リサーチコンペ 2015年度

[ 編集者:先端社会研究所   2016年5月12日 更新 ]

2015年度先端社会研究所リサーチコンペ採択者による成果報告書

先端研リサーチコンペ2015年度採択者5名より提出された成果報告の概要は、以下の通りです。

小規模漁業者による漁業種類の選択過程とその実態―大阪府岬町深日地区を事例に

前田 竜孝

1.研究成果(経過)

 漁業者数の減少、魚価の低迷、輸入水産物の増加、水産資源の減少など、日本漁業を取り巻く社会・経済的状況は厳しさを増している。1970年代に200カイリ水域が設定されて以来、漁業の中心はそれまでの企業経営を中心とした遠洋漁業から、小規模家族経営を中心とした沿岸漁業へもシフトしていった。これらの経営体では、漁獲や集出荷など漁業活動の様々な局面で変動する社会・経済的状況への対応を迫られるようになった。
 地理学における漁業活動を扱った研究成果に注目すると、潮汐の周期性や海底地形などを中心とする漁場環境と活動の関係が考察されてきた。漁業活動には自然環境と同様に、漁業規制、漁獲制限などの制度面、あるいは水産物流通や魚価などの経済面も影響を与えている。したがって漁業者の活動を捉えるためには、自然的側面だけに注目することなく、これらの影響も同じく追求していくことが求められる。
 以上のような問題意識より、漁業者が水域での活動のなかで、社会・経済的課題にどのように対応しているのかを明らかにすることを研究の目的とした。調査対象地域は、大阪府岬町深日に設定した。当地は、後背地に大阪市や神戸市などの水産物の大消費地、巨大な労働市場を抱えており、経済・社会的な環境変動は著しい。さらに、複数の小規模沿岸漁業が営まれているため、漁業種類ごとに多様な活動が観察される。以上が当地を対象地域に選定した理由である。
 調査方法は、聞きとり調査や統計分析とともに、時間配分調査法も採用した。これは、各経営体や個人が時聞を一定の限定枠のなかで、どのように利用しているのかというメカニズムを明らかにする実証的な方法である。個人の意思決定と同時に彼らを取り巻く自然環境ならびに社会・経済環境が個人の活動に及ぼす影響を考察できる。そうすることで、漁業者と彼らを取り巻く社会・経済環境との関係性をより実証的に明らかにできるわけである。
 本研究では、以下のことが明らかになった。第一に、各経営体による社会的課題への対応である。当地では、漁業者数の減少という課題を抱えている。特に、中心的な漁業種類の船曳網は、1漁船団当たり4人から5人を必要とするため、各経営体では乗組員(乗り子)不足が深刻化している。そこで近年では、船曳網経営体の経営主(親方)は、漁業地区内外の他経営体の漁業者に乗組員として従事するように依頼している。時間配分を分析すると、このような親方と乗り子の関係性が各経営体の漁業活動に対して積極的に影響を及ぼしている実態が明らかとなった。第二に、時間配分調査法を含んだ生態学的方法の多様な研究への応用可能性を展望することができた。生態学的方法は田和によって「漁業活動に直接参加し、漁場と漁業活動との関連性に注目しながら観察や測定、測量によって基礎的な資料を獲得する方法」と定義つけられたものであり、時間配分調査法もこれに含まれる。これまで生態学的方法は、主として自然環境と人間の関係性を解明するために用いられてきた。しかしながら、本研究では基礎的なデータ収集により、社会・経済環境と漁業活動の関係性を実証的に把握することができることが明らかになった。以上のように、本研究では、漁業活動の実態把握とともに、調査方法の可能性についても言及できた。

2.発表論文、学会発表等

2015年人文地理学会大会(於大阪大学)2015年11月14日
発表題目「漁労活動に及ぼす漁業者間関係の影響一大阪府深日を事例にー」

労働/非労働の二元論を超えて―インディー・ミュージシャンへの人類学的考察―

生井 達也

1.研究成果(経過)

