2010年度シンポジウム

[ 編集者:先端社会研究所   2014年9月5日 更新 ]

シンポジウム「ジモト」という現象 ─空間をめぐるアイデンティティのゆくえ─ が開催されました。

シンポジウムを振り返って

 本シンポジウムでは、現代におけるコミュニティ意識の動向やコミュニティづくりの実践について、「ジモト」という概念を媒介として、研究者と実践者が一堂に会して意見交換を行う機会が設けられました。会場には予想以上の人数の聴衆が集まり、本シンポジウムに対する研究者や一般市民の期待と関心の高さを実感させるものでした。またこのことは、研究を通じて大学と市民との架け橋としての役割を担うことを理念として掲げている本研究所にとっても非常に喜ばしいことでした。
本シンポジウムで敢えて「ジモト」という表現が前面に掲げられたのは、近年の地域コミュニティに関する意識や実践の中には、何か従来とは違う現象や問題が見られるのではないかという発想からでした。当日はさまざまな立場や関心から地域コミュニティに関する研究および実践を行っているパネリストが集まったため、それぞれの活動内容に沿って第一部を「<定住者>にとってのジモト」、第二部を「<移住者>にとってのジモト」と対比させるかたちで議論が進められました。しかしそこから浮かび上がってきたのは、両者の間には実際には多くの共通項が存在すること、そしてそれを「ジモト」という概念を通じて繋ぎ合わせてゆくことには意義と可能性が見出せるのではないかということでした。
 各々のパネリストの報告からは、長年同じ地域に住んでいる<定住者>にせよ、国や地域を移動して生きざるを得ない<移住者>にせよ、彼ら/彼女らが「そこに自分の居場所がある」と感じられるような、具体的な人、モノ、場所との繋がりを求めていることが確認されました。こうした欲求の高まりは、一方では現実の生活に対する不安感や無力感、忌避感などの否定的感情を反転させたイメージとして、人々が心の中に理想の「居場所」を描こうとしている結果として説明出来るかも知れません。このことは、雇用の流動化により行き場を失った若年層の感覚、現実社会で生の実感を得られない人々の喪失感、フィクションの世界への憧れなど、さまざまな事例から垣間見られるものでした。
 その一方で、「居場所」への欲求を単にイメージの世界にとどめるのみならず、現実世界を創造/再創造してゆくための自発的、主体的な行為に転化させてゆく機会もまた広がっていることが見出されました。特に実際に「まちづくり」の活動に取り組んでいるパネリストからは、現場で市民同士が意見の対立や衝突を繰り返しながらも、自分たちの手で理想の地域のあり方について合意を形成してゆくプロセスの意義が強調されました。またアニメに取り上げられることで地域が活性化したという事例からは、フィクションに描かれた地域のイメージが現実の地域を作り替えてゆくという興味深い状況も見られました。
 いずれにせよ、「ジモト」という概念の意義を考えるに当たっては、さまざまな立場に置かれた人々が、さまざまなイメージに基づいて、心の中あるいは現実社会につくりあげる「さまざまな居場所」があること、そしてそれらが幾重にも関係性を結ぶ中で互いを変容させていることを考慮する必要があるのではないかと考えます。つまり「ジモト」を単にある特定の「地域」という地理的な実体として理解するだけではなく、そこにまつわるさまざまな社会的つながりの維持・形成や、そこに働く個々人のイメージの力をも考慮に入れた概念として捉えてゆくべきではないでしょうか。本シンポジウムはこのようなことを考えるきっかけを与えてくれるものでした。
 今後は日本特有の現象のように見える「ジモト」意識を海外のコミュニティ意識と比較するなど、国際的な視野に立った研究への広がりも期待できるでしょう。

岩佐将志(先端社会研究所専任研究員)

