人間福祉学部
K.G.

研究者 「生きる」ことを考える「死生学」

藤井美和教授
掲載日:2026.01.08

1.死生学って?

「死生学とは何ですか?」という問いに、私は「死を含めて生きることを考える学問です」と答えています。そうなのです、死生学は「生きることを問いなおす」学問なのです。

「死ぬのはもっと先だから、今は考えなくていい」、「今生きていることが大切なのに、どうして死ぬことを考えるの?」―そう考える人は、「生」と「死」を二つの別のものと捉えているのだと思います。でも生と死は、一つのもの、むしろ密接にかかわりあっていると言えます。例えば、「あと半年の命です」と言われたとき、多くの人は、「残された半年をどう生きようか」と考えます。つまり、「死」に直面して、いかに「生きるか」に向き合うのです。また逆に、「生きるのがあまりにつらい」ことから「死にたい」「消えたい」と思うこともあります。これは、「生」のあり方が「死」を思わせる状況を作っていると言えます。このように、生と死は別々のものではなく、互いに関わりあって、私たちの人生を形作っているものなのです。

2.生きることを問いなおすー私の経験

生きることを問いなおす、というと壮大な課題に向き合うように感じるかもしれません。しかし、私たちは、生活のあらゆる場面で「生きる」を問われます。どの大学で何を学ぶのか、卒業後どうするのか、将来家庭を持つのか、介護、育児、親の看取り、自分の最後をどう迎えるか。私たちの生活は選択の連続です。その選択の基盤になるのが、「何を大切にして生きるのか」というモノサシ、つまり価値観です。「生き方を問う」とは、どんなモノサシに拠って生活するのかという身近な課題なのです。

私の「死生学」へのきっかけは、この問いに向き合った経験からです。会社で働いていた時、突然重い病気にかかり、救急病棟で死に直面しました。意識が鮮明だった私の心の底から湧き上がってきたのは、「私の人生は何だったんだろう」「私は何のために生きてきたんだろう」という強い後悔でした。それまで生活の中心だった仕事は、「本当に大切なもの」ではありませんでした。目に見えるもの(仕事、財産、社会的評価など)は、死に際して何の助けにもなりません。本当に大切なものは、愛する人との関係性や何を大切に生きてきたのかという「生き方そのもの」だと実感しました。この体験は、私の人生にとって衝撃的なものでした。

3.スピリチュアルペイン

「何のために生きているんだろう」「こんな私を心から愛してくれる人はいない」「私に存在価値なんてない」「愛する家族が死んでしまった。もう生きる意味なんかない」「家族も仲がよく、環境にも恵まれているのに、いつも心の中に埋められない空虚感がある」

皆さんもこのようなことを感じたことがあるのではないでしょうか?生きる意味や存在価値を見失うような苦しみを、死生学では「スピリチュアルペイン」と言います。これは、病気や人間関係などで危機的な状況に置かれたとき、あるいは大きな出来事がなくても、ふとしたきっかけで心の底から湧き上がってくるもので、誰もがもつ苦しみです。決して精神的な病気や脳の病気ではありません。治療や投薬によってこの種の痛みは解決しないからです。

この痛みは、ありのままを丸ごと受け止めてくれる存在に気づくことや、宗教を含めた人間を超える大いなるものとの関係性によって癒されることがあります。つまり、科学的合理的世界を超えた世界観(超越的世界観)に目を向けることが重要なのです。死生学は、哲学や宗教といった難しい言葉ではなく、また精神医学や心理学のように人間を分析するのではなく、人を「全人」(Body-Mind-Spiritの統合体)と捉えてアプローチする学際的学問です。

4「生と死」「いのち」を学ぶこと

私の担当する「死生学」、「デス・エデュケーション」、「人間科学フィールドワーク」では、生と死にかかわる事象を、3つの視点から学びます。一つ目は、客観的な知識を得る学びです。安楽死、自殺、児童虐待、生殖医療、貧困、障がい者や高齢者の課題など、私たちは事象としては知っていても、それがなぜ起こるのか、知らないことがたくさんあります。知識を得ることは理解のスタートです。二つ目は、その事象に関わる人や経験者のお話を聴かせていただくことです。知識とは違う側面から、現実に生きる人の苦しみや喜びを理解します。そして三つ目は、学生が自分自身に向き合うワークショップです。人生の振り返り、死の疑似体験、大切なものを綴るワークショップなどを通して、自分の中にあるモノサシ(価値観)を自己覚知します。

学生時代は、何を大切に生きるのか、自分の価値観に真剣に向き合うことのできる貴重な時間です。自分自身の、周りの人の、そして社会の「いのちの捉え方」について関心をもち、生き方について考えてみませんか?