2016.05.11.
2015年度リサーチコンペ採択者の研究成果報告書を掲載しました

先端研リサーチコンペ 2015年度採択者による成果報告書

先端研リサーチコンペ2015年度採択者5名より提出された成果報告の概要は、以下の通りです。
 

小規模漁業者による漁業種類の選択課程とその実態―大阪府岬町深日地区を事例に

前田 竜孝

1.研究成果(経過)

 漁業者数の減少、魚価の低迷、輸入水産物の増加、水産資源の減少など、日本漁業を取り巻く社会・経済的状況は厳しさを増している。1970年代に200カイリ水域が設定されて以来、漁業の中心はそれまでの企業経営を中心とした遠洋漁業から、小規模家族経営を中心とした沿岸漁業へもシフトしていった。これらの経営体では、漁獲や集出荷など漁業活動の様々な局面で変動する社会・経済的状況への対応を迫られるようになった。
 地理学における漁業活動を扱った研究成果に注目すると、潮汐の周期性や海底地形などを中心とする漁場環境と活動の関係が考察されてきた。漁業活動には自然環境と同様に、漁業規制、漁獲制限などの制度面、あるいは水産物流通や魚価などの経済面も影響を与えている。したがって漁業者の活動を捉えるためには、自然的側面だけに注目することなく、これらの影響も同じく追求していくことが求められる。
 以上のような問題意識より、漁業者が水域での活動のなかで、社会・経済的課題にどのように対応しているのかを明らかにすることを研究の目的とした。調査対象地域は、大阪府岬町深日に設定した。当地は、後背地に大阪市や神戸市などの水産物の大消費地、巨大な労働市場を抱えており、経済・社会的な環境変動は著しい。さらに、複数の小規模沿岸漁業が営まれているため、漁業種類ごとに多様な活動が観察される。以上が当地を対象地域に選定した理由である。
 調査方法は、聞きとり調査や統計分析とともに、時間配分調査法も採用した。これは、各経営体や個人が時聞を一定の限定枠のなかで、どのように利用しているのかというメカニズムを明らかにする実証的な方法である。個人の意思決定と同時に彼らを取り巻く自然環境ならびに社会・経済環境が個人の活動に及ぼす影響を考察できる。そうすることで、漁業者と彼らを取り巻く社会・経済環境との関係性をより実証的に明らかにできるわけである。
 本研究では、以下のことが明らかになった。第一に、各経営体による社会的課題への対応である。当地では、漁業者数の減少という課題を抱えている。特に、中心的な漁業種類の船曳網は、1漁船団当たり4人から5人を必要とするため、各経営体では乗組員(乗り子)不足が深刻化している。そこで近年では、船曳網経営体の経営主(親方)は、漁業地区内外の他経営体の漁業者に乗組員として従事するように依頼している。時間配分を分析すると、このような親方と乗り子の関係性が各経営体の漁業活動に対して積極的に影響を及ぼしている実態が明らかとなった。第二に、時間配分調査法を含んだ生態学的方法の多様な研究への応用可能性を展望することができた。生態学的方法は田和によって「漁業活動に直接参加し、漁場と漁業活動との関連性に注目しながら観察や測定、測量によって基礎的な資料を獲得する方法」と定義つけられたものであり、時間配分調査法もこれに含まれる。これまで生態学的方法は、主として自然環境と人間の関係性を解明するために用いられてきた。しかしながら、本研究では基礎的なデータ収集により、社会・経済環境と漁業活動の関係性を実証的に把握することができることが明らかになった。以上のように、本研究では、漁業活動の実態把握とともに、調査方法の可能性についても言及できた。

2.発表論文、学会発表等

2015年人文地理学会大会(於大阪大学)2015年11月14日
発表題目「漁労活動に及ぼす漁業者間関係の影響一大阪府深日を事例にー」
 

労働/非労働の二元論を超えて―インディー・ミュージシャンへの人類学的考察

生井 達也

1.研究成果(経過)

