全ての人にとっての電話リレーサービス
下谷奈津子 特別任期制助教 手話言語研究センター主任研究員
2021年7月より「電話リレーサービス」が公共インフラとして導入されました。これは、ろう者・聴覚障害者・発話に困難のある人と聴者の間の電話を、オペレーターが手話・文字・音声を用いて仲介するサービスです。24時間365日利用可能で、緊急通報にも対応しています。このサービスの導入により、たとえば美容院の予約、商品の解約、車の故障時の連絡など、どんな場面においてもろう者が自ら予約や問い合わせを行えるようになりました。また、個人情報を扱う機関では、第三者による電話では対応できないという制約がありましたが、電話リレーサービスを通じた連絡であれば対応可能とするケースも増えてきています。これは、社会的な理解と制度の整備が進んできた証といえるでしょう。
さて、電話には、対面とは異なるコミュニケーションの特徴があると思います。たとえば、数秒の沈黙が続くと、相手が不安になり「もしもし?」と確認することがあります。そこで、沈黙を避けるために「えーと…」などのフィラーや、「あれ、どこに書いてあったかな・・・」などと独り言を挟むことで、回線がつながっていることを暗に伝えているような気がします。私もこれまでろう者の友人や同僚から頼まれて、個人的に電話による手話通訳を経験しましたが、通訳となるとこれがなかなか曲者なのです。手話通訳は、日本手話と日本語という、2つの異なる言語を仲介する言語通訳です。手話から日本語への変換、またその逆の作業に一生懸命なあまり沈黙が続いてしまい、受話器から「もしもし?」と不安な声が聞こえて慌てたことも。また、ろう者が電話中にメモを取ることもあります。対面であればお互いが視覚的に状況を把握できますが、電話ではそれができません。通訳の私がそこで何もせず、ろう者がメモを書き終えるのをただ待っていると、またもや沈黙が生まれ、「もしもし?」ということに。そこで、いつも自身が電話をするときのように「えー…」とフィラーを入れたり、「通訳です。本人がメモを取っています」と状況を説明したりするなど、何か一言入れるとコミュニケーションがスムーズになりました。他にも、電話通訳ならではの工夫など、機会があればリレーサービスの方に聞いてみたいなと思います。
最後に、先日起こったエピソードを紹介します。ろう者の友人とご飯を食べに行こうということになり、その友人が電話リレーサービスを使って飲食店に予約を入れてくれたところ、「AIですか?人間でない問い合わせには対応していません。席も空いていません」と言われ、電話を切られてしまいました。その後、私が同じ店に直接電話をかけたところ、問題なく予約が取れました。事情を説明すると、店側は「電話リレーサービスというものがあることを知らなかった」と謝罪し、スタッフ間で情報を共有すると言ってくださいました。ろう者だけでなく、聴者も電話リレーサービスの利用者です。誰もが気持ちよく電話リレーサービスを利用するために、教育の場をはじめ、さまざまな場面でこのサービスを積極的に取りあげていくことが求められると感じました。