2011年5月15日発行 232号 特集

[ 編集者:広報室       2011年5月16日 更新  ]

途上国の課題解決へ現地で支援活動~国連学生ボランティア~

  

  

関西学院大学はアジアの大学で初めて、世界で3校目に国連ボランティア計画(UNV)と協定を結び、学生をボランティアとして開発途上国へ派遣する「国連学生ボランティアプログラム」を実施している。派遣は2004年度から実施しており、これまで59人がプログラムに参加してきた。先進的でユニークなプログラムを通じて、学生たちは何を学ぶのか。国際教育・協力センター国際教育プログラム室の關谷武司准教授や参加学生のインタビューから探る。

現地の人の思いを学生の力で実現へ

関谷武司准教授(国際教育協力センター)

関谷武司准教授(国際教育協力センター)

 国連では、正規職員以外に多くのボランティアが働いている。彼らの派遣・調整を行う唯一の機関がUNV。その活動はPKO(国連平和維持活動)をはじめ、農業、教育、医療など100種類以上にわたる。
 関学は07年度までの当初4年間、途上国における情報格差解消を目的とした国連情報技術サービス(UNITeS)ボランティアとして学生を派遣した。08年度以降は、※国連ミレニアム開発目標の達成に貢献するために、派遣先を教育、環境、保健衛生などの分野にも拡大。学生たちは、現地NGOや政府機関、UN事務所などで現地の専門家やスタッフと一緒に働いている。「途上国には、教育や環境などさまざまな問に取り組みたいと考えている人がいますが、広報をしたりホームページを作成したりするノウハウがありません。現地の人のやりたいという気持ちを実現するためには、知識や技能を身に付けた人間のサポートが必要です。関学の学生たちはその力を持っています」と、国連学生ボランティアプログラム担当の關谷准教授は話す。
 派遣時に20歳以上となる学部2年生からが対象で、派遣期間は春学期または秋学期の約5カ月。国連学生ボランティア奨学金として30万円が支給され、所定の課程を修めると最大16単位が認定される。初年度の8人を皮切りに、10年度までに56人が10カ国で活動した。11年度春学期も、3
人の学生がサモアやフィジーのUN事務所でウェブサイトの運営や広報活動などに従事している。

苦労や困難を重ね価値観が変わる

 

 

 お金さえ出せば欲しい物が手に入る、やりたいことができるという恵まれた環境で育ってきた学生にとって、途上国での生活は困難なことが多い。文化や生活習慣がまったく異なる世界にたった一人で飛び込み、生活基盤を築き、周りの人たちに存在を認めてもらい、コミュニケーションを取りながら仕事を進めていくという高度なスキルを要求される。
 「自分をどう表現すればいいのか分からない」「どうしてそんなことを言うのか」「どうすれば仕事を与えてもらえるのか」など、派遣先で壁にぶつかり、悩み、自ら考えて解決策を見いだしていく。「過程が大事。苦労をし、経験を積むことで価値観が完全に変わり、別人のように成長します」と關谷准教授。「このプログラムは関学のスクールモットー“Mastery for Service”を具現化する事業。どんなに厳しくてもやり抜く価値がある。たくさんの苦労やしんどい思いをして自分を鍛え、長いスパンで考えて将来や世の中のために役立ててほしいですね」とプログラムの意義に力を込める。

早い時期からの準備学習が効果的

 

 

