研究目的と概要

[ 編集者:先端社会研究所   2016年4月1日 更新 ]

 社会における科学技術と市場経済の驚異的な発展によって、豊かさ、利便性、健康の増進、さまざまな機会の拡大など、人びとの生活が大幅に改善されたことは間違いありません。しかしながら、人間社会には依然としていたるところで貧困、不平等、差別、民族対立、宗教的対立などが存在し、それらをめぐって暴力、テロ、戦争等々の問題が生まれていることも事実です。

 経済的発展と豊かさの追求を重視した近代の歩みは、どちらかといえば画一化と一元化とをもたらす傾向がありました。それは、たとえば人びとを学歴や社会的地位によって評価するしくみの成立や、「あるべき家族像」として専業主婦を前提とした核家族モデルが一時期喧伝されていったことなどに見られます。また、近代における「国民国家」の理念は、国民的同質性を強調し、異質なものを排除したり同化を強制したりする動きをもたらしてきました。

 そうした問題を踏まえ、本研究所の前身をなす21世紀COEでは、経済的グローバル化と異なる文化的価値の対立といった問題状況のなかで、「幸福の多様性」を重視した新たな社会調査研究の地平を切り開くことをめざしてきました。また、研究所の開設以降も、「他者」と「他者性」をキーワードにした学際的な共同調査研究を行うことに重点をおき、共同研究「戦争が生み出す社会」、共同研究「アジアにおける公共社会論の構想――『排除』と『包摂』の二元論を超える社会調査」などを推進してきました。

 今日、グローバリゼーションが進展するなかにあっても、いやむしろそれだからこそ、これまでの近代化が含意していた画一化や一元化ではなく、人びとの異なる生き方や文化がそれぞれ尊重され、マイノリティとか異質とされるものが決して排除されることなく共在しうる社会を構築していくことが求められています。また、そうした文化的多様性の尊重は、貧困や排除、差別や偏見などの解消という課題とも密接に関係しています。

 こうした課題へのアプローチには、多様な生き方や文化の実態とそれをとりまく状況に関する緻密で丁寧な社会調査が欠かせません。それには、さまざま地域、現場での調査のほか、国際的な比較調査や大規模な量的調査などが含まれますが、これに関しては一つ注意しなければならない問題があります。それは、「調査」という営みはともすると、「調査する側=研究者」の「視点」が自明視されて、しばしば「調査される人びと」の視点が無視されたり閑却されたりしかねないという問題です。文化的多様性の尊重という本研究所のテーマは、そうした「社会調査」のありかたそのものも見直しながら研究を推進していくことを意味しています。

 以上のような基本的な考え方に基づき、本研究所では2016年度から新しく4つの研究プロジェクトを立ち上げて、具体的に研究を進めています。個々のプロジェクトについてはそれぞれのページをご覧いただきたく思いますが、こうした研究を通じて先端社会研究所は、文化的多様性の尊重という観点に根ざした社会調査研究に関する世界的な研究拠点をめざして活動を展開しています。