2025.01.30.
気道上皮細胞間におけるEPHA2受容体-EFNA1リガンド結合が病原体感染による炎症応答を増幅するセンサーとして働く仕組みを解明
関西学院大学生命環境学部生命医科学科の福田亮介助教(研究当時)と沖米田司教授らの感染刺激時の気道上皮細胞の炎症調節機構に関する研究成果が2025年1月21日に米国 Cell Press 社の国際科学誌「iScience」のオンライン版に掲載されました。本研究では、気道上皮細胞の形質膜に発現するEPHA2受容体とそのリガンドであるEFNA1のトランス結合が感染刺激により一過性に解離することで、気道上皮細胞の炎症性サイトカイン産生を増幅する機構を見出しました。本研究成果は、気道上皮における炎症応答の新たな調節機構の理解だけでなく、呼吸器疾患における過剰な炎症応答を制御する新たな治療戦略の構築に貢献することが期待されます。
なお、本研究は科学研究費助成事業(21K15475、19K16508、JP16H06277)などの支援を受け実施されました。
ポイント
- 発光タグを応用して、細胞表面のEPH受容体-EFNリガンドのトランス結合をリアルタイムに測定する技術を確立しました。
- 病原体成分による刺激がEFNA1の切断を誘導することで気道上皮細胞間のEPHA2-EFNA1のトランス結合を一過性に解離させることを解明しました。
- EPHA2-EFNA1トランス結合の解離が気道上皮細胞における炎症反応を増幅することを明らかにしました。
研究概要
気道上皮細胞は細菌やウイルスなどの病原体から体を守る重要なバリアとして働くとともに、感染が起こった際に病原体を認識し炎症応答を誘導する役割を担っています。受容体型チロシンキナーゼであるEPH受容体(※1)は、隣接する細胞の膜上に存在するリガンドであるEFN(※2)とトランス結合(※3)し、細胞間の情報伝達により組織の恒常性を維持しています。EPH受容体はリガンドとの結合の有無で異なるシグナル経路を活性化します。例えば、EPHA2受容体の場合、リガンドが結合するとチロシン残基のリン酸化やオリゴマー化が進み、結果として細胞の増殖や移動(遊走)が抑えられます。一方、リガンドがない場合はセリン残基がリン酸化され、細胞の増殖や移動(遊走)が促進されます。EPH受容体とEFNの結合は、上皮の構造を保ち、感染に対する防御に重要とされています。しかしながら、病原体感染による炎症が起きた場合にEPH受容体とEFNの結合がどのように変化するか、また、その結合の変化が気道上皮細胞の炎症応答にどう影響を与えるのかは、これまで明らかになっていませんでした。
本研究では、EPH受容体とそのリガンドであるEFNのトランス結合をリアルタイムに測定する定量法を開発し、病原体感染が引き起こす炎症シグナルがEFNA1の切断を促し、EPHA2受容体とEFNA1のトランス結合が一時的に解離されることを明らかにしました。また、炎症誘導時のEFNA1切断にはメタロプロテアーゼの一種であるADAM9が重要な役割を担うことを明らかにしました。さらに、EPHA2受容体-EFNA1トランス結合の解離は、病原体感染の有無に関わらず、気道上皮細胞における炎症性サイトカインの産生を誘導することを明らかにしました。これらの結果から、EPHA2受容体-EFNA1トランス結合の解離は炎症シグナルを増幅するセンサーとして働くことが明らかとなりました。また、病原体感染による炎症刺激はEPHA2受容体-EFNA1トランス結合を解離し、炎症シグナルを増幅させることで病原体排除を促進するメカニズムが存在することが示されました。
本研究の成果は、病原体感染に伴う気道上皮細胞の炎症応答の新たな調節メカニズムを明らかにするとともに、呼吸器疾患における過剰な炎症を抑える新たな治療戦略の確立に貢献することが期待されます。
(※1)EPH 受容体:受容体型チロシンキナーゼの一種であり、細胞間の接着部位でリガンドと相互作用し、シグナル伝達を担う。
(※2)EFN(Ephrin):EPH受容体と結合する膜結合性リガンドで、EFNA1はEPHA2受容体と結合することで組織恒常性維持や細胞増殖の抑制に関与する。
(※3)トランス結合:異なる細胞に発現するタンパク質同士が細胞間隙で相互作用する結合様式。
論文情報
掲載誌:iScience
論文タイトル:Perturbation of EPHA2 and EFNA1 trans binding amplifies inflammatory response in airway epithelial cells.
著者:Ryosuke Fukuda, Shiori Beppu, Daichi Hinata, Yuka Kamada, Tsukasa Okiyoneda
DOI: 10.1016/j.isci.2025.111872