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共同研究「戦争が生み出す社会」

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[ 編集者:先端社会研究所   2014年12月3日 更新  ]

先端社会研究所は、現在以下の計画のもと、共同研究を行っています。

(1)本研究の意義と目的

 ふたつの世界大戦に代表される20世紀の戦争は、大量破壊、大量殺戮をもたらしました。しかも、今もなお、世界で大量破壊兵器を用いた紛争が絶えることはなく、また、新たに戦争が勃発する可能性も否定できません。戦争はまさに今日的な問題であり、この問題を抜きにして、21世紀の未来を語ることはできないといえます。この意味で、戦争に関してさまざまな学問分野が、最新の方法を駆使して研究していくことの現代的意義は疑いえないものです。人文・社会科学の領域において、戦争研究を先導してきたのは、歴史学です。最近出版された『岩波講座 アジア・太平洋戦争』に集約されているように、近年の歴史研究では、「世界史的な視野」のなかにアジア・太平洋戦争を位置づけ、階級、ジェンダー、エスニシティの視点を導入した新たな研究の展開を遂げています。
 しかし、歴史研究のように、戦争体験と、それに関するさまざまな当事者の記憶の問題を中心的に扱うだけではなく、戦中から戦後の社会構造の変容を全体的に捉えなければ、<戦争>そのものの持つ社会的意味を解明することはできないでしょう。戦争は、その後の社会の行方を方向付ける決定的なできごとであり、この意味で、戦争研究はすぐれて社会学的な課題なのです。

(2)「移動」と「空間」に着目する新たなアプローチ

 既存の社会学は、「定住」を前提としたかたちで理論構成を行っているため、移動に関しては、考慮がほとんど払われてきませんでした。しかし、近代戦争、特に第二次世界大戦は、大量の兵士や軍関係者を動員し、かつてないほどの無数のひとびとの移動を伴ったできごとといえます。兵士だけではなく、強制収容所や強制労働、空襲や戦場になった地域の住民の避難や疎開、それによってもたらされる家族や友人、恋人の離散と新たな出会いを生み出すのが、戦争なのです。また、日本の場合、太平洋戦争敗戦後、元軍人をはじめ、「外地」に生活していた620万人に及ぶ者が帰国した。それは、日本の旧植民地や占領地域に「空白」をもたらすことをも意味します。
 戦後社会の形成において、移動は決定的な意味を持つ。戦争によって引き起こされた物理的移動が、いかに社会を変容させていくかが、問われなければならないのです。
 戦前、戦中、戦後の物理的移動への注目は、必然的に空間の問題を問うことにつながります。そもそも、戦争は、軍事施設の建設、陣地の設営、兵器生産への生産システムの改編(これは、工場の移動を伴う)を前提としています。また、戦争がひとたび終われば、これを土台にして、新たな空間への働きかけが行われます。敗戦国である日本の場合には、軍隊が解体したことから、旧軍用地の再利用は、戦後社会の形成と大きく関わっていました。つまり、かつての戦場や軍用地が、その後どのように利用されていくのか、また、それは、戦後の工業開発といかなる関係があるのか(あるいはないのか)といった問題は、戦後の日本社会の構造化を考えるうえで欠かせないものといえます。
 そもそも、(西欧に生まれた)資本主義的空間の生産において、戦争は決定的な意味を持っています。この点に関して、アンリ・ルフェーブルは、『空間の生産』のなかで、「戦争は何を生産したのか。西欧である。つまり歴史の、蓄積の、投資の、空間であり、経済領域を支配的な地位に押し上げた帝国主義の土台である」と指摘しています。
 また、近代戦争において用いられる核兵器や化学兵器は、破壊の対象を兵士ではなく、環境においています。ペーター・スローターダイクは、これを「テロリズム」と呼んでいます。テロリズムにおいては、「人に対する暴力」と「事物に対する暴力」の区別はもはやなくなり、それは、環境に対する暴力に止揚されるます(スローターダイク『空爆』)。広島と長崎への原子爆弾の投下は、この経緯を象徴する事件です。アメリカや、実際に原爆を投下したエノラゲイなどの乗組員は、広島や長崎市民ではなく、広島市、長崎市と呼ばれる空間を爆撃したにすぎません。個々の被爆者の「顔」は、攻撃する側には見えないのです。湾岸戦争やイラク戦争は、こうしたタイプの攻撃がより純化されたものといえます。
 戦争による空間の生産、兵器を通じた認識の大転換は、人を環境、空間との関連で捉えない社会理論が無効であることを示しています。