 本研究は、現代日本社会を支配する労働と非労働という中心と周辺の非対称的な分割による二元論のディスコースが、人々の活動を資本主義的な有用性という一元的価値に包摂し、それによる意味づけが不可能な生活の在り方が他者化されているという事実に注目し、そのような中心化の視点を乗り越えて、排除的に他者化された生活の在り方を内在的な視点に寄り添ってその実相を明らかにすることを目的に進められた。
 上記の目的を果たすため、現代社会において他者化されている生活の在り方を示す者の事例として、主にライブハウスを拠点として音楽活動をする「インディー・ミュージシャン」と呼ばれている者たちを取り上げ、彼らの内在的視点から労働/非労働の二元論を相対化し批判的に検討を行ってきた。
 研究は文献研究とフィールドワークによる参与観察によって進められた。文献研究では、文化人類学による交換や経済人類学の分野、近代以降の労働観や資本主義システムの問題、ポピュラー音楽論、近年になって出版された音楽実践に関する指南書などを精読し、労働と非労働の二元論の中心-周辺という構図により、中心(労働)から周辺(非労働)が常に「パッケージ化」され労働化され、そこからも漏れ落ちる周辺的実践を排除、不可視化していいることを明らかにした。そしてそうした労働化の傾向は現代における音楽実践のありかたにも反映し、合理化、効率化、個人化した音楽活動が「パッケージ化」および「労働化」する危険性をはらんでいることが明らかになった。
 このような社会的・文化的な状況の中で、インディー・ミュージシャンや彼らが音楽活動を行うライブハウスは、非合理的、非効率的な場になりつつあるが、それでもそこで活動する意義はどのように見出されているのか、そこから見えるものとは何か、に着目しフィールドワークは進められた。
 採択期間中は、京阪神、東京、福岡のライブハウス7箇所についてのフィールドワークを計23回行い、そこに出演するミュージシャンや店長、客について参与観察を行った。特に5人のミュージシャンとライブハウス店長からライフヒストリーも聞き取りを行った。フィールドワークでは、音楽活動が労働であるかそうではないかといった点や、ギャラや商品の売り上げ、店の売り上げ、チケット代などライブハウスを取り巻く経済的部分に焦点を当てて聞き取りや参与観察をおこない、彼らが市場交換と贈与交換をブリコラージュ的に実践することで、労働/非労働の二元論や商品/非商品、市場/非市場という近代的な二元論を戦術的に横断していることが明らかとなった。また、「ライブハウスでライブする」ということが、「売れる」ことや「食う」ことを目的にせず、ライブハウスにおける〈いま-ここ〉での音楽を媒介にした他者との身体の共振や共宴が重視されていることがわかった。これにより申請者は、これらの活動から労働/非労働の二元論が導く「労働化」へと向かわない活動を示唆できるのではないかと考えている。

2.発表論文、学会発表等

2016年7月に行われるカルチュラル・タイフーン2016で発表を行い、先端社会研究紀要に投稿を行う予定である。

ネパールにおける低位カーストおよびエスニック・マイノリティの修学実態に関する研究―M7.8の大震災による影響―

江嵜 那留穂
吉田 夏帆

1.研究成果(経過)

 本研究は、①カースト・エスニシティ別の子どもたち一人一人の教育へのアクセス、②2015年4月に発生したM7.8の大震災がもたらした子どもたちの教育アクセスへの影響について検討することを目的としている。①に関しては個々人の修学パターン、②については子どもたちの出席状況に着目し分析を進めていく。
 中間報告では、データ分析対象者数を増やし、473人分の修学パターン分析結果を提示した。その後は、データ分析を進めつつ、二度にわたり調査対象地域であるバクタプル郡において現地調査を実施した。第一現地調査では、2015年11月30日から12月10日までの期間に、1) 調査対象校における追加データの収集、2) 不登校傾向者に関するインタビュー調査を実施した。帰国後、収集データの整理およびデータベースの構築を行い、これまで収集したデータと合わせて総合分析を実施した。その結果、M7.8の大震災がもたらした子どもたちの教育アクセスへの影響に関しては、1) 震災直後には出席者数が激減するものの、数ヶ月後には平時と変わらない程にまで戻ること、2) 急性期に不登校傾向となった者63人のうち、61人が低位カーストの子どもたちであること、3) 不登校傾向者の大部分は家屋に大きなダメージを受けていること等が明らかとなった。今後は、不登校傾向者を二つのグループ(①出席率25%以上50%未満のグループ、②出席率25%未満のグループ)に分け、彼らを取り巻く家庭背景に関するデータ分析を進めていく予定である。
 第二現地調査は、これまでのデータ分析から明らかにした個々の子どもたちの修学パターン(473人分)をもとに、2016年1月15日から2月11日までの期間、家庭訪問調査を実施した。調査対象者は、ランダムサンプリング法によって抽出された113人である。調査では、1年生の途中で退学した子どもや留年を経験することなく進級し続け卒業した子ども等の家庭背景や当時の生活状況を把握するため、保護者や兄弟、本人に対して半構造化インタビューを実施した。その結果、全体に占める上位カーストおよび低位カーストの比率よりも、卒業パターンにおいては上位カーストの比率が高く、退学パターンにおいては下位カーストの比率が高いことが明らかとなった。今後は、詳細分析を進め、退学者に見られる特徴などについてまとめていく計画である。

