2022.09.16.
2022年度春学期 司法研究科学位記授与式 研究科長挨拶

 Aさん、Bさん、そしてCさん、修了おめでとうございます。
 Aさんについては、民事ローヤリングIIの模擬法律事務所間の対抗戦で、チームリーダーとして腕を振るっていた姿を思い出します。Bさんは、民事ローヤリングIでズーム越しでしたが、模擬依頼者に対してとても丁寧な対応をしていた場面が目に浮かびます。Cさんは、民法総合演習Iでいつもじっと考え悩みながら極めて詳細な書き直し起案を提出されていたことが印象的でした。

 皆さん、9月修了という点では予定外だったでしょうし、その分、思い悩む点も深かったと想像します。しかも、この2年半はコロナの真っただ中。ただでさえ、うつ病になりそうな競争環境の中で、この時期を通して平穏な精神状態を維持することは容易ではなかったのではないでしょうか。そういった苦難や忍耐を経て、今日の修了に至ったことを、皆さん、誇りに思ってください。

 さて、これから皆さん、来年7月の司法試験に向けて準備をされると思いますので、一言だけ試験に臨む姿勢についてヒントを述べておきます。

 有名な孫氏の兵法に、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉があります。この言葉は司法試験という人生における闘いにもあてはまると私は思います。敵を知るということは、過去問や出題意図などから司法試験で何が問われているのかを、知ることです。己を知るというのは、自分の癖や弱点を知るということですから、この両者を知れば、十分に戦えるということはよくわかると思います。ただ、この言葉はもう少し含蓄があるように思うのです。このフレーズの原文を読むと次のように続いています。

 彼を知り己を知れば百戦殆あやうからず。
 彼を知らずして己を知るは一勝一負す。
 彼を知らず己を知らざれば戦う毎に殆あやうし。

 特に第2文が、自分を知らなくても敵を知っていれば五分五分の勝負に持ち込めるとは言っておらず、五分五分に持ち込むためには、まずは自分を知ることを優先している点に注意すべきだと思います。
 学習理論ではそのことをreflection、日本語では反省とか省察があてはまりますが、ロースクールでは「振り返り」という言葉を使ってきました。来年7月の受験に向けて、今後、過去問や模擬試験や過去の問題などに取り組むと思いますが、自分の間違いや失敗を振り返り、改善に取り組む姿勢をもってこの1年弱を過ごして頂きたいと思います。
 次に敵である司法試験のことを言えば、来年は3+2制度で入ってきた受験生の在学中受験が始まります。そうすると、司法試験はますます詳細な知識よりも基本を中心にした応用力が問われる問題、つまり現役生でもきちんと考えれば解ける問題となっていくはずです。そのことを考慮して、基本重視の姿勢で学習にとりくんでください。
 最後に、今後、社会に出ていく中で、是非、社会の今後についての長期的な視点、ビジョンを持ってほしいということを伝えておきたいと思います。世界はますます不安定になり、変化も急速になります。パンデミック、地域戦争に続いて、気候変動や食糧危機、さらには大きな戦争すら予想される世の中になっています。そんなとき、常に自分の位置を見失わないような北極星にあたるような原点、私は法律家にとってはそれは正義への志向だと思うのですが、その原点に照準を合わせて、長期的な視点から今にバックキャストして、今すべきことを見出していく、そんな姿勢を持って生きてほしいと思います。
 本日、午前中の学位記授与式で関学のマスタリーフォーサービスに関係する聖書の言葉が引用されていました。一部だけ読みあげると
 「そればかりでなく、苦難をも誇りとします。わたしたちは知っているのです、苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。」
 練達とはマスタリーフォーサービスの日本語ですが、それは自らが自らの主となってしかし公共の目的のためにもてる熟練の能力を持って奉仕するという意味です。それは皆さん自身の希望の源であるとともに、ますます混迷を深める現代社会の新しい希望でもあります。
 皆さんの今後の活躍を期待して、お祝いの言葉とさせていただきます。

 2022年9月16日 

 関西学院大学司法研究科長 池田 直樹


(本文は学位記授与式で行われた挨拶について、一部の表現と引用文言を加筆・修正したものです。)