2025年度 懸賞論文の選考結果と講評について
懸賞論文
| 選考 結果 |
部門 | 学生氏名 | 演習担当者 氏名 |
論文題目 | 論文題目(副題) |
| 入賞 | 個人執筆部門 | 今仁 裕太 | 田畑ゼミ | 保育所等定員数の拡充が第一子出生に与える影響についての分析 | |
| 入賞 | 共同執筆部門 | 中島 涼介 | 村上ゼミ | 「実質値下げ」戦略の行動経済学的検討 | 貨幣錯覚とフレーミング効果に関する実験研究 |
| 木村 一都 | |||||
| 袖岡 陽誠 | |||||
| 佳作 | 個人執筆部門 | 丸尾 肇志 | 猪野ゼミ | 製品差別化の多次元理論と消費者選好のキャリブレーション | |
| 佳作 | 個人執筆部門 | 田坂 凜太郎 | 猪野ゼミ | 家電リサイクルの経済理論分析 | 金属盗対策法の影響 |
経済学部では、学生による優れた研究を表彰するため、1985年から懸賞論文制度を設けている。本年度は8つのゼミより、個人執筆部門に8本、共同執筆部門に10本、計18本の応募があった。昨年度と比較すると、個人執筆部門への応募は大幅に減少した一方、共同執筆部門への応募が大幅に増加した。
応募論文の内容については、問題意識、分析手法、独創性、完成度などいずれも高い水準にあったといえる。また、今年度の特徴として、多くのゼミから応募があったため、少子化対策や行動経済学、産業組織論、環境経済学、開発経済学など多様な研究課題が扱われていたこと、実証分析に加え理論分析や実験研究など分析手法の幅広さが見られたことなどが挙げられる。
選考委員会で審査した結果、個人執筆部門については入賞論文1本、佳作論文2本、共同執筆部門において入賞論文1本を選出することとした。以下、各部門の入賞論文、佳作論文について簡単に紹介したい。
【個人執筆部門】
入賞論文である「保育所等定員数の拡充が第一子出生に与える影響についての分析」では、日本における少子化の進行と女性就業率の上昇を背景に、保育所整備が第一子出生に与える影響を実証的に検証している。1995〜2020年の国勢調査、人口動態調査、社会福祉施設等調査を用いて都道府県レベルのパネルデータを構築し、年齢・コーホート・時点・都道府県の固定効果および都道府県別線形トレンドを含む固定効果モデルにより、保育所の「潜在的定員率」の上昇が年齢別第一子出生率を統計的に有意に押し上げることを示した。人口規模や人口変化率を統制したロバストネス分析においても結果は維持され、期間合計特殊出生率への影響は約0.055と推計されている。先行研究との整合性を丁寧に確認しつつ、公開統計のみで先行研究の知見の一般性と頑健性を検証した点が高く評価され、研究の着眼点、分析の精緻さ、論文全体の完成度において優れた論文であると評価された。
佳作論文の一つである「製品差別化の多次元理論と消費者選好のキャリブレーション」では、キーボード市場における新技術「ラピッドトリガー」の普及が限定的である要因を、産業組織論の製品差別化理論を用いて分析している。垂直的差別化と水平的差別化を統合した理論モデルを構築するとともに、分析の複雑性を補うために独自の3Dシミュレーターを開発し、アンケート調査に基づくキャリブレーションを実施した。その結果、新技術製品の品質パラメータが0.14と極めて低く推計され、消費者がその技術的優位性を十分に認識していないことが明らかにされた。理論モデルの構築から独自ツールの開発、データ収集・分析に至る意欲的な取り組みが高く評価された。
もう一つの佳作論文である「家電リサイクルの経済理論分析―金属盗対策法の影響」では、家電リサイクルにおいてエアコンだけが他の家電に比べ低い回収率を示している問題に注目し、資源価値の高さが違法回収業者の参入を招くメカニズムを理論的に分析している。生産者・消費者・合法リサイクル業者・違法回収業者の4者からなるモデルを構築し、現行の家電リサイクル法では最適生産量は達成できるが過少リサイクルとなることを示した上で、金属盗対策法を組み込んだ分析により、有価物の含有割合が高いエアコンのような製品では少ない取り締まり努力で社会最適を達成できることを明らかにした。現実の日本の制度に対応したモデルを構築した点および論文の着眼点の独創性が高く評価された。
【共同執筆部門】
入賞論文の「『実質値下げ』戦略の行動経済学的検討―貨幣錯覚とフレーミング効果に関する実験研究―」では、コンビニエンスストア大手3社が採用する値下げ戦略を題材に、名目価格の引下げと内容量増量による実質的値下げが消費者の心理的評価と購買判断に与える影響を、行動経済学の視点から実験的に検証している。大学生を対象としたランダム化比較実験により、値下げ条件(利得フレーム)では回答者の81.8%が名目値下げを選択する一方、値上げ条件(損失フレーム)では63.6%が名目値上げを忌避するという結果を得て、貨幣錯覚が利得局面・損失局面の双方で生じること、またその程度が非対称であることを明らかにした。さらに順序効果の検証を通じて実験設計の妥当性も確認しており、身近なテーマから行動経済学的知見を引き出した明確な問題意識と丁寧な実験設計が高く評価された。
(懸賞論文選考委員会委員長 堀敬一)