2.発表論文、学会発表等

1) 江嵜那留穂、「M7.8の大震災がもたらしたネパールにおける子どもたちの就学フローの変容」、『第26回 国際開発学会 全国大会』、新潟、2015年11月28−29日
2) 江嵜那留穂、「個々の子どもたちの修学パターンによる基礎教育評価」、『第16回 日本評価学会 全国大会』、沖縄、2015年12月12−13日
3) Naruho Ezaki. "Enrollment patterns of Nepalese children in sub-rural area." Comparative and International Education Society 2016. Vancouver, Canada. March 6-10th, 2016

神興会のフォークロア―東京圏の都市祭礼を支える人びと―

三隅 貴史

1.研究成果(経過)

 昨年7月の採択以降、御殿場わらじ祭り(静岡県御殿場市)、上尾夏奈り(埼玉県上尾市)、せたがやふるさと区民祭り(東京都世田谷区)、氷川赤坂神社例大祭(東京都港区)、青山熊野神社例大祭(東京都渋谷区)に参加した。また、その際に関係を構築した神輿会や地域の人びとに対して、聞き取り調査を行った(2015年11月、2016年2月)。この中で多くの神輿会の成員や、地域の人びとと調査上の関係を構築する事ができた。
 本研究の目的は、ひとつの祭礼の場における神興会(年に複数回、祭礼やイベントにおいて神輿を担ぐことを続けている、神輿愛好家による集団)の姿ではなく、社会における神輿会の姿を明らかにすることによって、グローバル都市の祝祭を支える人びとの実践を記録することである。
 報告者は昨年度、神輿会への参与観察や聞き取り調査を行っていく中で、神輿会を研究することの重要性は、都市祭礼の3点の変化を記録できることであると考えた。1点目が、神輿会が成立した1960年代から、会の結成がブームとなり徐々に浸透していく70年代にかけて、祭礼に影響を与えたことによる変化である。神輿会を研究することを通して、江戸前の伝統として自明視されている「江戸前担ぎ」や「粋な服装」といったものを神輿会が生み出し、伝播させてきた可能性があることに言及できると考える。2点目は、神輿会が祭礼において定着を見せたことによる、祭礼の現代的な変化である。地域に存在する神輿会が互いに関係を構築し、複数の祭礼に参加していくネットワークを研究することによって、数多くの神輿会の協力によって東京の祭礼が維持されている可能性を指摘できると考える。3点目は、神輿会を介して、祭礼と別の祭礼及びイベントとがお互いに影響を与え合うようになったことによる祭礼の変化である。東北地方や四国地方などにおいて江戸前担ぎの伝統を継家することを目的とする神輿会の成立が相次いでいるが、東京、そして地域の神興会を研究することを通して、江戸前神輿のヒエラルキーの周辺部に対して神興会がどのように技術の伝達を行っているのか、そしてその地域の人びとはどのようにそれを受け入れ、理想化していくのか、ということを明らかにすることができる。
 また、日本神輿協会アカデミー編(2010)(に記載されている202の神輿会を分析することによって、草創期の神輿会が1950年代後半から60年代前半に成立してくること、そして1970年代に成立がブームになることを明らかにした。これらのデータから草創期に23区東部で成立する神輿会と、成立ブーム以後に東京圏全体で成立してくる神輿会との間には、質的な差異が存在している可能性があることを指摘することができると考える。
 2015年度はこのような研究成果を挙げることができたものの、このような成果は「社会における神輿会の姿を明らかにする」という目的からすると、実に瑣末なものでしかない。このような研究成果を活かして今後は、前述した神輿会研究の重要性を手がかりとしながら、より長期的な参与観察・聞き取り調査を行い、仮説を検証していくことが求められているだろう。

