リサーチコンペ 2019年度

[ 編集者:先端社会研究所   2019年6月17日 更新 ]

2019年度先端社会研究所リサーチコンペ採択者の研究計画要旨および審査講評

採択者による研究計画要旨と審査の講評は、以下の通りです。

トランスジェンダーの脱病理化実践についての社会学的研究―タイ・バンコクのヘルスセンターの事例から―

織田 佳晃(社会学研究科)

研究概要

2018年のICD-10の改訂に伴い、性別越境現象と医療・医学との関係は大きな変化を迎えた。すなわち、名称は、性同一性障害(Gender Identity Disorder)から性別不合(Gender Incongruence)へ、疾病コードは精神・行動障害から性の健康に関する状態へと変更されることになった。ここではトランスジェンダーの運動/研究における目標である脱病理化に向けた一歩目としての脱精神疾患化が達成されている。しかし、このような脱病理化の動きをめぐっては、大きな矛盾が横たわっている。すなわち、病気であることに起因するスティグマを解消すると同時に、トランスジェンダー特有の医療資源にアクセスする権利をいかにして保障するのか、という矛盾である。そこで、この矛盾への解を探ることが、トランスジェンダー運動/研究の今日的課題である。
上記の背景・問題意識を踏まえたうえで、本研究ではタイ・バンコクに位置する医療機関を対象とした参与観察及びインタビュー調査を行う。調査を通じ、1)脱病理化実践を遂行する医療機関の成立の過程を明らかにすること、2)医学的かつ当事者的な脱病理化実践の記述とその社会学的含意を考察することを試みる。

講評

トランスジェンダー概念の脱医療化という理論的見通しを、当事者との関わりの深い医療関係者への聞き取りから実証しようとする研究計画は先端的なものであり、また社会科学の研究にとっても大きな意義があると考えられる。一方で審査員からは、バンコクにおいて予定されている調査が、研究課題を明らかにする上でどの程度の成果を期待しうるのかという点についての疑問も出された。

近代国家と戦争の記憶 ―第2次世界大戦におけるホロコーストを事例に

渡壁 晃(社会学研究科)

研究概要

 第2次世界大戦がもたらした甚大な戦争被害は人類史に残るものであった。戦後70年以上が経過した現代においても、それらはしばしば想起され、議論のテーマとなる。つまり、第2次世界大戦は現在も社会に大きな影響を与えているのである。学術的にはどうだろうか。2010年代の社会学では近代社会と戦争の関係を考える必要性が指摘され始めている。歴史現象としてではなく、現代的な問題として戦争をとらえる必要があるのである。近代社会と戦争の関係を検討するには、近代についての社会理論が想定してきたヨーロッパ社会における事例を取り上げる必要がある。そこで、本研究では第2次世界大戦におけるホロコーストの記憶を取り上げる。そして、調査対象としてドイツのホロコーストの記念施設の中心である「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」を取り上げる。この記念碑は、社会的な議論の末、1999年にドイツ連邦議会によって建設が決定されたものである。本研究では文献資料を用いてこの記念碑の建設に至るまでの議論を検討する。そのことを通してドイツという近代国家がどのようにしてホロコーストをみずからの歴史として認識するようになったのかを明らかにする。

講評

ドイツにおける歴史論争とモニュメントの関わりについては、近年の社会学が扱う記憶研究の流れで重要な意義をもつテーマになっている。本研究もその流れにあると考えられるが、既に先行研究で明らかになっていることとの差異が不明であることや、研究題目と研究内容の間に齟齬があるなど、全体として研究計画の詰めの甘さが指摘された。

相互行為における自虐的な評価にかんする一連の様相の解明

岸本 健太(言語コミュニケーション文化研究科)

研究概要

会話の中で、自虐的に自分を低く評価する発話がしばしばみられる。受け手にとってこの自虐的な評価は、同意すれば相手を低く評価することにつながってしまう。しかし、自虐的な評価は、評価者本人による自分自身の評価であり、単純に不同意や否定をしても説得力に欠ける空虚なものとなりかねない。
 このように自虐的な評価は、受け手にとっては同意も不同意も困難である、という一種のジレンマを抱えた行為であるといえよう。では、なぜ会話の中でそうしたジレンマを抱える自虐的な評価がなされるのだろうか。また、その受け手はどのようにしてそのジレンマを解消していくのだろうか。
 これらの問題を探る研究は国内外を問わず非常に少ない。そこで本研究では会話分析の方法論を用いて、自虐的な評価がなぜなされるのか、つまり話し手が自虐的な評価を通して、どのような行為を達成しようとしているのかという疑問を出発点に、それに対して受け手がどのように応じるのか、その一連の様相を明らかにしていく。これにより、ひとびとの会話の仕組みの一端を明らかにするだけでなく、ディスコミュニケーションの発見と防止にも寄与することができるだろう。

