ご挨拶

[ 編集者:文学部・文学研究科        2018年6月8日   更新  ]
ゼミの授業風景(小澤博教授ゼミ)

英米文学英語学専修というと、どのようなイメージを思い浮かべますか? 外国人講師の授業で、かっこよく英語を話す学生の姿ですか? コンピュータを前にして、さらさらとわき出るように英語を打ち込んでいる姿ですか? 卒業後、商社や航空会社に勤務し、華麗に英語を駆使している出身者の姿に自分を重ねている人もいるでしょうか?

一般的に文学部で「英文」と呼ばれている学科や専攻などは、「英会話」が上手な学生を送り出す教育を行っていると思われているようです。そして、その出身者も、「英会話」能力を生かした職業選択をしていると思われています。でも、ここでちょっと考えていただきたいのです。大学の英文科というところは、英会話だけを毎日やっているところなのでしょうか?

もちろん英米文学英語学専修というところでは、英会話だけを毎日やっているわけではありません。この専修の名称をよく見てください。この中に、専修で学ぶことがすべてはいっています。つまり、英米文学(イギリス文学とアメリカ文学)、そして英語学(言語学)というものを通して、英語力を鍛錬しながら、物事と世界を広く緻密に読み解く力を養うのが、英米文学英語学専修なのです。
英米文学分野においては、イギリス、アメリカ(時にはカナダ、オーストラリア)の文学作品や文化の分析、解釈、批評を通して豊かな視野と人間性を育てていきます。英語学分野においては、英語(日本語やそのほかの外国語も含まれます)という言語を理論的、数学的に分析することで、言語の性質や言語を使用する人間そのものの解明を目指しています。どちらの分野も、高校までの「国語」や「英文法」とは、表面上は似ているように見えますが、内容は大きく異なるものです。

ここまで読み進めてみると、みなさんが大学の「英文科」というものに対してもっているイメージと実情とが、大きくかけ離れていることに気づくことでしょう。もちろん、英会話や英作文の授業、ネイティヴ・スピーカーが、週に3回集中して英語のみの授業を行う「インターミディエイト・コース」などの授業も用意されており、みなさんが一般的に考えている「英語力」を鍛えることも十分に可能です。でも、大学というところは、「役に立つから英会話をやろう」という発想とは異なる視点でカリキュラムを構成しているのです。

みなさんの中には、「英語が話せれば、明るい将来が開ける」と、非常に簡単に考えている人はいませんか? 実際には、こんなに単純に人生は進んではいかないものです。このように短絡的に英会話や英語力というものをとらえていること自体、みなさんがまだ狭い視野で世の中を見ていることの表れだといえるでしょう。大学での4年間は、高校時代までに抱いている具体的な職業目標、たとえば、英語さえ話せたら通訳になれる、あるいはキャビンアテンダントになれる、という考えや価値観を揺り動かし、時にはそれを崩し、また組み立てなおして、もっと広い見地から世の中を読み解くことができるようにする時期だといえます。

場合によっては、このようにして広がったものの見方によって、18歳の時に抱いていた職業観が大きく変わることも十分にあります。つまり、4年間でそれまでの職業の目標を変えて、たとえば、英語教師志望だったけれども、小さいけれども会社を作って経営したい、というものに変わることも考えられます。専門学校と大学の最も大きな違いは、専門学校が、今すぐに役に立つ、即戦力の知識を徹底的に叩き込むということにおいて大変有効な手段であるのに対し、大学は、役立つ技能、知識だけではなく、その知識や技能を使う人間、すなわちみなさんの判断力や問題解決能力を根本的な部分で支える力を与えるところでもあるのです。そしてこのような力というのは、普段は全く意識しないところで機能しているのですから、「役立っている」という感覚はもちにくいものです。

大学の入学案内などを見ていると、大きな大学も小さな大学も、それなりに規模の違いはありますが、どこでもだいたい留学制度があり、コンピュータを使う情報処理教育があって、外国語講座がある、という点では、ほとんど変わらないといってもよいでしょう。また、TOEICやTOEFLが何点だとか、公務員にこれだけの人が合格したとか、そういう一見してわかりやすい数字が並ぶ入学案内もたくさんあります。大切なのは、そのような、パンフレットには載らない点、あるいは偏差値などというあいまいなものでは表せない点、すなわち、みなさんの心を揺り動かす教育が行なわれているのか、あるいは、自分の力で考えて問題解決を行なうことができるような力を養うような教育が行なわれているか、ということです。このような側面というのは、なかなか表には現れてこないものですなのですが、みなさんの今後の人生を根底から支えるために不可欠のものです。設備や留学制度などのきらびやかな側面だけではなく、教育の中身、実質ということも考えて、大学を決めてもらいたいと思っています。