2.発表論文、学会発表等

1.日本民俗学会第67回年会(2015年10月11日)、報告タイトル:都市祭礼研究と「神輿会」、場所:関西学院大学。
2.104年日本東亞研究博碩士生臺灣研習團(2015年11月16日)、報告タイトル:祭禮的維持和利用:人口減少時代的日本和台灣為事例、場所:國立嘉義大學。
また、『京都民俗』第34号に対して以下の論文を投稿した。
論文タイトル:「神輿会」研究の課題――都市祭礼研究の一視点

承認に関する意識の測定尺度の作成―計量社会意識論のアプローチを用いて

智原 あゆみ

1.研究成果(経過)

 本研究の目的は、人々が他者からの承認をどのように感じているのかという承認に関する意識と社会との関連を明らかにすることである。その手がかりとして、承認に関する意識を計量社会学のアプローチを用い実証的にとらえることを試みる。承認に関する意識を実証的に捉えるために、昨年度は①承認に関する先行研究群の検討、②質問項目・調査票の作成、③ウェブ調査の実施、以上の作業に取り組んだ。
 承認に関する意識を測定するにあたり、まず初めに質問項目作成のための先行研究の整理に取り組んだ。政治哲学の分野においては、承認に関してマイノリティなど特定の集団への権利付与に関する制度的な承認の問題を中心に議論(Fraser 1997=2003)が蓄積され、また、近年の日本社会で承認が取り上げられる事例では、「若者」をはじめとする個人の情緒面での問題に焦点を置いた承認の問題が議論(大澤 2008)されてきた。また、これまで承認に関する議論においては、“誰が”承認をするのかに注目した承認の類(Honneth 1992=2003, 山竹 2011)がされており、承認をする他者との関係性が重要な点であることが明らかにされた。
 次に先行研究群の検討の結果を踏まえ、承認に関する意識の測定項目と調査票の作成に取り組んだ。質問項目を作成する際には“誰からの”承認であるのかに注目し、「社会からの承認」と「周囲からの承認」を尋ねる項目を作成した。また、調査票には承認に関する意識の項目の他にネットワークに関する項目、社会構造的な変数群を含め、それらの変数と承認に関する意識の関連を検討できる調査票の作成に取り組んだ。
 そして、上記の調査票を用いたウェブ調査「人びとの暮らしと対人関係に関する意識調査」を実施した。ウェブ調査は調査会社に依頼し、調査対象者は20~69歳の男女(注1)、ケース数は600とし、2016年3月9日~14日に実施した。
 今後の研究では、ウェブ調査の結果を計量的な手法を用いて分析することで承認に関する意識の因果モデルを明らかにすることに取り組む。承認に関する意識を検討していく際には、その承認が誰からのものであるかに着目し、それぞれの次元(社会からの承認、周囲からの承認)によって規定因が異なるのか、または同様であるのかに関して検討を行う。さらに、それぞれの次元ごとの承認に関する意識の因果モデルの検討に加え、各次元の承認がどのように関係しているのかに関しても検討を行う。

(注1)本調査の調査対象者はウェブ調査の実施を依頼した(株)メルリンクスのモニターである。
年代と性別については平成27年9月1日現在の日本人人口の比率(総務省統計局)に基づいて割付を行った。

・参考文献
Fraser, Nancy, 1997, Justice Interruptus: Critical Reflections on the “Postsocialist” condition, New York: Routledge.(=仲正昌樹監訳,2003,『中断された正義――「ポスト社会主義的」条件をめぐる批判的省察』御茶の水書房).
Honneth, Axel, 1992, Kampf um Anerkennung: Zur moralischen Grammatik sozialer Konflikte, Frankfurt: Suhrkamp Verlag. (=山本啓・直江清隆訳,2003,『承認をめぐる闘争一社会的コンフリクトの道徳的文法』法政大学出版局).
大澤真幸編,2008,『アキハバラ発――(00年代〉への聞い』岩波書店.
山竹伸ニ,2011,『「認められたい」の正体――承認不安の時代』講談社.

