所長挨拶

[ 編集者:先端社会研究所   2020年5月11日 更新 ]

コロナ後の社会調査

 終息はもちろんのこと、収束の見通しすら不透明な4月において、早計な議論は慎むべきではあるが、今年度以降、先端社会研究所に課せられた課題は、この感染症をめぐる人文・社会科学分野の研究を実証的な形で遂行し、成果を出すということにあるのではないだろうか。
 教育活動はもちろん、研究活動も2月から延期・中止が続き、手帳の予定が毎日更新されていく中、私たちは、これまでの社会調査の方法を用いて、何を測定し、誰の声を聞き取るべきなのか、暗中模索の日々である。
 毎日報道される携帯電話の位置情報を用いた空間統計分析は、学術界にいる者には到底ハンドリングできない件数をデータを匿名化して提供される。アカデミアの研究者は量的調査の分野で、ビッグデータを操る実業界のアナリストに、もはやかなわないのであろうか。おそらく、そうではないだろう。
 オンライン調査は、伝統的な質問紙調査の実施が困難な現代において、確かに便利な調査手法である。私たちも、今、全国調査をするには、ある程度、質の保障されたモニターを擁する適切な事業者に業務を委託することが多い。しかし、回答者の偏りをはじめ、学術界には新しい調査手法への懐疑も多い。さらに、報道などで目にする調査データや質問票、質問項目を見ると疑問が湧いてくるものも多い。
 プライバシーの保護とメディア環境の変容の中で、いかに精緻な社会調査を遂行するか、十分な回答者を確保し、属性に応じた解析を可能とすることができるか、伝統的な社会科学の知見をビッグデータをハンドリングする者たちに応答する機会が到来したと考えるべきだろう。

 本研究所は、上記のような、学術研究における量的調査の困難さに取り組んでいく必要がある。同時に、オンライン調査など機器所有や所得水準に影響を受ける回答者(モニター)からこぼれ落ちる人々の声に、引き続き、まなざしを向け続けなければならない。
 結果がすぐ出るオンライン調査の時代に、(1)十分なデータを確保すること、(2)回答者からこぼれる立場の人の声を聞くこと、この2つがコロナ後の社会調査を考える上で大切なことだと信ずる。
 新明正道先生、安田三郎先生ら本学の先達が取り組んだ理論的営為を継承発展させるとともに、学術的知見をもとに、新しい社会調査の時代において、引き続き、妥当性と信頼性を維持していかねばならない。

      

2020年4月30日 森 康俊