(3)社会調査法革新の必要性

 上記のような研究目的とアプローチは、新たな方法を必要とします。
 従来、戦争に関しては、当事者の「記憶」という側面から研究されることが多かったのですが、本研究では、空間に関する統計データをはじめとするさまざまなデータの収集を行います。物理的空間が具体的にいかに利用されているかについて捉えるためには、映像データの収集も必要であり、映像を用いた方法の可能性も追求します。
 また、人と空間の関係を理解するためには、場所に対する人々の認知、記憶、評価を明らかにすることが必要です。それは、従来の調査票調査では捉えることができないものです。場所の認知と評価は、映像、音、においなど五感によるものです。したがって、文字だけで対象者の意識を明らかにする調査票調査では、これを十分に明らかにすることはできないのです。
 旧軍用地のような場所の風景、音の認知や記憶がどのように形成されているのか、そうした認知や記憶が場所、空間の評価にどのような影響を与えているのか、さらにそれらが場所、空間の所有や利用のための合意形成にどのように影響しているのか。こうした課題の解明は、量的調査、質的調査、あるいは実験などの手法を組み合わせることで、はじめて実現されるにちがいありません。そのための調査手法の開発も検討していきます。
 さらには、人々の移動の過程を長期的なスパンで捉えるための新たな統計的手法の開発、また、物理的移動が、社会階層の構造変動といかに関わっているかについて、社会階層を空間的に把握するために、社会地図作成の可能性を追求します。

(4)他者問題の解明に向けて

 冒頭に述べたように、戦争研究の新たな展開は、戦争を一国民国家の枠組のなかではなく、グローバルな関係性のなかで捉える方向に進んでいます。その際、特に注目されつつあるのが、「ジェンダー」や「エスニシティ」のような「他者」を規定する概念です。「大東亜共栄圏」の構想においても、ヒトラーの『わが闘争』においても、新たな他者表象が試みられていたことを想起するだけでも、戦争研究と他者問題は、切り離すことができないことは明らかです。

 そもそも、他者概念には、次のようないくつかの異なる意味付けがなされています。
  (1) 自己に対峙する存在―他者は自我が立ち現れる「前提」であり、他者と自己が区別されることによって、個人がみずからを認識します。
  (2) 自己とは異質な存在―他者とを、自己との差異が特に明らかであるような存在と見なしす。こうした社会学においては、ジンメルやシュッツの「よそもの」論があります。ここで、具体的にイメージされるのは、「商人」から「放浪者」にいたる「移動する存在」です。また、都市に集まるさまざまなひとびと相互の関係を他者同士の関係と捉える場合があります。より端的に、異文化に帰属する存在を他者と呼びます。近年の歴史研究において取り入れられている他者は、この定義に基づいています。
  (3)両義的な存在-敵であるか、味方であるかが不明確で、そうであるがゆえに不確定な存在を他者と呼びます。バウマンやデリダなどの他者概念がこうした定義をしています。
 
 これらの定義は、互いに矛盾するものではありません。しかし、本研究は、他者概念が真の意味で経験科学において有効であるためには、こうした定義だけでは不十分であると考えています。なぜなら、他者を自己の行為選択との関わりや、自己と他者のコミュニケーションとして見るだけで、行為やコミュニケーションが成立する基盤としての物理的な場が考慮されていないからです。
 先にふれたように、戦争はひとの移動を加速化し、新たな空間がさまざまなかたちで開発されます。それは、他者と出会うと同時に、「私が他者となる」場を生み出します。そこでは、それまで通用していた規範もはや通用しません。一寸先は闇のような不確定性が支配する空間が生じているのです。
 本研究の最終目標は、戦争が生み出す社会について研究を進めることで、他者を空間の問題として捉えることの重要性が指し示していくことにあるのです。

共同研究 「戦争が生み出す社会」

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