2.発表論文、学会発表等

先行研究群を踏まえた調査項目の検討に関して、2016年3月の第61回数理社会学会(於:上智大学四谷キャンパス)の若手交流ラウンドテーブルにて、「承認概念の再検討と操作化の試み」のタイトルで報告を行った。

2015年度先端社会研究所リサーチコンペ採択者の研究計画要旨および審査講評

採択者による研究計画要旨と審査の講評は、以下の通りです。

小規模漁業者による漁業種類の選択課程とその実態―大阪府岬町深日地区を事例に

前田 竜孝(文学研究科 博士課程前期課程2年)

 日本の漁業は現在,乱獲や海洋環境変化に伴う漁獲量の減少,漁業従事者の高齢化と後継者不足,輸入品の増加や消費者の魚離れによる魚価の低迷など様々な問題を抱えている。各漁業経営体は,これらの社会的・環境的変化に対応しながら,経営を維持しているといえる。
申請者は2015年1月から5月にかけて,大阪府岬町深日にて漁業者への聞きとり調査や漁業活動への参与観察を通じて,漁業者間関係や流通問題,それに伴う生業活動への影響について調査した。
 その結果,①1970年代には底曳き網・船曳き網漁業の兼業形態と経営体内での労働力調達,②1980年代には船曳き網漁業への特化と経営体内での労働力調達,そして③現代では船曳き網漁業への特化と経営体や漁協を越えた労働力調達,という展開過程が明らかとなった。さらに,参与観察から現在の地先内の小規模漁業者や底曳き網漁業者の漁撈活動が,船曳き網漁業による労働力の調達によって影響されることがわかった。 
 以上のように,小規模漁業者の漁撈活動では漁業者間や経営体内での労働力配分の調整が必要とされている。本研究は,これら経営体内に存在するその調整を解明するものである。

講評

 すでにフィールドワークも行っており、非常に堅実な研究計画となっている。歴史、社会、生態とトータルに検討しようとしている点も評価できるが、次のような点を改善すれば、よりよい成果が期待できるだろう。すなわち、第一に、深日漁村の内部的社会構造についての歴史的かつ理論的な探求を深めること。第二に、社会地理学的な視点を導入し、流通や漁法および漁業技術の変化や魚種の変化など、漁業の置かれたマクロ的環境あるいは外部環境との関連を明らかにすること。第三に、それらの考察において、漁師がどのように問題を意味づけているか、どのような内面世界を構成しているかに注目すること、である。

労働/非労働の二元論を超えて―インディー・ミュージシャンへの人類学的考察

生井 達也(社会学研究科 博士課程後期課程1年)

 本研究は、現代社会における労働/余暇、仕事/趣味の二元論的分割を批判的に検討しながら、インディー・ミュージシャンの生活実践について考察していくものである。
 メジャー・レーベルに属さず、自分たちでライブやCDの制作、販売などを行うインディー・ミュージシャンたちの活動は「夢追い」言説による職業化までの途中段階や、アマチュアとしての「趣味」「余暇活動」とされ、「都合のいい非正規労働者」や単なる消費活動として捉えられてきた。
 しかし、申請者はこれまでの研究で、音楽活動で生計を立てていないにも関わらず、途中段階や趣味としてではなく音楽活動を行い生活するインディー・ミュージシャンがいることを明らかにし、そのような活動の中でなされる実践は不可視化され、その存在は他者化されていることを指摘した。
 このような問題意識から、本研究では二元論的分割による労働/余暇、仕事/趣味の中心-周縁性を明らかにすること、そこから不可視化、他者化されているインディー・ミュージシャンの実践を微視的に描き出し、二元論的表象による周辺化を脱するために周辺を内在的に語りだす新たな理論的枠組みを構築していくことを目的としている。

講評

 インディー・ミュージシャンの生き方を、労働/非労働の境界を超える問題だと位置づけて、彼女/彼らの生きられた世界を内面から記述するという探求課題は意欲的で興味深い。しかし、それに迫る独自の概念枠組みが必ずしも用意されておらず、ややありきたりな図式にとどまっている。音楽の聴取の仕方、あるいは発信の仕方が変化・多様化している状況をふまえ、ライブハウスのインディー・ミュージシャンをメディア状況など広い文脈の中に位置づけることなどを通じて、インディー=independentであることの意味を問い直しつつ、彼女/彼らの内的世界を独自の言葉で記述することをめざすべきだろう。

ネパールにおける低位カーストおよびエスニック・マイノリティの修学実態に関する研究―M7.8の大震災による影響

江嵜 那留穂(国際学研究科 博士課程前期課程2年【研究代表者】)
吉田 夏帆(国際学研究科 博士課程前期課程1年【研究分担者】)

