リサーチコンペ 2021年度


[ 編集者:先端社会研究所   2021年6月25日 更新 ]

2021年度先端社会研究所リサーチコンペ採択者の研究計画要旨および審査講評

5名の採択者による研究計画要旨と審査の講評は、以下の通りです。

①村落アイデンティティの構築ーー陳氏太極拳発祥地の陳家溝を対象として

範麗絹(社会学研究科)

研究概要

本研究は陳氏太極拳を作り出した陳家溝という村落を例にし、村落の社会構造が聖地化・観光化された個性的な村落社会の方向に編成され、村落のアイデンテイティが形成されていく過程を明らかにする。360年前に、陳家溝の陳氏一族の中で作り出した陳氏太極拳は、最初に陳家溝に住んでいる陳氏一族だけで秘密に受け継がれていたが、現在では、誰でも学べるものになった。そして、もう少しで途絶えの状態から、現在陳家溝を超えて世界的に広く伝播するまで、いろいろな見知らぬことが存在している。本研究はライフヒストリーの調査方法を用い、現在の陳家溝の代表的な陳氏太極拳伝承者の人生経験を焦点にし、陳家溝の諸相や変動を全体的に読み解く。

講評

先行研究展望は手堅く、テーマも明確であり、調査対象者への事前準備も評価できる。陳氏太極拳の「中心」と「周辺」をとらえられるよう視野を拡大することによって、より重層的な成果が期待できる。一方、調査倫理への配慮やインタビュー項目の準備はやや不十分であり、ユニークな成果が得られるかどうか不安が残る。村落アイデンティティの解明がライフヒストリー法で果たせるかどうか、さらに検討が必要である。

②ボランティアの社会化を促すものは何かーー当事者との相互作用に着目して

岡村こずえ(社会学研究科)

研究概要

本研究の目的は,現代日本においてNPOでのボランティア活動を通じて、行為者(主としてボランティア,および社会的困難を抱える当事者)の相互作用による解釈の過程を検証することで、社会的に困難な立場や自己との関係性について、どのような意味づけがなされているかを検証することである。また,その意味世界の認識について、変化を引き起こす要素を明らかにする。市民社会の担い手としてのボランティアを育むことを標榜するNPOにおいて、ボランティア活動の意味を再帰的に問い直し、ボランティアの社会化を促すものには、どのような要素があるのかを検証する。

講評

問題設定は理解できるが、「社会化」「相互作用」という概念の水準ではテーマの固有性を十分焦点化できていないのではないか。社会化、規範形成は一般化できるものであろうが、ボランティア活動の対象は、ジャンルによって様相が異なるため、支援領域ごとに検討するような計画実施が望まれる。ボランティア活動の実相をどのような質的データとして扱うのかにも不安が残る。またシンボリック相互作用論と質的なデータの切片化を伴うカテゴリー分析との親和性も説明不足な点がある。

③オンラインにおける民俗学的方法論の一考察ーー「反出生主義」をめぐるネットワーク研究を事例に

山下茉莉花(社会学研究科)

研究概要

本研究は、オンラインにおける民俗学的方法論の可能性として、「反出生主義」をめぐるネットワークを 分析する。「反出生主義」とは、「全ての有感生物は新たに生まれるべきではない」とする思想であり、オンラインにおいて大きな発展をみせている。「反出生主義」は、近代のリスク社会を反映した思想であり、当事者同士のネットワークは匿名性を帯びることによって時間·空間·社会の制約を超えて広がっている。ここにおいて、先行するアメリカ民俗学での研究を受けて、オンラインにおける調査の方法論が探されつつある日本民俗学で、本研究はその方法論の検討を試みるものとする。

講評

注目される思想潮流をインターネット上のデータ分析並びに聞き取り調査で探究することに期待がかかる。また民俗学固有の方法論で切り込もうという姿勢も評価できる。但し、対象集団のメンバーかつ調査者としてインタビュー調査を行う二重の役割については気になるところであり、調査倫理への配慮と併せて、熟考としっかりとした準備が求められる。

④新型コロナウイルス対策の比較社会学ーーミシェル・フーコーの安全システム論を用いて

中村健太(社会学研究科)

研究概要

現代社会は、人やものの活発な流通を重視してきた。その結果、新型コロナウイルスは瞬く間に世界中に拡大し、未曽有のパンデミックを引き起こした。パンデミックを前に各国政府は対応を迫られているが、多様な価値観を持った個人の交流や消費が社会の根幹を形成してきた現代では、すべての個人を監視し従順にすることを前提とした統治は困難である。それでは、各国はどのような対策を講じ、社会を統治しているのか。本研究は理論的研究も行いつつ、新型コロナウイルス対策を比較分析することで、個人が多様化し、国籍や性別といった枠組みで一括りにして統治することが困難となった現代社会の統治メカニズムを明らかにすることを目指す。

講評

テーマは時機にかなうものだが、行政文書データの解析をフーコーの理論枠組にいかに接続するかは課題となる。つまり、フーコーの「安全」概念をめぐる理論水準と「コロナ対策」のデータをめぐる実証水準のあいだに落差がある。この落差は研究を駆動するものになりうるが、現段階では達成すべき問いが大きすぎ、十分明確にはなっていないように思われる。この研究計画が、社会理論研究にどのように貢献するのかを明確にしていく必要がある。

⑤近世随筆を活用した民俗学方法論の構築ーー「夕顔観音」「おまん稲荷」「老犬神社」の事例を通して

辻涼香(社会学研究科)