 本研究は、現代日本社会を支配する労働と非労働という中心と周辺の非対称的な分割による二元論のディスコースが、人々の活動を資本主義的な有用性という一元的価値に包摂し、それによる意味づけが不可能な生活の在り方が他者化されているという事実に注目し、そのような中心化の視点を乗り越えて、排除的に他者化された生活の在り方を内在的な視点に寄り添ってその実相を明らかにすることを目的に進められた。
 上記の目的を果たすため、現代社会において他者化されている生活の在り方を示す者の事例として、主にライブハウスを拠点として音楽活動をする「インディー・ミュージシャン」と呼ばれている者たちを取り上げ、彼らの内在的視点から労働/非労働の二元論を相対化し批判的に検討を行ってきた。
 研究は文献研究とフィールドワークによる参与観察によって進められた。文献研究では、文化人類学による交換や経済人類学の分野、近代以降の労働観や資本主義システムの問題、ポピュラー音楽論、近年になって出版された音楽実践に関する指南書などを精読し、労働と非労働の二元論の中心-周辺という構図により、中心(労働)から周辺(非労働)が常に「パッケージ化」され労働化され、そこからも漏れ落ちる周辺的実践を排除、不可視化していいることを明らかにした。そしてそうした労働化の傾向は現代における音楽実践のありかたにも反映し、合理化、効率化、個人化した音楽活動が「パッケージ化」および「労働化」する危険性をはらんでいることが明らかになった。
 このような社会的・文化的な状況の中で、インディー・ミュージシャンや彼らが音楽活動を行うライブハウスは、非合理的、非効率的な場になりつつあるが、それでもそこで活動する意義はどのように見出されているのか、そこから見えるものとは何か、に着目しフィールドワークは進められた。
 採択期間中は、京阪神、東京、福岡のライブハウス7箇所についてのフィールドワークを計23回行い、そこに出演するミュージシャンや店長、客について参与観察を行った。特に5人のミュージシャンとライブハウス店長からライフヒストリーも聞き取りを行った。フィールドワークでは、音楽活動が労働であるかそうではないかといった点や、ギャラや商品の売り上げ、店の売り上げ、チケット代などライブハウスを取り巻く経済的部分に焦点を当てて聞き取りや参与観察をおこない、彼らが市場交換と贈与交換をブリコラージュ的に実践することで、労働/非労働の二元論や商品/非商品、市場/非市場という近代的な二元論を戦術的に横断していることが明らかとなった。また、「ライブハウスでライブする」ということが、「売れる」ことや「食う」ことを目的にせず、ライブハウスにおける〈いま-ここ〉での音楽を媒介にした他者との身体の共振や共宴が重視されていることがわかった。これにより申請者は、これらの活動から労働/非労働の二元論が導く「労働化」へと向かわない活動を示唆できるのではないかと考えている。

2.発表論文、学会発表等

2016年7月に行われるカルチュラル・タイフーン2016で発表を行い、先端社会研究紀要に投稿を行う予定である。
 

ネパールにおける低位カーストおよびエスニック・マイノリティの修学実態に関する研究―M7.8の大震災による影響

江嵜 那留穂
吉田 夏帆

1.研究成果(経過)

 本研究は、①カースト・エスニシティ別の子どもたち一人一人の教育へのアクセス、②2015年4月に発生したM7.8の大震災がもたらした子どもたちの教育アクセスへの影響について検討することを目的としている。①に関しては個々人の修学パターン、②については子どもたちの出席状況に着目し分析を進めていく。
 中間報告では、データ分析対象者数を増やし、473人分の修学パターン分析結果を提示した。その後は、データ分析を進めつつ、二度にわたり調査対象地域であるバクタプル郡において現地調査を実施した。第一現地調査では、2015年11月30日から12月10日までの期間に、1) 調査対象校における追加データの収集、2) 不登校傾向者に関するインタビュー調査を実施した。帰国後、収集データの整理およびデータベースの構築を行い、これまで収集したデータと合わせて総合分析を実施した。その結果、M7.8の大震災がもたらした子どもたちの教育アクセスへの影響に関しては、1) 震災直後には出席者数が激減するものの、数ヶ月後には平時と変わらない程にまで戻ること、2) 急性期に不登校傾向となった者63人のうち、61人が低位カーストの子どもたちであること、3) 不登校傾向者の大部分は家屋に大きなダメージを受けていること等が明らかとなった。今後は、不登校傾向者を二つのグループ(①出席率25%以上50%未満のグループ、②出席率25%未満のグループ)に分け、彼らを取り巻く家庭背景に関するデータ分析を進めていく予定である。
 第二現地調査は、これまでのデータ分析から明らかにした個々の子どもたちの修学パターン(473人分)をもとに、2016年1月15日から2月11日までの期間、家庭訪問調査を実施した。調査対象者は、ランダムサンプリング法によって抽出された113人である。調査では、1年生の途中で退学した子どもや留年を経験することなく進級し続け卒業した子ども等の家庭背景や当時の生活状況を把握するため、保護者や兄弟、本人に対して半構造化インタビューを実施した。その結果、全体に占める上位カーストおよび低位カーストの比率よりも、卒業パターンにおいては上位カーストの比率が高く、退学パターンにおいては下位カーストの比率が高いことが明らかとなった。今後は、詳細分析を進め、退学者に見られる特徴などについてまとめていく計画である。

