2009年度シンポジウム

[ 編集者:先端社会研究所   2014年9月5日 更新 ]

関西学院大学先端社会研究所 2009年度シンポジウム「戦争が生み出す社会 Part II -『見えない敵』への恐れと排除」が開催されました。

 去る10月17日、先端社会研究所が主催するシンポジウム「戦争が生み出す社会 Part II -『見えない敵』への恐れと排除」が開催されました。会場には研究者、学生、一般市民の方々などが多数詰めかけ、熱気に満ちたシンポジウムとなりました。 

 前半は作家・映画監督の森達也氏に「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」という題名で基調講演をしていただきました。森氏によれば、1990年代後半から9.11NYテロを経て日本社会で顕著になったセキュリティ強化の動きは、メディアと連動しつつ一般の人々に「我々は善なる被害者である」というイメージを抱かせ、同時に「悪い人を罰してほしい」という雰囲気を醸成する役割を果しました。またセキュリティの言説が逆に人々の不安を掻きたて、国外には「北朝鮮」、国内には「犯罪者」といった「敵」を求める心理と結びついてゆくことが説明されました。これに加え、犯罪者への厳罰化の進む日本との比較の上で、これに反対しているノルウェーの事例が紹介され、日本へのアンチテーゼとしての可能性が語られました。

 後半では基調講演を受け、2名のコメンテーターにコメントをいただきました。まず鈴木謙介氏は現代の戦争を、「軍事戦争」、「経済戦争」に続く「文化戦争」の時代と捉え、自らをクリエイティブな存在として差異化しようとする人々がそうでない人々を差別するという情報化時代の格差・差別問題について述べられました。その上で、現代ではもはや森氏の言う「善なる私たち」というかたちでの一般市民の一体化さえ困難なのではないかという問題提起がありました。

 続く原口剛氏は、2007年に大阪市東住吉区の長居公園に暮らす野宿者のテントが市によって強制撤去された事例を基に、「日常的な戦争」が行われる空間に作動する権力の問題を指摘されました。ここでは野宿者のテントがあるだけで近隣住民の不安が煽られたことや、テントの存在が道徳的に批判され、「公園の正常化」という名目でテントの撤去が進められたことなど、森氏が説明された国内外の「敵」が生み出されるプロセスと類似の構造が存在することが見いだされました。

 その後は本研究所所長・阿部潔氏を司会として、パネリストとフロアとの自由討論が行われました。話題は厳罰化をめぐる倫理的な問題、メディアのあり方、監視と自由など多岐に渡りました。また会場からは、人は「善意」を持ったまま人を殺すという森氏の話が強く印象に残ったとの声も聞かれました。全体的に見て本シンポジウムは、通常は国家間対立という枠組みで理解されやすい戦争を、セキュリティ化が生み出す不安という現代の個人をめぐる逆説的な状況に照らして理解し直す試みとして、意義深いものだったと思われます。

「戦争が生み出す社会 Part II -『見えない敵』への恐れと排除」写真1
「戦争が生み出す社会 Part II -『見えない敵』への恐れと排除」写真2

(報告:岩佐将志)

先端社会研究所 2009年度シンポジウム「戦争が生み出す社会PartII」

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「戦争が生み出す社会PartII」ポスター

ポスター裏面  [ 534.03KB ]PDFファイル

先端社会研究所シンポジウム「戦争が生み出す社会 Part II ─『見えない敵』への恐れと排除」

■日時: 2009年10月17日(土)13:00-16:00

■場所: 関西学院大学上ヶ原キャンパス図書館ホール

概要

 2001年9月11日を契機として、いたるところで声高に叫ばれるようになった「テロとの戦争(War on Terror)」。それは「見えない敵」との常なる戦いを強いるものにほかならない。ポスト9.11の社会に暮らす人びとは、これまでのような国家と国家の交戦状態とは異なる「新たな戦争」を、まるで日常の一部として抱え込んでしまったようにすら思われる。

 感覚的にイメージされる敵の姿は、なにも凶悪な政治テロリストにかぎらない。より身近な日常生活のなかに蠢く「見えない敵」の姿に対しても人びとは脅威の念をいだき、なんとしてもその存在を排除/抹消しようと躍起になっている。

 だが、私たちに脅威を与えるテロリストとは、いったい誰なのか?彼ら/彼女らは、そもそもどこからやって来るのだろうか?平穏な日常生活を脅かす凶悪犯は、どこに潜んでいるというのだろうか?人びとが「見えない敵」について語る時、不思議なまでに、その恐ろしい/排除したい敵=他者の姿は実体としては曖昧なのだ。

 本シンポジウムでは、「9.11」以後の世界と日本の社会・文化的な変化を念頭に置きながら、日常化された「戦争状態」が「だれとの」あいだで「なにを賭けて」生きられているのかを、戦争と社会をめぐるこれまでの歴史を見据えながら議論する機会を持ちたい。

 現代社会を覆い尽くすかのようにすら思える「見えない敵」について、異なる世代に属する論客が語り合うことを通じて、戦争と社会との今日的な関係の特質を浮かび上がらせることを目指す。

パネリスト

基調講演

森 達也 (映画監督/ドキュメンタリー作家)

コメンテーター

鈴木 謙介 (関西学院大学社会学部助教)

原口 剛 (日本学術振興会特別研究員/大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)

司会

阿部 潔 (関西学院大学社会学部教授)

参加費

無料

プログラム

12:30-     開場/受付
13:00-13:15  司会挨拶/先端社会研究所所長メッセージ
13:15-14:15  基調講演 (森達也)
        「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」
14:15-14:30  休憩
14:30-15:00  基調講演へのコメント (鈴木謙介/原口剛)
15:00-16:00  パネルディスカッション/フロアーとの質疑応答