 候補者は派遣の前学期初めに募集し、書類審査と面接審査で決定する。事前研修で国連や国際機関に関する知識、途上国問題への理解、プロジェクト・サイクル・マネジメント、異文化コミュニケーションなどのスキルを習得する一方、作成した英文履歴書をUNVに提出。受け入れ機関とのマッチングや電話インタビューにより派遣先が決まる。
 UNVが学生ボランティアに求めるレベルはさらに高くなっており、「個々の学生に足りないものを見つけ、能力を身に付けさせるためには、トレーニング期間は長い方がいい」と關谷准教授は言う。国際協力事業室には派遣候補者を目指す学生たちが集まり、異文化の途上国で生活し外国人と仕事をするために必要と考えられるあらゆる事柄について、關谷准教授や派遣経験者から学んでいる。
「高校生の時にこのプログラムを知って関学を選んだ学生もおり、入学した段階から準備することが望ましい。志のある学生に、いかに速やかにここのドアを叩かせるかが課題です」
 一人でも多くの学生に早い時期から興味・関心を持ってもらえるよう、1年生を対象に、国際協力に関する入門科目「さまざまな職業を通した国際貢献」「国際情報分析」なども開講している。

他大学や留学生へ広がりを期待

 

 

 関学の先進的な取り組みは、文部科学省や全国の大学の注目を集め、学生ボランティアの派遣に意欲を示す大学も出てきた。スペインでは、一つの大学が核となって他26大学とコンソーシア
ムを形成し、国や地方自治体の財政支援を受けながらプログラムを実施している。
「日本でも、すでにノウハウがある関学が中心となってコンソーシアム化を進められればと思っています」
 また、UNVからは、日本人学生だけでなく、関学で学ぶ留学生の派遣を求める声も上がっており、海外協定校への声掛けなど前向きな取り組みを進めている。
 関学が先陣を切り、実績を重ねてきたプログラムは今、他大学へ、さらに留学生へと広がりつつある。

国連学生ボランティア参加学生インタビュー

2010年度春学期にネパールのUN事務所で活動

総合政策学部4年生 荻野 良さん

荻野良さん(総合政策学部4年生)

荻野良さん(総合政策学部4年生)

 国連学生ボランティアのことは入学前から知っており、先進国に留学するより、途上国の厳しい環境下で働く方が学ぶものが多いだろうと参加しました。奨学金も魅力でしたし、3年生で行けば就職活動へのモチベーションも上がるかな、という思いもありました。
 行くまでは、命令どおり仕事をしたらいいと思っていたのですが、デンマーク人の上司は仕事をくれず、「ちょっと待ってくれ」と言っては1時間以上も放っておかれるような状態でした。そこで、「この仕事をやってもいいか」「待てないから、今すぐ考えてくれ」としつこいほど絡むようにしました。組織に貢献し結果を得たいと思ったら、受け身ではなく、主体的に考えて行動することが大事だと教えられました。
 ウェブサイトの運営に限らず、あらゆる事務作業をしました。ボランティアのサポートでは、ボンの本部から依頼を受けて、国内外へ派遣される人たちの航空券の手配を担当。国民性の違いでしょうが、それまでがのんびりとしたマネジメントだったので、担当が変わって効率性が向上したとほめられました。スーダンからの難民のための農業プロジェクトでは、お金の管理をし
たり、難民たちにどんなことをしたいかを聞いて実行団体であるNGOと話し合ったり。NGOのフォーラムに参加し、UNVの職員としてスピーチもさせていただきました。
 世界の優秀な人材が集まる国連で働くことは、思っていた以上に厳しかったですね。英語の勉強には力を入れ、語いも増やしたつもりでしたが、マニアックな専門用語が飛び交い、造語もあって理解には苦しみました。自分の仕事のレベルなら大丈夫でも、組織全体のこととなるときつかったです。特に最初の1カ月は、世間知らずだった自分に失望してばかりいました。
 ゲストハウスでの暮らしも、とにかく刺激的でした。網戸に開いた穴からムカデやゴキブリなどいろんな虫がやって来るし、シャワーを浴びていたら泥水が混じったり、毎日突然停電になったり。随分ひどかったですが、そういう生活が好きでしたね。
 期間中は喜怒哀楽、全ての感情を経験しました。仕事に失敗して落ち込んだり、同僚とけんかしたり、行きつけのレストランの店員さんとの会話で癒やされたり。いろいろな経験をしすぎるほどして、間違いなくタフになったと思います。