 後発開発途上国であるネパール連邦民主共和国は、様々な分野において開発課題を抱えている。その原因の一つとして、ネパール特有のカーストおよびエスニシティ問題が挙げられる。低位カーストやエスニック・マイノリティの人々は歴史的に社会大衆から「他者」として扱われ、不当な差別を受けてきた。
 先般、ネパールにおいてM7.8の大地震が発生し、8000人以上の人が死亡するという大惨事となった。社会的弱者や貧困者は紛争や天災等が発生すれば、さらに過酷な状況に陥ることから、低位カーストやエスニック・マイノリティの人々は、今回の大震災により大きな被害を受け、その後の復興においても厳しい状況に追い込まれるのではないかと考える。特に、最も弱い立場にある子どもたちは、社会格差を是正する最も有効な手段である「教育」から疎外されるのではないか。
 そこで、本研究では、格差の縮小機能として期待される教育への個々人のアクセスがカーストやエスニシティによってどのように異なるのか、また、今般の大震災を受けて、教育アクセスの難易度がどのように変化していくかを明らかにすることを目的とする。

講評

 すでにネパールで2000人を超える小学生のデータを収集し、仮説とその検証への手続きについての考察など、研究計画はそれなりに着実で、問題意識も明確である。しかし、101民族92言語で成り立つ多民族・多言語国家を対象とする割には、「カースト」「エスニシティ」といった基本的な概念の取り扱いがやや無雑作に過ぎ、ネパール社会についての理解が十分ではないように思われる。また、通訳を介してフォーマットに当てはめる調査を予定している点は、調査のしかたや仮説設定において甘すぎる嫌いがあるので、社会調査方法論や教育達成に関する既存研究などについて、今後、勉強を深めていく必要がある。さらに、基底的な構造要因と今回の震災の影響とを丁寧に区別することにも注意した方がいい。

神輿会のフォークロア―東京圏の都市祭礼を支える人びと

三隅 貴史(社会学研究科 博士課程前期課程1年)

 本研究の目的は、東京圏をはじめ、全国の都市祭礼において主要な担い手のひとつとなっている「神輿会」が共有する経験・知識・表現を研究することで、神輿会の内在的理解を行い、そこから神輿会が持つ特徴と機能、そして旧来の担い手と神輿会との間での他者問題の構造を明らかにすることである。
 申請者は神輿会を「神輿愛好家によって形成されている、年に複数回祭礼に参加し神輿を担ぐ集団」として定義する。こうした神輿会は従来の都市祭礼研究では、「ある祭礼への神輿会の参加」という視点から研究されてきたが、申請者は「神輿会が参加している複数の祭礼」という逆転した視点から研究を行う。
 本研究によって神輿会の内在的理解を進めることで、神輿会と旧来の担い手との間における他者問題の中で、「お互いが幸せになる為の技法」として神輿会が用いられている、という側面を明らかにする。また「神輿会が参加している複数の祭礼」という新しい視点を都市祭礼に提供し、研究の蓄積に貢献したい。
 そのために、神輿会の発展が著しい東京圏の神輿会を研究対象として設定する。神輿会と共に祭礼に参加し、聞き取り調査を行うことで以上のことを明らかにする。

講評

 現代都市社会を生きる人びとの生のリアリティに迫る一方法として、祭礼をめぐる社会関係では周縁化されている神輿会の側から祭礼を眺めるという視角の転換は、非常に興味深い。現時点での理論的想定にも一定の説得力がある。ただ、すぐには難しいかもしれないが、この研究を「より広い、研究上および社会上の文脈」に位置づけることに留意してほしい。神輿会成立の経緯、これまでの歴史や社会的背景(都市の祭礼のあり方の変化)、会ごとのあり方の差異、メンバーの属性や特性などを、現代都市における他のあるいは類似の集団との比較を通じて分析しつつ、「現代都市における祭礼の社会的意味の時代変化」や「地域社会の変化」などについての考察へと展開されることが期待される。

承認に関する意識の測定尺度の作成―計量社会意識論のアプローチを用いて

智原 あゆみ(社会学研究科 博士課程後期課程1年)

