21世紀COEプログラムとは

[ 編集者:先端社会研究所   2014年7月15日 更新 ]

21世紀COEプログラム「『人類の幸福に資する社会調査』の研究-文化的多様性を尊重する社会の構築」

 21世紀COEプログラムは、「大学の構造改革の方針」(2001年6月)に基づき、2002年度から文部科学省に新規事業として「研究拠点形成費補助金」が措置されたものです。

 2003年度より5年間、関西学院大学では、この21世紀COEプログラムの枠で文化的多様性を尊重する社会の構築に向けた「人類の幸福に資する社会調査」の研究を行いました。

「『人類の幸福に資する社会調査』の研究」とは何か

 20世紀の社会科学は、平等の実現と豊かさの追求が中心的なテーマでした。「不平等」を是正し、機会均等を実現するための社会階層に関する研究や、「貧困」の実態を調査し、その原因を探る研究が、社会科学において重要な役割を果たしてきました。21世紀に入っても、世界経済の拡大と情報技術の発展などによる新たな展開は、世界各地で社会変動をもたらし、新たな貧困問題を生み出しています。この意味で、貧困の克服や経済格差の是正が、重要な課題であることに変わりはありません。
 しかし、環境問題に典型的に示されるように、市場経済が浸透すれば、新たな問題が生起し、経済成長がときに破壊的な効果を及ぼしてしまうことも、今日明らかになっています。また、経済成長の果てに何が待ち受けているのか、経済成長は、果たして何をもたらすのかという問いは、社会科学に対して、新たなアプローチの必要性を突きつけています。そして、そのために、平等の実現や、豊かさの追求とは異なる新たな価値の創出が求められています。
 このような状況において、経済的利益の追求による富の増大という近代社会の至上価値の限界を超えるための先験的理念として挙げたいのが、「幸福」です。幸福ということばは、一義的なものではありません。ひとによって、幸福に与える定義はさまざまでしょう。それは多様で、捉えることが難しいです。しかも、ある特定の個人、集団にとっての幸福の実現が、他の個人や集団の幸福を犠牲にして成り立つことさえあります。それは、必ずしも幸福を可能にする資源が限られているからではなく、宗教的対立に端的に表れるように、異なる文化的価値観が競合するからです。
 われわれは、このような幸福の多義性、多様性は、経済的グローバル化によって生じている諸問題を照射するために有効な視点であると考えます。というのも、研究者の持つ価値観自体が、「幸福の多様性」という視点によって、相対化されるからです。「幸福の多様性」という視点に立てば、研究者は、研究対象と距離を置いた客観的な位置に留まらず、みずからの調査をも再帰的に研究対象としていく必要に迫られます。
 以上の点から、本拠点では、次のような調査研究プロジェクトを進めています。

幸福の社会的条件に関する調査研究

 ある社会集団の幸福観や個人の幸福感が多様であり、何を幸福と捉えるかに関しても、時間の経過とともに変化が生じます。このような幸福の社会的条件を探るためには、国際比較調査や地域間比較調査を行う必要があります。しかし、今まで行われてきた国際比較調査は、「世界価値観調査」に代表されるように、調査企画の中心である欧米の価値観が色濃く投影されています。本拠点では、それぞれの地域に応じた調査方法が採られなければ、ある地域に固有の価値観、幸福観は理解できないし、地域間、国家間の差異もわからないという視点に立ち、新たな社会調査研究の地平を切り開くべく研究を進めています。具体的には、以下のような研究プロジェクトがあります。
 本拠点では、旧来から行われてきた調査手法に主体的に関わる一方、新たな調査のかたちを海外拠点と連携しながら模索しています。前者については、たとえば「世界価値観調査」のような国際比較調査に関する国際的ネットワークにおいては、単に欧米を中心とした価値や発想に基づいた調査デザインでは、価値の多様性を量ることはできないという視点を貫き、日本の現状に見合った質問項目を提示するかたちで、旧来の調査のありかたに改編を迫っています。
 一方で、国際比較とは異なる地域間比較調査を、海外の研究・教育拠点との共同調査によって進めています。そこでは、可能なかぎり、地域住民と協力するかたちで(地域住民の「調査力」と呼んでいい)、地域の幸福とは何かを問う調査を行っています。
 また、幸福は、地域間比較のように空間的に捉えるだけでなく、長い時間的スパンのなかで捉える必要があります。そこで、村のような特定の社会集団が記録したさまざまな資料に基づき、データベースを構築しながら、歴史のなかで価値がいかに変容しているのかを研究しています。

異なる幸福観が生み出すコンフリクト、暴力に関する研究

 問題が生じやすいのは、異なる「文化」に属する個人や集団が同一の空間で遭遇するような状況であります。このようなとき、異なる個人、集団間の「共生」は容易ではなく、ときには暴力が噴出することさえあります。本拠点は、特にこの点について、異なる地域に関する経験的な調査データや比較研究を踏まえて、分析していくことをめざしています。
 具体的なテーマとしては、「戦争」(戦争が遺したさまざまな傷跡の問題)から「いじめ」や「児童虐待」、社会的差別や外国人労働者の問題、そして近年広まりを見せる「監視カメラ」の問題に至るまで、さまざまな問題が研究されています。
 このように、暴力の問題が「人類の幸福に資する社会調査に関する研究」において中心となったのは、われわれが、幸福の阻害要因としてのさまざまなタイプの暴力を研究することが「人類の幸福に資する」という信念を抱くようになったからです。それは、幸福ではなく、不幸を研究することであるが、平等を築くために不平等を研究し、豊かな社会を築くために貧困について研究するように、幸福に資するためには、不幸を直視していかねばならないのです。

新たな調査法の開発

 幸福に資する社会調査とは何かを考えていくと、既存の調査法や論文による調査結果の公開だけでは、不十分だということがわかります。特に、幸福感や幸福を阻害されているときの感情、そしてそれを生み出す社会的環境を明らかにするのは難しいといえます。したがって、新たな調査法を開発する必要性が生じます。
 本拠点では、いじめ自殺を調査していくうえで、映像、特にアニメーションに着目し、アニメによる調査を行っています。いじめから自殺に至るまでの過程をリアルタイムで調査することは不可能であり、暴力はそもそもそれを言語化するのが難しいため、アニメの特徴を活かした理念的な映像を制作し、それをもとにインターネット調査を行う新たな調査法を開発しています。

想像力に支えられた未来像へ

以上のような研究から、本拠点は、21世紀の未来像を描こうとしています。異文化の共生を可能にするのはいかなるものか、それは制度設計によって可能になるのか。地域が異なれば、未来像も異なるでしょう。未来について語り、そのための指針となるような指標を可能であれば数理的に表現し、未来像を社会に還元していく学問が、今日求められています。本拠点は、これに応えようとするものです。

更に詳しい21世紀COEプログラムの成果については、報告書(1)「総括と展望」を、COEプログラムと先端社会研究所との関係については、報告書(2)をご覧ください。

報告書(1)「総括と展望」  [ 11.28 MB ]PDFファイル

報告書(2)  [ 6.84 MB ]PDFファイル