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2012-15年度共同研究 研究計画

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[ 編集者:先端社会研究所   2014年9月8日 更新  ]

アジアにおける公共社会論の構想

―「排除」と「包摂」の二元論を超える社会調査―

1.目的

 欧米では1970年代以降、「包摂型社会」から「排除型社会」へと移行し、さらに1990年代以降、グローバリゼーションとネオリベラリズムの大波の中、この傾向は急激に強化されて現在に至っている(ジョック・ヤング)。そして、ほぼ同様の動きは、日本社会においても、グローバリゼーションの浸透下、顕在化するようになってきている。
 これに対して、社会のあり方を再創造する新たな社会思想の登場が期待されており、日本においても、たとえば、西欧思想史を援用しつつ、社会を多様性と複数性、流動性と包摂性からなる、「多にして一」の世界として再構想する思索(竹沢尚一郎『社会とは何か』)などが現れるようになっている。
 もっとも、社会の再創造は、西欧思想史を導きの糸としてその作業を行なう立場とともに、西欧とは異なる地域における生の経験に学びつつ、これを行なうという道筋もありえるであろう。
 本研究は、欧米における社会思想形成の動向に配慮しつつも、後者の立場に立った社会構想研究を実施するものである。具体的には、アジアにおける「排除」と「包摂」をめぐる経験の多様性の中から、「排除型社会」とは異なる社会のあり方を構想する知的資源、あるいは「排除型社会」を生き延びるための社会理論を取り出そうとする試みである。そこでは、たとえば、「排除」と「包摂」の二元論的思考を超え出て、対立のまま共存する「排除の無効化」の理論的展望の獲得が行なわれることになる。
 本研究では、その理論的展望を「公共社会論」と呼んでいる。社会学分野では、“For Public Sociology”と題した2004年アメリカ社会学会大会のブラウォイ会長の講演から、新しい社会学の方向性をめぐって広範な議論が巻き起こった。そこで人々に共有されたのは、社会学は単に研究者のための学問にとどまるべきではなく、一般社会と積極的にかかわりながら政策的、規範的な課題にも取り組む学問を志すべきだという問題意識である。ほぼ同時期、文化人類学分野でもロバート・ブロノフスキーらがPublic Anthropologyを構想し、公共の関心の高い社会問題に取り組み、その解決を目指す学問を提唱した。
 本研究は、これらの北米的関心とは異なるルーツから「人類の幸福に資する学問」を出発点としているが、同時に、学界のための学問を乗り越え、実践的な課題への取り組みを通じて新たな公共性の構築に寄与するべきだという問題意識に深く共鳴している。本研究の知的展望を指して「公共社会論」と称する理由は、その問題意識を明示するためである。

2.方法

 このプロジェクトの遂行は、先端社会研究所のこれまでの研究成果をふまえた上で、「南アジア/インド」班、「中国国境域/雲南」班、「日本」班の3つのブランチを設定し、3年の研究期間をかけて行なう。
 対象地域をインド、中国周縁部、日本に設定した理由は、「排除」と「包摂」をめぐる実態分析と理論構築の場として、言語、宗教、カースト等において多くの多様性と対立を抱えるインド、民族間関係の多様性と流動性に富む中国周縁部、およびこれまでの多文化共生論等では看過されてきた日本の周縁社会が、最も明確な分析結果を得られるとの見通しによる。
 研究期間を3年とする理由は、初年度を予備調査、2年目を本調査、3年目を比較および補足調査にあてるためである。本研究の課題は、これまでの先端研の成果を踏まえながらも新たに設定したものであること、とくにインドについては、まったく新しいフィールドであること、また新規参加(指定研究)の研究員も構成員全体の半数を超えることから、3年の研究期間が必要であると判断した。

