「CFTR変異体の細胞膜からの分解を促進するユビキチンリガーゼを発見」-指定難病の新規治療標的分子になるか?-

[ 編集者:広報室  2018年3月5日 更新  ]

 関西学院大学理工学部の沖米田司(おきよねだつかさ)准教授の研究グループはマギル大学(カナダ)生理部門 ルーカックス教授グループとの共同研究により、白色人種間で頻度が高い遺伝病「嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis: CF)」原因タンパク質CFTR変異体の細胞膜からの分解機構を解明しました。CFは日本では約150万人に1人の頻度で発症する指定難病です。CFTRは細胞膜で塩素イオンチャネルとして機能しますが、遺伝子変異により生じたCFTR変異体は細胞膜に発現できず、CFを発症します。現在上市されているCF治療薬はCFTR変異体の細胞膜発現を誘導しますが、CFTR変異体は細胞膜から速やかに分解されるため、CF治療薬の効果が減弱されることが大きな問題となっていました。本研究では、網羅的siRNAスクリーニングにより、CFTR変異体の細胞膜からの分解を促進するユビキチンリガーゼ RFFL を同定しました。RFFL は細胞膜及びエンドソームにおいて、選択的に CFTR 変異体を認識し、ユビキチン化を促進することでリソソーム分解へ導きます。RFFL の機能阻害は、CFTR 変異体のユビキチン化を阻害し、細胞膜での安定性、発現量及びイオンチャネル機能を改善しました。従って、RFFLは細胞膜のCFTR変異体を安定化する「CFTR スタビライザー(新規CF治療薬)」の有望な治療標的になる可能性があり、RFFL阻害薬は現在のCF 治療薬の大きな弱点を補うことで、有効性が高いCF薬物治療法の開発に貢献することが期待されます。

 この研究成果は3月1日に3大科学誌「セル」の姉妹紙「ディベロップメンタルセル」のオンラインに掲載されました。

ポイント

・RFFLは細胞膜及びエンドソームにおいてCFTR変異体を選択的に認識し、リソソーム分解へ導く。

・RFFLは構造異常 CFTRと直接結合し、K63結合型ポリユビキチン化を促進する。

・RFFL阻害は CFTR変異体のユビキチン化を阻害し、細胞膜での安定性を改善する結果、CF治療薬の薬効を2倍以上増強する。

・RFFL阻害剤はCFTR 変異体を細胞膜で安定化する「CFTR スタビライザー(新規CF治療薬)」としての応用が期待できる。

1.研究の背景と経緯

 嚢胞性線維症<注1>(Cystic Fibrosis: CF) は白人間で頻度が高い遺伝病で、全世界に約8万人の患者が存在します。CF は呼吸器の慢性感染症を主徴とし、感染や炎症を抑える対症療法が行われていますが、多くの患者は呼吸器不全で40歳までに死に至るため、新規治療法の開発が世界中で強く望まれています。CFはCFTR<注2>という塩素イオンチャネルの遺伝子変異(大部分は △F508 変異)によりCFTRが細胞表面に発現しないことが原因で発症します。これまでにCFTR △F508変異体の膜発現及びチャネル機能を改善するCF治療薬<注3>が上市されています。しかしながら、細胞膜に出現したCFTR △F508変異体は分解シグナルであるユビキチン化<注4>を受け、速やかに分解されるため、CF治療薬の効果は弱く、十分な臨床効果は得られていませんでした。また、CFTR △F508変異体の細胞膜からの分解機構、特に、分解シグナルとなるユビキチン化機構が不明であることが、有効な CF 薬物治療法開発の大きな障壁となっていました。

2.研究成果

 本研究では、ユビキチンリガーゼ網羅的siRNAスクリーニングによりCFTR △F508変異体の細胞膜安定性を制御するユビキチンリガーゼRFFLを同定しました。RFFLは細胞膜及びエンドソーム膜に存在し、構造異常を持ったCFTR変異体を選択的に認識します。また、RFFL は細胞膜及びエンドソーム膜において、 CFTR 変異体を直接認識し、CFTR 変異体のポリユビキチン化、特に K63結合型ポリユビキチン化を促進することで、CFTR 変異体のエンドサイトーシス及びリソソーム分解を促進します。RFFLの機能阻害により、CFTR △F508変異体のユビキチン化が阻害され、細胞膜での安定性、発現量及びイオンチャネル機能が改善し、現在使用されているCF治療薬の薬効を2倍以上増強しました。

3.今後の期待

 現在、CFTR 変異体の細胞膜安定性を改善する CF 治療薬は存在しません。また、本研究により同定した RFFL のノックアウトマウスは健常であることが知られています。従って、RFFL 阻害薬は細胞膜のCFTR変異体を安定化する「CFTR スタビライザー」という新しいクラスのCF 治療薬になる可能性があります。RFFL阻害薬は、上市されている CF 治療薬の弱点を補うことで、より有効性が高いCF薬物治療法の開発に大きく貢献することが期待できます。


図1,2

【論文タイトル】

原題: Chaperone-independent peripheral quality control of CFTR by RFFL E3 ligase

【タイトル和訳】

RFFL ユビキチンリガーゼによるシャペロン非依存性 CFTR 形質膜品質管理

【著者名】

Tsukasa Okiyoneda, Guido Veit, Ryohei Sakai, Misaki Aki, Takeshi Fujihara, Momoko Higashi, Seiko Susuki-Miyata, Masanori Miyata, Norihito Fukuda, Akihiko Yoshida, Haijin Xu, Pirjo M Apaja, Gergely L. Lukacs

【用語解説】

<注1>嚢胞性線維症:のうほうせいせんいしょう、Cystic Fibrosis (CF)、白色人種間で頻度が高い単一遺伝病。CFTRの遺伝子変異で発症する。日本では稀(約150万人に1人の頻度)であるが、難病に指定されている。慢性閉塞性肺疾患を主徴とし、対症療法が行われるが、根本治療法は確立されていない(寿命中央値は約40歳)。

<注2>CFTR:CF Transmembrane conductance Regulator、肺や腸管などの上皮細胞の細胞膜に存在する膜タンパク質(塩素イオンチャネル)で、粘液の成分や水分量を制御し、感染防御に重要な役割を果たす。

<注3>CF 治療薬 :△F508 変異 CFTR の膜発現を改善するコレクターと、チャネル機能を改善するポテンシエーターの併用薬 Orkambi® が △F508 変異を持つ CF 患者初の治療薬として、2015年に米国で認可されている。

<注4>ユビキチン化:タンパク質の翻訳後修飾の1つであり、タンパク質の分解や細胞内への輸送(エンドサイトーシス)などを促進するシグナルとしてはたらく。E1、E2、E3 という3つの酵素反応により起こり、特に、E3(ユビキチンリガーゼ)が基質選択性を決めると考えられている。

本研究内容については以下も参考にしてください。

沖米田司研究室

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問い合わせ先

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■関西学院大学 理工学部 生命医化学科 沖米田 司 准教授
 Email: t-okiyoneda@kwansei.ac.jp
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