研究概要

柳田国男や南方熊楠など初期の日本民俗学研究者は、近世随筆(江戸時代に記された巷談街説の記録・風俗考証など)を資料として用いて研究を行なっていた。しかし、現代では、民俗学のスタンダードな調査方法は、「 フィールド謂査」とされており、「文献」を活用する方法は忘れ去られている。本研究では、近世随筆を資料として再活用し、「具体的な現場でフィールドワークを行なう調査法」と「文献調査法」の二つを組 み合わせた新たな民俗学方法論の構築を試みる。方法論検証のための具体的事例として、①東京都葛飾区・足立区の「夕顔観音」、②東京都中央区の「おまん稲荷」、③秋田県大館市の「老犬神社」についての記録と伝承を取り上げる。

講評

近世随筆の民俗学データとしての妥当性・信頼性の検証の試みであり、挑戦的な計画と評価できる。事前のリサーチも非常に綿密で、現地調査の成果が期待される。一方、現代の民俗学で「文献調査法」がなされていないという主張が妥当かどうかにも疑問が残る。対象の「発見」なのか、方法の「発見」なのかが明確になるような計画実施を期待したい。

ー総評ー

いずれの申請も、一定の文献渉猟と方法論の検討の上に提出されており、全体的に高い評価を得るものが多かった。もちろん、採択された研究には、審査委員会からいくつか不充分な点の指摘があったが、それらをふまえ、計画を実施することで大いに成果が期待できる内容であった。採択者の研究計画の進捗に期待したい。

2021年度先端社会研究所「大学院教育支援事業」リサーチコンペ募集

2021年度先端社会研究所「大学院教育支援事業」
リサーチコンペ 募集要項

2021年度リサーチコンペ募集要項

2021年度リサーチコンペ募集ポスター


*申請書は、下記のリンクにアクセスしダウンロードして下さい。
2021年度 先端社会研究所リサーチコンペ 研究計画申請書

1.本事業の趣旨

先端社会研究所が取り組む「大学院教育支援事業」の一環として、全研究科大学院生・研究員を対象に、本研究所の「文化的多様性を尊重する社会の構築を目指した、社会調査を基軸とした研究の拠点」という目標*を理解し、将来それに貢献することが期待される「優れた先端的な研究」を募集します。
 採択者(個人、もしくは数名のグループ)に対しては、一定額の研究助成を行い、当該研究のより一層の発展を支援し、研究者の養成を図ります。

*先端社会研究所の目標は以下の通り。
①社会調査を中心とする社会科学的手法によって、
②互いに異なる人々の関わりにまつわる問題群に対して、
③学術的視点から未来の指針を示すような研究を実施・支援する

2.応募資格者

2021年度の時点における関西学院大学各研究科所属の大学院生ならびに大学院研究員・研究科研究員

3.助成内容と採択件数

1件につき20万円を上限とします。採択件数は、2021年度予算枠(80万円)の範囲内で決定します。
対象となる経費は、物品(消耗品・消耗図書)の購入、学会発表旅費、調査旅費等、研究遂行に必要な費用とします。
※本制度による助成は、主として調査・研究活動に必要な経費を対象としているため、設備・備品等の購入は原則として認めません。

4.助成年限

2021年度内(研究期間:採択通知日~2022年3月31日)

5.募集締切/申請書提出方法 
2021年5月24日(月)15:00(締切日時厳守)

/西宮上ヶ原キャンパス 社会学部棟3階 先端社会研究所事務室
※なお、提出時に学生証(研究員証)にて本人確認を行います。

6.応募方法および採択決定までの流れ

1)応募
「2021年度 先端社会研究所リサーチコンペ 研究計画申請書」【様式1、2】に必要事項を記入のうえ、先端社会研究所事務室に提出してください。英文での申請も可能です。

2)書類審査
「2021年度先端社会研究所リサーチコンペ審査委員会」において、次の評価ポイントにより書類審査を行い、「4)プレゼンテーション」に進む課題を選考します。
①先端性 ②親和性 ③計画性

3)リサーチコンペウィーク
2021年6月14日(月)~19日(土)をリサーチコンペウィークとし、「研究計画申請書」を先端社会研究所ホームページにて公開します。

4)プレゼンテーション審査
書類審査を通過した応募課題について、公開でプレゼンテーション審査を実施します。
開催日 2021年6月19日(土) 9:30~
開催形式 オンライン(Zoom)
※プレゼンテーション審査においては、研究計画や予算使途などについての審査を行います。

5)採択決定
書類審査およびプレゼンテーション審査を通じて、本事業の趣旨に掲げる目標を理解し、将来それに貢献することが期待される「優れた先端的な研究計画」を採択します。

7.採択決定通知

2021年6月下旬 申請者宛にEメールにて通知します。

8.研究成果の公表
本制度に採択された者は次のとおり研究成果を公表しなければなりません。

① 「中間報告」の提出
       先端社会研究所紀要(2021年度発行予定分)に掲載されます。
② 「研究成果報告書」(研究所所定様式)を2021年4月末日までに提出。
       研究成果報告は一括して先端社会研究所のウェブサイトに掲載します。
③ 「リサーチコンペ報告会」(2022年5月開催予定)での報告
④ 「先端社会研究所紀要」(2022年度発行予定分)への研究報告の投稿

9.問い合わせ先

本募集に関する問い合わせは、全てEメールにて受け付けます。
問い合わせ先メールアドレス: asr(あっと)kwansei.ac.jp
※(あっと)を@に置き換えてメールを送信してください。