 近年の日本社会では人間関係の希薄化が叫ばれ、人々は日常生活において他者との関係性を築くことが困難となっている。そのため、これまでは身近に存在していた他者との関係性も当たり前に存在するものではなくなり、人々は日常生活において自分の存在を認められる機会が減少している。このようなつながりが希薄化する中で、誰かから存在を肯定されたいとの願望から現代では人々は他者から自分の存在を認められるという「承認」に対して敏感になっている。
 これまで「承認」に関してはさまざまな論評において社会問題の原因として承認の欠如が語られつつも、その承認がどのような他者からの承認を求めているのかといった承認と社会との関連について実証的にとらえる研究は行われてこなかった。
 本研究では、実証的に他者からの承認と社会との関連をとらえることを目的とし、計量的に承認を測定するための尺度の作成を行う。そして、承認を測定する尺度を作成することで、現代日本社会における承認の構造を定式化し、「他者」との関係性が人々にとってどのような影響を与えているのかを明らかにする。

講評

 「主観的承認観」というテーマは、きわめて独創的で野心的であり、意義の深い研究となるポテンシャルを秘めている。その点、次のような側面で、今後の努力と考察の深化を望みたい。まず、「承認」に関しては、公共哲学系の議論のみならず、社会学におけるさまざまな問題領域での質的調査を用いた探求が関係しているので、それらを踏まえた上で、「承認」(主観的承認観と(ある意味で)「客観的な」社会的承認の双方を含む)についての理論的概念図式を自ら考察して構築することをめざすこと。そして、そうした理論的背景のもとで、「尺度化」を位置づけ、他の類似の「主観的変数」の尺度化との関連、「主観的承認」に関わるさまざまな社会的変数との関係などを、明晰な形で明らかにしていくことである。

2015年度リサーチコンペ プレゼンテーション審査会のお知らせ

先端社会研究所は、その取り組む事業のひとつである「教育」の一環として、関西学院大学の大学院生・研究員を対象に、先端社会研究所が取り組む「他者問題」に関して将来の可能性が期待される「優れた先端的な研究」を募集しました。厳正な書類選考に基づき、以下7件の研究課題がプレゼンテーションを行います。助成受領者は、この中から、申請書類と、研究計画に関するプレゼンテーションの審査によって決定されます。

2015コンペプレゼン案内チラシ.pdf  [ 466.16KB ]PDFファイル

プレゼンテーション審査会当日スケジュール

10:00~ 開会挨拶  盛山 和夫 先端社会研究所所長

10:10~10:40 笹倉 麻衣(総合政策研究科 博士課程前期課程2年)
        分譲マンションにおける共用施設の設置・利用とコミュニティ形成に関する考察

10:40~11:10 前田 竜孝(文学研究科 博士課程前期課程2年)
        小規模漁業者による漁業種類の選択課程とその実態―大阪府岬町深日地区を事例に

11:10~11:40 生井 達也(社会学研究科 博士課程後期課程1年)
        労働/非労働の二元論を超えて―インディー・ミュージシャンへの人類学的考察

11:40~12:10 江嵜 那留穂(国際学研究科 博士課程前期課程2年【研究代表者】)
        吉田 夏帆(国際学研究科 博士課程前期課程1年【研究分担者】)
        ネパールにおける低位カーストおよびエスニック・マイノ リティの修学実態に関する研究―M7.8 の大震災による影響

12:10~12:40  休憩(30分)

12:40~13:10 掛橋 智佳子(言語コミュニケーション文化研究科 博士課程前期課程1年)
        職場で必要な「コミュニケーション」の分析―定住外国人と共に働ける職場を目指して 

13:10~13:40 三隅 貴史(社会学研究科 博士課程前期課程1年)
        神輿会のフォークロア―東京圏の都市祭礼を支える人びと 

13:40~14:10 智原 あゆみ(社会学研究科 博士課程後期課程1年)
        承認に関する意識の測定尺度の作成―計量社会意識論のアプローチを用いて

14:10~ 閉会挨拶  佐藤 哲彦 先端社会研究所副所長

2015年度先端社会研究所「大学院教育支援事業」リサーチコンペ募集

2015年度先端社会研究所「大学院教育支援事業」
リサーチコンペ 募集要項

先端研2015リサーチコンペ申請_計画書.xls  [ 44.00KB ]XLSファイル

1.本事業の趣旨

先端社会研究所が取り組む「大学院教育支援事業」の一環として、全研究科大学院生・研究員を対象に、先端社会研究所が取り組む「他者問題」∗ に関して、将来の可能性が期待される「優れた先端的な研究」を募集する。そして、採択者(個人、もしくは数名のグループ)に対しては、一定額の研究助成を行い、当該研究のより一層の発展を支援し、研究者の養成を図る。