講評

「自虐」という振る舞いを社会言語学の観点から、会話分析の手法を用いて明らかにしようとする研究であった。先行研究で明らかになっていることと本申請の課題の違いを明確にした点や、調査計画の具体性が評価された一方、事例の抽出の恣意性や話者間の関係性が影響する「自虐」という事例で会話分析を用いることの意義、また専門分野外の人間に研究の意味をアピールする必要性などが指摘された。

変容する環境意識―受益圏・受苦圏と生活環境―

張 思宇(社会学研究科)

研究概要

申請者はこれまでの研究で、中国人民の環境意識のデータ分析を行った結果、北京市民は経済発展を河北省民は環境保護を重視する傾向にあったことを明らかにした。この傾向は、 受苦の程度や受益の程度を統制しても依然として存在するものであり、規範喚起理論のメカニズム以外の要因がはたらいていることが示唆された。 経済発展と環境保護のジレンマを社会全体で解決するには、受益圏・受苦圏それぞれのバ ランスを考慮する必要がある。そのバランスを図るためには、そこに生じる意識や行動のメカニズム を把握しなければならない。社会意識は日々の生活とその社会環境に大きく左右されるものである。 現代中国の生活環境・社会体制で、なぜこのような意識の差が生じたのか、これまでの研究で利用し た世界価値観調査の二次分析ではアプローチしきれない。 の研究で解決すべき点は、経済状況や被害認知の影響を取り除いても依然として 存在する、中国国内での受益圏・受苦圏の意識の差の原因とその変容のメカニズムである。

講評

中国の都市部と周辺地域における環境負荷の不平等を「受益圏/受苦圏」という概念で整理し、聞き取りから受苦圏の環境意識を明らかにするという計画であった。しかしながら理論的な概念の適用範囲の狭さ、調査にあたっての概念の定義、概念の操作化に関する問題が指摘され、調査対象だけでなく、そこにどういったアプローチや仮説に基づいてかかわっていくのかという点での調査計画の具体性が懸念されるという指摘がなされた。

総評

多くの研究が、調査しようとする対象やそこで行う調査の計画を具体的に示し、研究の意義を説明しようとしていた点は評価できる。しかしながら一部の申請において、理論的な研究の掘り下げや研究上の課題の設定が不明確であるとか、調査計画との適合性に疑義の生じるものであったことは問題であろう。先行研究レビューや研究課題の設定は、すべての研究の基礎になるものであり、博士論文執筆に向けて必須の作業であることを考えても、この点について申請者の努力のみならず、指導教員や所属研究科全体でのレビュー、チェックが必要であると思われる。また予算使途についても、旅費や資料費などのざっくりとした費目が示されることが多く、多くの調査が本年の夏ごろを予定していることを踏まえても、もう少し具体的にできるのではないかと感じた。この点については、予算使途計画のフォーマットを示すことも含め、今後の課題としたい。

2019度リサーチコンペ プレゼンテーション審査会のお知らせ

先端社会研究所が取り組む「大学院教育支援事業」の一環として、全研究科大学院生・研究員を対象に、本研究所の「文化的多様性を尊重する社会の構築を目指した、社会調査を基軸とした研究の拠点」*という目標を理解し、将来それに貢献することが期待される「優れた先端的な研究」を募集しました。厳正な書類選考に基づき、以下5件の研究課題のプレゼンテーションが行われます。助成受領者は、この中から、申請書類と、研究計画に関するプレゼンテーションの審査によって決定されます。

先端社会研究所の目標は以下の通り。
①社会調査を中心とする社会科学的手法によって、
②互いに異なる人々の関わりにまつわる問題群に対して
③学術的視点から未来の指針を示すような研究を実施・支援する

2019年度リサーチコンペ審査会  [ 60.36KB ]PDFファイル

プレゼンテーション審査会当日スケジュール

9:25  開会挨拶

9:30  織田 佳晃(社会学研究科)
      トランスジェンダーの脱病理化実践についての社会学的研究
      ―タイ・バンコクのヘルスセンターの事例から―
9:45  質疑応答

10:00  渡壁 晃(社会学研究科)
       近代国家と戦争の記憶
       ―第2次世界大戦におけるホロコーストを事例に
10:15  質疑応答

10:30  李 軒羽(社会学研究科)
       中国における現代伝説の総合的研究
       ―先行研究と北京・上海の怪談型都市伝説についての試行的考察
10:45  質疑応答