2.発表論文、学会発表等

1) 江嵜那留穂、「M7.8の大震災がもたらしたネパールにおける子どもたちの就学フローの変容」、『第26回 国際開発学会 全国大会』、新潟、2015年11月28−29日
2) 江嵜那留穂、「個々の子どもたちの修学パターンによる基礎教育評価」、『第16回 日本評価学会 全国大会』、沖縄、2015年12月12−13日
3) Naruho Ezaki. "Enrollment patterns of Nepalese children in sub-rural area." Comparative and International Education Society 2016. Vancouver, Canada. March 6-10th, 2016
 

神輿会のフォークロア―東京圏の都市祭礼を支える人びと

三隅 貴史

1.研究成果(経過)

 昨年7月の採択以降、御殿場わらじ祭り(静岡県御殿場市)、上尾夏奈り(埼玉県上尾市)、せたがやふるさと区民祭り(東京都世田谷区)、氷川赤坂神社例大祭(東京都港区)、青山熊野神社例大祭(東京都渋谷区)に参加した。また、その際に関係を構築した神輿会や地域の人びとに対して、聞き取り調査を行った(2015年11月、2016年2月)。この中で多くの神輿会の成員や、地域の人びとと調査上の関係を構築する事ができた。
 本研究の目的は、ひとつの祭礼の場における神興会(年に複数回、祭礼やイベントにおいて神輿を担ぐことを続けている、神輿愛好家による集団)の姿ではなく、社会における神輿会の姿を明らかにすることによって、グローバル都市の祝祭を支える人びとの実践を記録することである。
 報告者は昨年度、神輿会への参与観察や聞き取り調査を行っていく中で、神輿会を研究することの重要性は、都市祭礼の3点の変化を記録できることであると考えた。1点目が、神輿会が成立した1960年代から、会の結成がブームとなり徐々に浸透していく70年代にかけて、祭礼に影響を与えたことによる変化である。神輿会を研究することを通して、江戸前の伝統として自明視されている「江戸前担ぎ」や「粋な服装」といったものを神輿会が生み出し、伝播させてきた可能性があることに言及できると考える。2点目は、神輿会が祭礼において定着を見せたことによる、祭礼の現代的な変化である。地域に存在する神輿会が互いに関係を構築し、複数の祭礼に参加していくネットワークを研究することによって、数多くの神輿会の協力によって東京の祭礼が維持されている可能性を指摘できると考える。3点目は、神輿会を介して、祭礼と別の祭礼及びイベントとがお互いに影響を与え合うようになったことによる祭礼の変化である。東北地方や四国地方などにおいて江戸前担ぎの伝統を継家することを目的とする神輿会の成立が相次いでいるが、東京、そして地域の神興会を研究することを通して、江戸前神輿のヒエラルキーの周辺部に対して神興会がどのように技術の伝達を行っているのか、そしてその地域の人びとはどのようにそれを受け入れ、理想化していくのか、ということを明らかにすることができる。
 また、日本神輿協会アカデミー編(2010)(に記載されている202の神輿会を分析することによって、草創期の神輿会が1950年代後半から60年代前半に成立してくること、そして1970年代に成立がブームになることを明らかにした。これらのデータから草創期に23区東部で成立する神輿会と、成立ブーム以後に東京圏全体で成立してくる神輿会との間には、質的な差異が存在している可能性があることを指摘することができると考える。
 2015年度はこのような研究成果を挙げることができたものの、このような成果は「社会における神輿会の姿を明らかにする」という目的からすると、実に瑣末なものでしかない。このような研究成果を活かして今後は、前述した神輿会研究の重要性を手がかりとしながら、より長期的な参与観察・聞き取り調査を行い、仮説を検証していくことが求められているだろう。

