような、漠然としたテーマも、研究の中心に置くのは難しいかと思います。巨視的に見れば、対立があることは当然であり、何も不思議なことではありません。簡単に対立が解決することもありません。またナショナリズムは世界中どこにでもあり、悪い作用をもたらすこともあるし、良い作用をもたらすこともあります。その「良さ」や「悪さ」の証明を自己目的化した問いの立て方も、研究としては不十分です。これも、社会(科)学とは、「良し悪し」を越えたところに問いを立てることから始まるものだからです。 ナショナリズムについて研究することの難しさは、私自身が日々感じていることでもあります。研究において経験の浅い方が、これ自体を研究テーマに置くのは、ややハードルが高いかもしれません。私の主な研究対象は東北アジアのナショナリズムとなっていますが、むしろ、一見これとは無関係に見える何かと、ナショナリズムを結びつけ、「よくある問いと答え」におさまらない発見をもたらすような研究がもしあれば、ぜひ読ませて頂きたいと思います。高原基彰,2009,『現代日本の転機』NHKブックス高原基彰,2006,『不安型ナショナリズムの時代』洋泉社新書<共著>盛山和夫他編,2017,『社会学入門』ミネルヴァ書房小熊英二他,2014,『真剣に話しましょう―小熊英二対談集』新曜社遠藤薫編, 2012,『大震災後の社会学」講談社現代新書小谷敏他編, 2011,『若者の現在政治』日本図書センター佐藤俊樹編, 2010,『自由への問い6 労働』岩波書店東浩紀・北田暁大編, 2008,『思想地図Vol.l』 日本放送出版協会本田由紀編, 2007,『若者の労働と生活世界』大月書店遠藤薫編, 2001,『グローバリゼーションと文化変容』世界思想社遠藤薫編, 2004,『インターネットと≪世論≫形成』東京電機大学出版局15 研究・教育内容 1976年神奈川県生、東京大学院人文社会系研究科博士課程単 代表的な著書・論文等<単著>専門分野・キーワード⃝ナショナリズム⃝現代日本の社会意識⃝社会学理論准教授

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