世代を超えるエピゲノム変異の修復機構を発見—デベロップメントに掲載—

[ 編集者:広報室  2013年6月17日 更新  ]

 関西学院大学理工学部・関由行専任講師のグループは、始原生殖細胞の活発な細胞増殖が世代を超えるエピゲノム変異の伝達・蓄積を防いでいることを発見しました。これにより、今後、食物中の栄養素や化学物質が始原生殖細胞の増殖活性に与える影響を評価することで、世代を超えるエピゲノム変異原のスクリーニング系の開発に深く貢献することが期待されます。本研究成果は6月12日、発生学分野の一流研究が掲載される英国学術誌「Development」(電子版)にて発表されました。

 胎児時期の主要栄養素不足は、胎児の発育だけではなく、出産後の成人期における糖尿病や心疾患などの発症リスクにつながることが分かっています。栄養素に含まれるアミノ酸やビタミンは遺伝発現の調節を行うDNAのメチル化の材料となるため、栄養素の不足や過剰がDNAメチル化異常(エピゲノム変異)を引き起こし、その結果遺伝子発現が乱れ、糖尿病や心疾患を引き起こすと考えられています。このような現象は『胎児プログラミング』と呼ばれ、妊娠期の適切な栄養管理の重要性が唱えられています。通常、異常DNAメチル化は、卵・精子の元になる胎児生殖細胞(始原生殖細胞)で起こるDNA脱メチル化機構により消去され、次世代へ伝達することが防がれますが、胎児期の栄養過剰で引き起こされた一部の疾患が、次の世代へ伝達する例も報告されています。

 本研究では、細胞増殖時のDNAメチル化維持に必要な因子UHRF1の発現をマウスの胎児を用いて解析し、始原生殖細胞で発現が消失していることを突き止めました。また、始原生殖細胞の細胞増殖に異常をきたす遺伝子変異マウス (Cbx3欠損マウス)では、始原生殖細胞のDNA脱メチル化が異常となることを明らかにしました。これらの結果は始原生殖細胞の活発な増殖活性が、世代を超えるエピゲノム変異の伝達・蓄積を防いでいる可能性を示唆しています。これまで始原生殖細胞の増殖異常が起こる遺伝子変異マウスは多数を同定されていますが、外見上は正常な子孫を残しています。しかしながら、今回の発見は、外見は正常でもエピゲノム変異が次世代へ伝達している可能性を示唆しています。



【論文タイトル】

原題:A replication-dependent passive mechanism modulates DNA demethylation in mouse primordial germ cells
タイトル和訳:マウス始原生殖細胞においてDNA複製依存的な受動的な機構がDNA脱メチル化調節している。

【著者名】 Rika Ohno, Megumi Nakayama, Chie Naruse, Naoki Okashita, Osamu Takano, Makoto Tachibana, Masahide Asano, Mitinori Saitou and Yoshiyuki Seki

【用語解説】
■DNAメチル化:DNAの塩基であるシトシンの5位の炭素にメチル基が付与されている状態をDNAのメチル化と呼ぶ。DNAから構成される遺伝情報は1つの細胞ですべて使われているわけではなく、必要な情報と不必要な情報が選別されている。その選別の役割を担うのがDNAのメチル化である。ヒトが持つ遺伝情報が生涯を通してほぼ一定であるのに対して、DNAのメチル化は環境・食事などで可逆的に変化する。
■始原生殖細胞:胎児期に一過的に出現する生殖細胞で、男性、女性ともに存在する。精巣の環境では精子へ、卵巣の環境では卵へ分化する。
■ UHRF1: DNA複製直後、既存のDNAにはメチル化が存在するが、新たに合成されたDNA鎖にはメチル化はついていない(ヘミメチル化)。このヘミメチル化の状態をUHRF1が認識し、DNAにメチル化を付与する酵素DNAメチル基転移酵素
(DNMT1)を引き寄せ、細胞増殖時のDNAメチル化状態を維持する。



<問い合せ先>研究推進社会連携機構事務室(079・565・9052)