2.発表論文、学会発表等

1.日本民俗学会第67回年会(2015年10月11日)、報告タイトル:都市祭礼研究と「神輿会」、場所:関西学院大学。
2.104年日本東亞研究博碩士生臺灣研習團(2015年11月16日)、報告タイトル:祭禮的維持和利用:人口減少時代的日本和台灣為事例、場所:國立嘉義大學。
また、『京都民俗』第34号に対して以下の論文を投稿した。
論文タイトル:「神輿会」研究の課題――都市祭礼研究の一視点
 

承認に関する意識の測定尺度の作成―計量社会意識論のアプローチを用いて

智原 あゆみ

1.研究成果(経過)

 本研究の目的は、人々が他者からの承認をどのように感じているのかという承認に関する意識と社会との関連を明らかにすることである。その手がかりとして、承認に関する意識を計量社会学のアプローチを用い実証的にとらえることを試みる。承認に関する意識を実証的に捉えるために、昨年度は①承認に関する先行研究群の検討、②質問項目・調査票の作成、③ウェブ調査の実施、以上の作業に取り組んだ。
 承認に関する意識を測定するにあたり、まず初めに質問項目作成のための先行研究の整理に取り組んだ。政治哲学の分野においては、承認に関してマイノリティなど特定の集団への権利付与に関する制度的な承認の問題を中心に議論(Fraser 1997=2003)が蓄積され、また、近年の日本社会で承認が取り上げられる事例では、「若者」をはじめとする個人の情緒面での問題に焦点を置いた承認の問題が議論(大澤 2008)されてきた。また、これまで承認に関する議論においては、“誰が”承認をするのかに注目した承認の類(Honneth 1992=2003, 山竹 2011)がされており、承認をする他者との関係性が重要な点であることが明らかにされた。
 次に先行研究群の検討の結果を踏まえ、承認に関する意識の測定項目と調査票の作成に取り組んだ。質問項目を作成する際には“誰からの”承認であるのかに注目し、「社会からの承認」と「周囲からの承認」を尋ねる項目を作成した。また、調査票には承認に関する意識の項目の他にネットワークに関する項目、社会構造的な変数群を含め、それらの変数と承認に関する意識の関連を検討できる調査票の作成に取り組んだ。
 そして、上記の調査票を用いたウェブ調査「人びとの暮らしと対人関係に関する意識調査」を実施した。ウェブ調査は調査会社に依頼し、調査対象者は20~69歳の男女(注1)、ケース数は600とし、2016年3月9日~14日に実施した。
 今後の研究では、ウェブ調査の結果を計量的な手法を用いて分析することで承認に関する意識の因果モデルを明らかにすることに取り組む。承認に関する意識を検討していく際には、その承認が誰からのものであるかに着目し、それぞれの次元(社会からの承認、周囲からの承認)によって規定因が異なるのか、または同様であるのかに関して検討を行う。さらに、それぞれの次元ごとの承認に関する意識の因果モデルの検討に加え、各次元の承認がどのように関係しているのかに関しても検討を行う。

(注1)本調査の調査対象者はウェブ調査の実施を依頼した(株)メルリンクスのモニターである。
年代と性別については平成27年9月1日現在の日本人人口の比率(総務省統計局)に基づいて割付を行った。

・参考文献
Fraser, Nancy, 1997, Justice Interruptus: Critical Reflections on the “Postsocialist” condition, New York: Routledge.(=仲正昌樹監訳,2003,『中断された正義――「ポスト社会主義的」条件をめぐる批判的省察』御茶の水書房).
Honneth, Axel, 1992, Kampf um Anerkennung: Zur moralischen Grammatik sozialer Konflikte, Frankfurt: Suhrkamp Verlag. (=山本啓・直江清隆訳,2003,『承認をめぐる闘争一社会的コンフリクトの道徳的文法』法政大学出版局).
大澤真幸編,2008,『アキハバラ発――(00年代〉への聞い』岩波書店.
山竹伸ニ,2011,『「認められたい」の正体――承認不安の時代』講談社.

2.発表論文、学会発表等

先行研究群を踏まえた調査項目の検討に関して、2016年3月の第61回数理社会学会(於:上智大学四谷キャンパス)の若手交流ラウンドテーブルにて、「承認概念の再検討と操作化の試み」のタイトルで報告を行った。