シンポジウム「ジモト」という現象─空間をめぐるアイデンティティのゆくえ─

関西学院大学先端社会研究所 2010年度シンポジウム「ジモト」という現象 ─空間をめぐるアイデンティティのゆくえ─

趣旨

近年、地域社会の「豊さ」を実現するうえで、町並みに代表される地域の景観に注目する動きが高まっている。そこには単なる経済的・物質的な豊かさだけでなく、生活の質(quality of life)を高めようとする行政/市民/企業の思惑が見て取れる。
他方で、ポピュラーカルチャー/サブカルチャーの領域において、個々人が生まれ育った地域=ジモトで育んだ人々との繋がりや関わりを新たな感性のもとで描き出す作品群が、若者たちの支持を得ているように見受けられる。こうした二つの「地域社会=コミュニティ」をめぐる動向は、それぞれに異なる担い手によって、異なる価値観と目標の実現を目指して高まっているものであるが、同時に両者には、地域社会=コミュニティのあり方へのこだわりという点で共通性が見出される。いわば「ジモト」志向をめぐる社会・文化的な現象が、そこに見て取れるのである。
こうした地域=ジモト指向の高まりは、どのような社会的背景のもとで生じてきたものなのだろうか。それは誰を担い手として/なにを目指して/どのような豊かさを模索しているのだろうか。さらにそこにおいて、地域社会の内=ウチと外=ソトの双方に存在する「他者」との関係は、どのように位置づけられているのだろうか。
今回のシンポジウムでは、先のシンポジウム「見えない敵への怖れと排除」を通して明らかになった「わたしたち」をめぐり今日の日本社会が直面する問題と課題を踏まえて、「ジモト」という現象が問いかける地域/ローカルをめぐるアイデンティティをめぐる諸問題について考えていく。
第一部「〈定住者〉にとってのジモト」では、地域社会に暮らす=定住する人々にとっての地域=ジモトの意義と課題について、行政/企業/住民それぞれの観点からの取り組みに関わっている当事者を招いて、地域=ジモトをめぐる今日的な動向について議論を交わす。
第二部「〈移住者〉にとってのジモト」では、さまざまなかたちでその土地に「移住」してきた人々にとって地域=ジモトがどのように受け止められてきたかについて、地域研究・エスニシティ研究・サブカル研究などの知見を交えて議論する。

進行

13:00~13:10 開会挨拶(阿部潔 関西学院大学社会学部/先端社会研究所所長)
13:10~14:00 第一部 〈定住者〉にとってのジモト

1980年代頃より日本各地で進められてきた「まちづくり」においては、東京一極集中の是正や、経済成長により失われた美しい環境の再生、保全が目指されてきた。またそこではそれぞれの地域固有の資産を活かした個性ある「ふるさと」を創造することが試みられてきた。一方近年では若い世代を中心に、生まれ育った地域に対する愛着を基盤として地域環境の再生、保全あるいは安全向上に取り組む人々が目立ち始めている。ここで見られる「ジモト」へのこだわりは、従来の「ふるさと」意識と同列に語ることが出来るものなのだろうか。またここで理想とされる居心地の良い「ジモト」とは、誰が、何を基準として想像しているのだろうか。第一部ではこうしたテーマを中心に議論を行う。
討論者
・ 岩田郁子(西宮市都市計画部景観まちづくりグループ)
・ 松本恭輔(株式会社Link-ef/関西学院大学非常勤講師)
・ 中野康人(関西学院大学社会学部/先端社会研究所副所長)
・ 川端浩平(関西学院大学大学院GP特任助教)
司会:岩佐将志(先端社会研究所専任研究員)

14:00~14:10 休憩

14:10~15:00 第二部 〈移住者〉にとってのジモト
「ジモト」という概念は、本来、相関的(relational)なものであり、それが如何に認知され、どのような価値が与えられるかは、社会交渉の中で絶え間なく変化する。国内、国外からの空間的「移動」、あるいはネットの普及による「空間」そのものの再定義は、新たな「他者性」を持ち込むことでこの交渉を活性化し、「ジモト」というアイデンティティをより流動的なものにしている。第二部では、「ジモト」を「過程」として捉え、彷徨う「ジモト」を巡って行われる様々な交渉を具体的な事例から論じる。
討論者
・ 鈴木慎一郎(関西学院大学社会学部)
・ 今井信雄(関西学院大学社会学部)
・ 山口覚(関西学院大学文学部)
・ 谷村要(関西学院大学大学院GPリサーチアシスタント)
司会:辻 輝之(先端社会研究所専任研究員)

15:00~15:10 休憩
15:10~16:30 第三部 総括討論

すべての討論者
司会:阿部潔

「ジモト」という現象─空間をめぐるアイデンティティのゆくえ─チラシ