2021.03.24.
2020年度 懸賞論文選考結果≪講評≫

 経済学部では、1985年から研究演習Ⅰ・Ⅱの在籍者を対象として、懸賞論文を募集している。本年度は、個人執筆部門に16本、共同執筆部門に9本、計25本が提出された。ちなみに昨年度の状況は、個人部門6本、共同執筆部門9本であったので、今年度は個人執筆者の健闘が目立った。

 次に今年度の応募論文の分野に注目すると、開発経済学の詳細な実証分析がほぼ半数を占め、ユニークな地域研究がこれに続いた。さらに、高レベルのミクロ経済学の応用研究も見受けられた。これらはすべて行き届いた分析のもとでまとめられたものであったが、選考委員会の審査と教授会の議を経て、特に優れた以下の2論文に賞を与えることが決定した。

<講評>

 まず単著「マダガスカル農村における配偶者選択が幸福度に与える影響」は、マダガスカル農村に焦点を当て、夫婦の幸福度を高める要因を分析した論文である。途上国において、結婚は双方の幸福度を高めるのかという問題意識で書かれ、ベッカーの「選択配偶仮説」をベースに、価値観や性格が「似たもの同士」の結婚は、高い幸福度をもたらすのか、その妥当性が、パネルデータ分析を用いて検証されている。統計分析の結果、夫婦双方が損失回避的な場合幸福度は高いが、夫婦間の出身地や学歴、リスク選好性が類似のケースでは、かえって幸福度が低くなることが判明した。つまり「似たもの同士」が結婚すると幸福度が高まるかどうか、一概に結論づけることはできない。またジェンダー問題が深刻で、医療体制も不十分な同国では、統計的に有意ではなかったが、結婚は夫婦の幸福度を下げる傾向にあることもわかった。

 本論文は結婚と幸福度の関係を経済的に解明した主要先行研究を丹念にチェックし、一般化された知見の妥当性をオリジナルのアンケート調査に基づく統計分析を通じて明らかにしたものである。手堅いストーリー展開と、説得的な結論が評価された。

 続いて共著論文「神戸市の自主防災組織における助成金制度の非効率性」の講評に移りたい。本稿は最初に地区防災計画制度の概要について述べ、神戸市防災福祉コミュニティ設立の経緯や、運営方式、助成金制度の内容と問題点について言及している。 執筆者たちは、この助成金制度が十分活用されていないコミュニティが存在することを危惧し、有効な配分ルールを考察する。そこで各コミュニティの海岸からの距離、活動の活発さ、役員の居住年数や年齢といった要因と、補助金の使用度合の関係を統計的に分析した。その結果、海岸からの距離が近く、平素の防災活動が盛んなコミュニティほど、補助金を有効に使用していることが明らかになった。ようするに災害リスクが高い地域ほど補助金を必要とし、低い地域では余らせているという実態が鮮明に浮かび上がった。こうした事実からより効果的な補助金の配分方式として、一律に支給される運営活動費の比率を下げ、提案型活動費のウエイトを高めることが望ましいという提言を行っている。

 甚大な被害をもたらした東日本大震災から10年の節目を迎える年に、防災効果を高め、財政資金を無駄なく使用する方策が示されたことは意義深い。明快な図表をふんだんに取り入れ、丁寧な叙述を心がけている点でも優れている。

(懸賞論文選考委員会委員長 寺本益英)