2010年度秋学期にフィリピンのUN事務所で活動

文学部4年生 曽我部 遥さん

曽我部遥さん(文学部4年生)

曽我部遥さん(文学部4年生)

 フィリピンはボランティア活動が活発な国です。ボランティア国際年10 周年の2011年を前に、UNVがサポートする二つのイベント、ユースフォーラムとマニラ湾のクリーンアップが行われ、着任早々、その準備を担当しました。
 ユースフォーラムでは、地元の大学生たちが国連のミレニアム開発目標について、自分たちは何ができるのかを話し合い、発表しました。また、8千人を超えるボランティアがマニラ湾周辺を清掃したクリーンアップイベントに関しては、現場の視察ボランティアや協賛大学への声掛けから、関係者への招待状の送付、さらに終了後は記事の作成とウェブへのアップまで一連の作業に従事しました。
 イベントづくりを通して、日本とフィリピンの違いがよく分かりました。開催に向けて計画的に話し合いを進める日本に比べ、フィリピンではアイデアが次から次へと出てきます。まとまるのかどうか不安でしたが、当日にはきちんと形になっている。方法も答えも一つじゃないのだと勉強になりました。リーダーとなる人は人前では決してネガティブな言葉を口にせず、部下には能動的に仕事を任せながら困難が生じた時にはスムーズにいくよう軌道修正します。働き方のコツが分かるまでは、かなり悩みました。
 生活していたマカティ市は治安のいいビル街ですが、少し離れると貧民街があり、物乞いする人やストリートチルドレンがいます。ボランティアで来ていながら、そういう人から身を守ることも考えないといけません。日本では福祉施設でお手伝いをしており、経験を生かして立場的に弱い人の役に立ちたいという気持ちで来たはずなのに、と落ち込むこともありましたが、仕事を通して周りの人の「助かったよ」という言葉や笑顔に支えられました。
 事務所が休みの週末には、友達になった現地のNGOの人や学生たちと一緒にNGOの活動を見に行ったり、スラムの子どもたちを訪ねて英語を教えたりしました。フィリピンの人は、家族や友人など周りの人をとても大切にします。恵まれた暮らしの中で私たち日本人が忘れてしまっていることをたくさん思い出させてくれました。
 「国連は、それなりの力を持っている。政府に対等にものが言えるし、社会を改善するために政策を変えさせることもある」と、ある人に言われ、本当にそうだなと思いました。そんな組織に将来、戻ることができればと思っています。


◆国連学生ボランティア活動日誌◆
以下のリンクから、国連学生ボランティア派遣学生の活動日誌を見ることができます。

国連学生ボランティア

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卒業生は今

現地で培った粘り強さが今の仕事に生きています

三井物産株式会社勤務 樋口祥子さん(2010年法学部卒)

 

 

“You opened my eyes!”活動最終日、現地のNGO職員から言われた言葉で、今もこの瞬間の達成感は忘れられません。最初、現地職員は初めて見る日本人に戸惑い、広報活動にも消極的でした。しかし、私が現地語を習得し、打ち解けるために彼らと共に羊の頭をも食べるほど彼らの文化を受け入れ、粘り強くプロジェクトの存在意義や将来性を語り掛けることによってチームが一つになり、ウェブサイトを完成させることができました。
 現在は勤務先の法務部員として、欧州・中東・アフリカ、そしてキルギスを含むCIS地域の貿易や投資案件を担当しています。国籍や国民性の違う相手とビジネスを創造するためには、相手の懸念を突き止め、歩み寄りながらこちらの主張も組み込むことが必要です。この過程は根気がいりますが、それはまさに、キルギスでの経験で培った粘り強さが生かされています。
 一歩踏み出すことで、想像以上の達成感が待ち受けています。ぜひ挑戦してみてください。

2011年4月 新入生歓迎特別号

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