鈴すず木き 謙けん介すけを基盤に、情報化やグローバル化によって変動する社会における、ありうべき倫理について論じてきました。たとえば技術の発達による労働の自動化が進むことで、雇用の構造が変わり、所得が二極化する可能性があるが、それはよいことなのか? といった問いです。 こうした社会変動と倫理の問題の延長で、近年では「食とグローバル化」についての研究を進めています。先進国では持続可能性や倫理的消費への関心が高まっていると言われますが、むしろこれからの社会における課題は、新興国の経済成長に伴う肉食へのシフトと、それによるカロリーロスの増大です。一般に食肉を生産するためには、飼料としてその数倍の重量の穀物が必要になります。世界的な穀物需要の高まりは供給の逼迫をもたらし、穀物を含めた資源価格の不安定要因になります。 こうした問題に対して、「地球環境のために新興国の人びとは肉を食べるのを控えるべきだ」と主張しても、おそらく受け入れられないでしょう。これは単なる経済や資源の問題ではなく、人びとの幸福追求の問題、生活水準を巡る文化の問題、それらをとりまくメディアやコミュニケーションの問題だからです。 大学院でのゼミ運営は、必ずしもこうした教員の関心に引き寄せたものにはしていません。進学希望者についても、個々の研究関心を尊重する方針をとっています。しかしながら研究者としての自立を目指すならば、独りで自分の関心に近いことだけを学習・研究するのではなく、共通の関心に基づいた人びとと議論しながら進めることが近道です。そのため大学院ゼミも、どちらかというと「研究会」のようなスタイルで、全体の共通テキストをもとに議論を進めることが多くなります。 さらに、そこで選ぶテキストも、日本語のものよりは英語のものを優先しています。食やグローバル化に関する日本の研究は英語圏の研究に比して数が少なく、内容的にも古いものが多いからです。大学院入試での英語で苦労するレベルの語学力だと、ついていくための予習・復習が欠かせないものになると思います。 そして、研究者としての自立を念頭に置くことから、修士の段階でもアウトプットを重視した指導を行います。具体的には、修士課程1年目から、研究科が発行する「書評誌」への書評論文の投稿を必須のものとします。もちろん、執筆に関する指導は細かく行いますが、「のんびりと研究して、自分が書きたいと思ったときに論文を14書く」という姿勢ではやっていけないのだ、という自覚を持ってもらいたいと思います。NHK出版、2013年、251P 鈴木謙介『SQ―“かかわり”の知能指数』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年、254P鈴木謙介『サブカル・ニッポンの新自由主義―既得権批判が若者を追い込む』筑摩書房、2008年、238P鈴木謙介『ウェブ社会の思想―〈遍在する私〉をどう生きるか』NHK出版、2007年、265P 鈴木謙介『〈反転〉するグローバリゼーション』NTT出版、2007年、256P 鈴木謙介『カーニヴァル化する社会』講談社、2005年、174P 研究・教育内容 私はこれまで、主として政治学のサブ領域である社会思想の研究 代表的な著書・論文等鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ―〈多孔化〉した現実のなかで』専門分野・キーワード⃝グローバリゼーション論⃝情報社会論⃝社会思想准教授
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