山田 雅俊 准教授
素粒子理論研究室
山田 雅俊 (やまだ まさとし) 准教授
研究分野: 素粒子理論、量子重力、臨界現象
素粒子とは
「物質を構成する最小の単位」という意味ですが、これは時代によって変化してきました。古代ギリシャの時代から18~19世紀頃までは、火・空気・水・土という4つの元素から構成されるとするいわゆる四元素論が考えられていました。その時代の素粒子論と言っていいでしょう。その後、ラヴォアジエやドルトンによる原子論という概念が発展し、19世紀後半では、電子や原子核などが発見され、原子を構成するさらに小さい要素があることが明らかになりました。1950年代には、当時素粒子と思われていた粒子が多く発見され、「素粒子動物園」と呼ばれるほど混沌とした状況でした。その後、これらの粒子は素粒子ではなく、クォークと呼ばれるさらに小さい素粒子が複数集まってできた複合粒子であることがわかりました。現在の素粒子理論の枠組みが確立したのは1970年頃で、今のところ17種類の粒子が素粒子とみなされています(右図参照)。そして、それらの素粒子の振る舞いを統一的に記述する理論は素粒子標準模型と呼ばれています。
素粒子論の研究
現在の素粒子論の主な目的は、「素粒子はいくつあるのか」、「素粒子間に働く力(相互作用)はどのようなものか」を明らかにすることです。素粒子標準模型は、これまでに発見された素粒子の振る舞いを非常によく説明しますが、実験や観測と一致しない点も残されています。 現在知られている素粒子は 17 種類ですが、まだ発見されていない粒子が存在する可能性があります。そうした新粒子を導入することで、標準模型では説明できない現象を理解できるようになるかもしれません。そもそも、現在「素粒子」とされている粒子が本当に最小単位なのでしょうか。
素粒子が集まって陽子や中性子をつくり、さらに原子や分子へと発展していくには、粒子同士が引き合ったり反発したりする「相互作用」が必要です。素粒子間には基本的に 4 種類の力が働くと考えられています。身近な重力と電磁気力に加えて、強い力と弱い力が存在します。標準模型は、このうち重力を除く 3 つの力を統一的に説明する理論です。しかし、素粒子間に働く基本的な力が本当にこの 4 つだけなのでしょうか。また、重力を量子論の枠組みでどのように扱うべきかという問題(量子重力理論)も未解決です。
素粒子と宇宙
宇宙の発展とともに素粒子は相互作用を通して天体や物質を作っていったと考えられていますが、その過程はどのようなものだったのでしょうか。逆に、相互作用する素粒子は、宇宙の発展にどのように寄与してきたのでしょうか。これらの理解する学問は「素粒子論的宇宙論」と呼ばれています。
宇宙の観測を通じて、宇宙に満ちているエネルギー源として、我々が物質として認識している粒子が占める割合は約5%に過ぎず、約25%は暗黒物質(ダークマター)、約70%が暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と考えられています。暗黒物質や暗黒エネルギーの正体はなんでしょうか。それらは素粒子なのでしょうか、それとも何か別のものなのでしょうか。
「素粒子とは何か」という素朴な疑問から様々な疑問が湧いてきます。おそらく疑問は尽きることはないでしょうが、小さい疑問を1つ1つ解決していくことで、我々の宇宙や物質の本質的な理解に迫っていくことが素粒子論研究の大きな目標です。
量子重力理論:ミクロな世界に働く重力とは
重力は我々にとって最も身近な力です。マクロな世界では、アインシュタインの一般相対性理論で天体の運動や振る舞いを説明することができます。しかし、ミクロな世界における重力を理解することは、素粒子論としてはとても難しい課題の一つです。様々なアイデアは提唱されていますが、完全なものはまだないと言っていいでしょう。もし、量子重力理論が完成すれば、我々の宇宙がどうして生まれたのかわかるかもしれません。
本研究室では、素粒子の振る舞いを記述する数学的枠組みである場の量子論に基づき、量子重力理論の構築や、その宇宙論的な帰結を主に研究しています。場の量子論の有効性は、摂動近似(相互作用が弱いと仮定して行う計算)やコンピュータシミュレーションを通して確立されてきました。しかし、それらの手法では捉えきれない、まだ多くの未知の側面が残されていると考えられています。そうした側面を一つ一つ明らかにすることで、素粒子の未知の性質を理解する手がかりが得られると期待しています。