社会学研究科のススメ_電子書籍版
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研究紹介のホームページなど追加情報http://www-soc.kwansei.ac.jp/otaniに、大谷研究室で実施した、科研費基盤Aの研究成果中間報告書をはじめとする調査報告書がまとめられています。大おお谷たに 信しん介すけ生活を豊かにしているように感じられたのです。<住む><働く><生活する>という生活行動は、全世界に共通した行動であり、それはアジア・北米社会でも普遍的におこなわれているものです。2019年度の科研費基盤研究では、日本社会だけでなく国際比較が可能となる「生活実態調査」を構築し、日本の大都市部住民を対象として実施していきたいと考えています。大学院のゼミでは、各自の興味のある領域を国際比較可能な実証的研究となるように、議論を深めていこうと考えています。11 研究・教育内容 私の専門は都市社会学です。これまで、「< 都市的なるもの>とはいったい何なのだろうか?」という問題を、社会調査研究の積み重ねによって明らかにしようとしてきました。それは、都市と農村では何が異なっているかを探求する研究でもあります。博士論文では、アメリカ都市社会学で展開されてきた「都市度とパーソナルネットワーク」に関する議論が、必ずしも日本都市の調査データに適用できないことを実証しました(『現代都市住民のパーソナルネットワーク:北米都市理論の日本的解読』ミネルヴァ書房1995年)。その後、日本都市理論の古典である鈴木栄太郎『都市社会学原理』を再発掘する作業を進め、それらを50年後にも通用する都市社会調査研究へと再構築する研究を進めています(『グローバル化時代の日本都市理論』ミネルヴァ書房2015年)。その研究を進めていく中で「日本の都市理論や北米の都市理論が、必ずしもヨーロッパ都市に妥当しない」という事実を、ヨーロッパでの在外研究で直面してきました。歴史的に「城壁に囲まれた村落」と位置づけられるヨーロッパの都市では、住民の移動や買い物行動の実態が日本都市とは全く異なっており、日本都市にみられる都市格位説はヨーロッパの都市には妥当しなかったのです。 現在は、科研費基盤研究A「政策形成に貢献し調査困難状況に対応可能な社会調査方法の研究」(2016-20年度 研究代表者大谷信介)の研究プロジェクトを進めています。2017年には、愛媛県・長崎県民を対象として「県民生活実態調査」を実施しました。これは、住民の生活行動の実態を社会調査によって正確に測定することが、地方自治体の政策形成に貢献するだけでなく、新しい都市理論の構築にもつながると考えて研究を進めているものです。この調査データの解析作業を進め、政策立案にどのようにつなげられるかを検討することも大学院の重要な研究課題になります。 2018年度の春学期は、ベルギーのKUルーヴェン大学で半年間の在外研究をしていました。在外研究で特に注目したことは、日本で実施していた生活実態調査を、ヨーロッパ社会でも適用可能な社会調査として再検討していく作業でした。具体的には、ヨーロッパ各国の日本大使館・日本人学校・日本人会等の在留邦人を対象として、「ヨーロッパ各国の生活実態」について、聞き取り調査を実施してきました。この聞き取り調査からは、各国の経済状況(失業率・給与水準)・社会保障制度(年金・医療・教育)・家族の状況(家族同居状況・離婚率・家族の繋がり)等の違いによって、生活実態が微妙に異なっているという事実とともに、果たして日本人の生活は幸福なんだろうかという疑問もわいてきたのです。現在日本では「働き方改革」が議論されていますが、ヨーロッパ各国の働き方は、労働時間だけでなく、長期休暇も含め、オンとオフを明確に区別して 代表的な著書・論文等【著書】大谷信介他編 2015『グローバル化時代の日本都市理論~鈴木栄太郎「都市社会学原理」を読み直す』ミネルヴァ書房大谷信介他編 2013『新・社会調査へのアプローチ~論理と方法』ミネルヴァ書房大谷信介編2012『マンションの社会学~住宅地図を活用した社会調査の試み』ミネルヴァ書房大谷信介 2007『<都市的なるもの>の社会学』ミネルヴァ書房大谷信介編 2002『これでいいのか市民意識調査~大阪府44市町村の実態が語る課題と展望』ミネルヴァ書房大谷信介 1955『現代都市住民のパーソナル・ネットワーク~北米都市理論の日本的解読』ミネルヴァ書房【論文・調査報告書】大谷信介2016「都道府県庁における県民意識調査の実態と職員研修の現状~長崎県・愛媛県・兵庫県の事例を中心として」(『社会と調査』第17号 社会調査協会 pp30-44.)大谷信介2015「政府・地方自治体の政策立案過程における<社会調査>の役割―統計行政を踏まえた社会学からの問題提起」(『社会学評論 262』Vol.66. No.2 日本社会学会 pp278-293.)大谷信介編 2018『愛媛・長崎県民生活実態調査報告書~平成28-32年度科研費基盤研究(A)研究成果中間報告書』関西学院大学社会学部大谷研究室大谷信介編 2018『47都道府県庁が実施する社会調査の実態把握~「県民意識調査」の実施状況と問題点』関西学院大学社会学部大谷研究室専門分野・キーワード⃝都市社会学⃝社会調査論教授

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