 「南アジア/インド」班は、関根康正をリーダーとし、インドを中心とする南アジア社会における「排除」と「包摂」のあり方を検討する。多年にわたってインドをフィールドに生活世界における「排除」と「包摂」の実態を調査研究してきた関根の蓄積をふまえ、「ストリート(路上空間)」や「カースト」、「不可触民」、「地域言語」等をめぐる「排除」「包摂」のあり方の動態を分析する中から、西欧近代型の「排除と包摂」パラダイムとは異なる原理からなる社会理論の構築をめざす。
 「中国境界域/雲南」班は、荻野昌弘をリーダーとし、中国雲南省を中心とする中国国境域(中国と東南アジア諸国との国境地域)の社会に見られる「排除」と「包摂」のあり方を検討する。これまで雲南省をフィールドに少数民族と国家との関係のあり方を分析してきた荻野の成果と、2010・2011年度先端研研究プロジェクト「共生/移動」における雲南少数民族調査の成果をふまえ、市場経済の浸透下における民族間関係とそこに見られる「排除」と「包摂」のあり方を検討し、西欧近代型の「排除と包摂」パラダイムとは異なる原理からなる社会理論の構築をめざす。
 「日本」班は、山泰幸をリーダーとし、日本社会史および日本の周縁社会(マイノリティ社会)に見られる「排除」と「包摂」のあり方を検討する。近代日本社会は、欧米の近代社会をモデルに近代化を進めてきたが、一方で、「排除」と「包摂」をめぐっては、歴史的、階層的、地域的等さまざまな次元で多様なあり方が存在してきた。民俗社会研究や差別史研究、マイノリティ研究等ですでに多くの蓄積を有する班員が、アジア諸地域との比較を視野に入れつつ、日本社会における「排除」と「包摂」のあり方を再検討し、西欧近代型の「排除と包摂」パラダイムとは異なる原理からなる社会理論の構築をめざす。

 それぞれのブランチにおいては、如上の課題のもとに「排除」と「包摂」をめぐる知見を抽出する作業を遂行してゆくが、あわせてプロジェクト全体での共同討議を定期的に実施し、欧米型排除社会(包摂社会)のフレームを転換し、無力化する(もしくは、「生き延びる」)社会理論の構築作業を進める。

 なお、アジアをフィールドとする本研究の課題は、西欧近代の社会観にもとづく調査枠組みを持ち込むことによっては解明することが難しい。アジアの現場は、アジアの現場で立ち上げた社会調査の枠組みによってはじめて把握することが可能となる。そして、そのようにして構築された新たな調査枠組みは、既存の社会調査のパラダイムを乗り越える、新たな可能性に満ちたものとなろう。先端研の研究には、COE時代からの「社会調査」研究の蓄積がある。本研究は、その到達点をさらに一歩踏み出した研究成果の産出を期して実施するものである。

3.研究の独自性と期待される成果

 排除と包摂については、これまで社会学、人類学等において研究の蓄積があるが、貴重ないくつかの試みを除くと、依然として西欧流の「排除/包摂」二元論の理論的優越状況を十分には乗り越えられていない。その点を焦点化するのが本研究であり、「排除/包摂」二元論を超えた社会理論の構築をより自覚的に前進させることになる。すなわち、この問題に正面から取り組み、「排除/包摂」二元論では捉えきれない軋轢界面の複雑な入り組みの諸現象を説明する理論―たとえば、「対立のまま共存するという排除の無効化の理論」―を構築し、提示する。
 この成果は、人文社会学研究に理論的革新と新たな研究領域の創出をもたらすのみならず、現代の「排除型社会」を生き抜くための生活戦術創出の理論的バックボーンを提供することにつながる。このことは公共社会論の一つの実践としての意味を有するものにほかならない。
 また、これらの成果は、最終年度におけるシンポジウム「アジアにおける公共社会論の構想―「排除」と「包摂」の二元論を超えて―」(仮題)の開催、および論集『「排除」と「包摂」の二元論を超えて―アジアにおける公共社会論の構想―』(仮題)の刊行として社会へ公開する。

4.各班のメンバーと活動
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