珪藻SLC4型タンパク質が海洋光合成を支える重要な分子であることを発見

[ 編集者:広報室  2013年1月9日 更新  ]

米国科学アカデミー紀要に掲載

 関西学院大学理工学部・松田祐介教授およびそのグループは、珪藻のSLC4型タンパク質が海洋の光合成を支える重要な分子であることを発見し、1月7日、米国科学アカデミー紀要(オンライン初期版:Early Edition)に掲載されました。

 海洋性珪藻類が地球全体の二酸化炭素固定(光合成)の20%をも担う重要な植物プランクトンであることは1990年代後半に初めて分かったことです。このことは珪藻類が海洋における炭素をはじめとする物質循環に重要な役割を果たす生物であることを意味しています。海洋は二酸化炭素が極めて少なく、代わりに二酸化炭素が水と結合して作られる重炭酸イオンが豊富です。珪藻類が海で活発な光合成を行うには、重炭酸イオンを積極的に利用する必要性がこれまでにも指摘されていましたが、その詳しい仕組みは全く分かっていませんでした。
 この研究では、珪藻類の遺伝子から重炭酸イオン輸送体タンパク質をコードしたものを探した結果、ヒトをはじめとする哺乳類に近縁のSLC型遺伝子が多数見出されました。このうちの一つ、PtSLC4-2を珪藻類細胞内で過剰に生産したところ、重炭酸イオンの取り込みと光合成が強化された変異体珪藻が得られ、この輸送体タンパク質が珪藻類の光合成を支える重要な分子であることが分かりました。

 上記により、海洋で植物プランクトンが活発に光合成をおこなうための詳しい仕組みの一つが初めて明らかとなりました。これは海洋の食物連鎖や物質循環を支える仕組み解明の重要な一歩となります。
 さらにこの研究から、ヒトの体内でpHやイオン濃度などを一定に保つために働いているタンパク質と同じ起源を持つタンパク質が、海洋や大気の中の炭素をはじめとする物質循環バランスの維持にも働いていることが明らかとなりました。
 一方、海洋性珪藻類はEPAなどの油脂生産も盛んに行い、これは最終的には魚を通じてヒトの健康にも役立っています。また光合成生物が生産する油脂はバイオ燃料として注目されていますが、人類の食糧と競合することが問題となっています。珪藻類は旺盛な油脂生産能力を持ち、食料と競合しない次世代のバイオ燃料源としても期待されています。珪藻の油脂は光合成によって生産されており、その原料は海に溶けている二酸化炭素や重炭酸イオンです。今回の成果は珪藻類の油脂生産の増強などにも応用し得る発見と言えます。

【論文タイトル】
■ 原題:SLC4 family transporters in a marine diatom directly pump bicarbonate from seawater
■ タイトル和訳:海水から直接重炭酸イオンを取り込む珪藻のSLC4 ファミリー輸送体

【用語解説】
SLC : Solute Carrier
海洋性珪藻 : 海洋に最も繁栄する植物プランクトンで、ケイ酸質(ガラス)の殻で覆われていることからこのように呼ばれる。二次共生という特殊な進化を経て葉緑体を獲得した植物のグループに属し、その細胞の詳しい働きには謎が多い。
EPA : エイコペンタエン酸の略称。珪藻などが生産し、食物連鎖を経てイワシなどの魚の油脂の原料となる長鎖不飽和脂肪酸。ヒトの体内で3 系プロスタグランジンという重要な生理活性物質の先駆体となる。
バイオ燃料 : 光合成など、生物によって作られるアルコール、軽油、および重油などの燃料の総称。

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