2.応募期間

2015年5月1日(金)~6月1日(月)16:30(時間厳守)

3.応募方法および採択決定までの流れ

1)応募
「2015年度 先端社会研究所<リサーチコンペ> 研究計画申請書」【様式1、2】に必要事項を記入のうえ、先端社会研究所事務室に提出。英文での申請可。
申請書は、先端社会研究所HP(http://www.kwansei.ac.jp/i_asr/index.html)よりダウンロード。

2)書類審査
「2015年度先端社会研究所リサーチコンペ審査委員会」において、次の評価ポイントにより書類審査を行い、「5)プレゼンテーション」に進む課題を選考。
   ①先端性 ②親和性 ③計画性

3)リサーチコンペウィーク
2015年6月15日(月)~20日(土)をリサーチコンペウィークとし、「研究計画申請書」を先端社会研究所ホームページにて公開する。

4)プレゼンテーション
書類審査を通過した応募課題について、公開でプレゼンテーションを実施する。
 開催日 2015年6月20日(土)
 場 所 先端社会研究所セミナールーム(社会学部棟3階)

5)採択決定
書類審査およびプレゼンテーションを通じて、先端社会研究所が取り組む「他者問題」に関して、「優れた先端的な研究」としての将来的な成果が期待される研究計画を採択する。

4.応募資格者

2015年度の時点における関西学院大学各研究科所属の大学院生ならびに大学院研究員・研究科研究員

5.助成内容と採択件数

個人研究の場合は1件につき20万円、共同研究の場合は1件につき40万円をそれぞれ上限とする。採択件数は、2015年度予算枠80万円の範囲内で決定する。
※なお、本制度による助成は、主として調査・研究活動に必要な経費を対象としているため、設備・備品等の購入は原則として認めない。

6.助成年限

2015年度内(研究期間:採択通知日~2016年3月31日)

7.申請書提出期限/提出場所

2015年6月1日(月)16時30分/社会学部棟3階 先端社会研究所事務室
※なお、提出時に学生証(研究員証)にて本人確認を行います。

8.採択決定通知

2015年6月24日(水) 申請者宛にEメールにて通知します。

9.研究成果の公表

本制度に採択された者は次のとおり研究成果を公表しなければなりません。
①「中間報告」の提出
 先端社会研究所紀要(2015年度発行予定分)に掲載されます。
②「研究成果報告書」(研究所所定様式)の提出
 2016年4月末日までに提出してください。なお、研究成果報告は一括して先端社会研究所のホームページに掲載します。
③「リサーチコンペ報告会」(2016年5月頃開催予定)での報告
④「先端社会研究所紀要」(2016年度発行予定分)への投稿

10.問い合わせ先

本募集に関する問い合わせは、全てEメールにて受け付けます。
問い合わせ先メールアドレス: asr@kwansei.ac.jp

                            以上

∗「他者問題」とは

情報コミュニケーション技術の発達、人的移動の増加、資本主義の世界的拡大は、国・地域・集団の境界内に留まっていた人、モノ、サービス、情報等が接触する機会を爆発的に増加させています。これは、人種・エスニシティ、宗教、ジェンダー、セクシュアリティ、階級・階層など身体的、文化的、経済的、社会的に異なる(と考えられる)ものが「他者」として包摂、排除、支配される場の拡大をもたらします。他者問題とは、2つ(以上の)の集団や社会が接触する、あるいは1つの集団や社会内に亀裂が生じて起こる問題で、そこでは互いを理解不可能な「他者」として見る傾向が高まります。と同時に、異なる集団間の境界に位置するためどちらからも「他者」とみなされる人々や集団が生まれます。多くの場合、他者問題のもとでは抑圧や排除を通じた暴力が発揮されがちです。
「他者」をめぐる境界は明確に決められたものでなく、紛争や災害の発生に伴って、突発的に「他者」が生み出されたり、あるいは逆にそれまで「他者」として排除されていたものが「わたしたち」の一部に組み入れられたりする場合もあります。こうした「他者」の生成の社会的プロセスを明らかにすることが、先端的な社会研究には求められています。