11:00  休 憩(10分)

11:10  岸本 健太(言語コミュニケーション文化研究科)
       相互行為における自虐的な評価にかんする一連の様相の解明
11:25  質疑応答

11:40  張 思宇(社会学研究科)
       変容する環境意識
       ―受益圏・受苦圏と生活環境―
11:55  質疑応答

12:10  閉会挨拶

2019年度先端社会研究所「大学院教育支援事業」リサーチコンペ募集

2019年度先端社会研究所「大学院教育支援事業」
リサーチコンペ 募集要項

2019年度 先端社会研究所<リサーチコンペ>研究計画申請書  [ 44.50KB ]XLSファイル

1.本事業の趣旨

 先端社会研究所が取り組む「大学院教育支援事業」の一環として、全研究科大学院生・研究員を対象に、本研究所の「文化的多様性を尊重する社会の構築を目指した、社会調査を基軸とした研究の拠点」*という目標を理解し、将来それに貢献することが期待される「優れた先端的な研究」を募集する。
 採択者(個人、もしくは数名のグループ)に対しては、一定額の研究助成を行い、当該研究のより一層の発展を支援し、研究者の養成を図る。

先端社会研究所の目標は以下の通り。
①社会調査を中心とする社会科学的手法によって、
②互いに異なる人々の関わりにまつわる問題群に対して
③学術的視点から未来の指針を示すような研究を実施・支援する

2.応募期間

2019年5月7日(火)~5月20日(月)15:00(時間厳守)

3.応募方法および採択決定までの流れ

1)応募
「2019年度 先端社会研究所<リサーチコンペ> 研究計画申請書」【様式1、2】に必要事項を記入のうえ、先端社会研究所事務室に提出。英文での申請可。
申請書は、先端社会研究所ウェブサイト(http://www.kwansei.ac.jp/i_asr/index.html)よりダウンロード。

2)書類審査
「2019年度先端社会研究所リサーチコンペ審査委員会」において、次の評価ポイントにより書類審査を行い、「4)プレゼンテーション」に進む課題を選考。
①先端性 ②親和性 ③計画性

3)リサーチコンペウィーク
2019年6月3日(月)~8日(土)をリサーチコンペウィークとし、「研究計画申請書」を先端社会研究所ホームページにて公開する。

4)プレゼンテーション審査
書類審査を通過した応募課題について、公開でプレゼンテーション審査を実施する。
開催日 2019年6月8日(土)
場 所 先端社会研究所セミナールーム(社会学部棟3階)
※プレゼンテーション審査においては、研究計画や予算使途などについての審査を行う

5)採択決定
書類審査およびプレゼンテーション審査を通じて、本事業の趣旨に掲げる目標を理解し、将来それに貢献することが期待される「優れた先端的な研究計画」を採択する。

4.応募資格者

2019年度の時点における関西学院大学各研究科所属の大学院生ならびに大学院研究員・研究科研究員。
なお、類似の研究課題で既に他から研究助成を受けている場合や、他の研究プロジェクトで資金を配分されている場合、重複して助成が認められない場合がある。
重複を認めるか否かは、審査の過程で判断する。

5.助成内容と採択件数

1件につき20万円を上限とする。採択件数は、2019年度予算枠80万円の範囲内で決定する。
※なお、本制度による助成は、主として調査・研究活動に必要な経費を対象としているため、設備・備品等の購入は原則として認めない。

6.助成年限

2019年度内(研究期間:採択通知日~2020年3月31日)

7.申請書提出期限/提出場所

2019年5月20日(月)15時 /社会学部棟3階 先端社会研究所事務室
※なお、提出時に学生証(研究員証)にて本人確認を行う。

8.採択決定通知

2019年6月14日(金) 申請者宛にEメールにて通知。

9.研究成果の公表

①「中間報告」の提出
  先端社会研究所紀要(2019年度発行予定分)に掲載されます。
②「研究成果報告書」(研究所所定様式)の提出。2020年4月末日までに提出して下さい。
  研究成果報告は一括して先端社会研究所のウェブサイトに掲載します。
③「リサーチコンペ報告会」(2020年5月開催予定)での報告
④「先端社会研究所紀要」(2020年度発行予定分)への研究報告の投稿

10.問い合わせ先

本募集に関する問い合わせは、全てEメールにて受け付けます。
問い合わせ先メールアドレス: asr@kwansei.ac.jp

2019年度リサーチコンペ募集  [ 344.39KB ]PDFファイル