森 久美子教授(2)

[ 編集者:社会学部・社会学研究科 2016年10月19日 更新 ]

社会の中の心

どのような授業をご担当ですか。

「グループ・ダイナミックス」と「意思決定の心理学」という2つの授業を担当しています。
「グループ・ダイナミックス」では、集団の中の個人をテーマにしています。人は生き延びるためには自分の利益を確保する必要があります。しかし、他人と協調することでより高い利益を生み出すことができる場合もあり、自分の利益以外のことにも関心を向ける必要があります。自分を優先することと、他人を優先することは、一見、相容れません。しかし、その2つの目標を、バランスを取りながら達成しているところが人にはあります。利己的な目標を持っている個人がどうすれば周囲と協調できるのか、ということを扱っています。
一方で、周囲と協調するといっても周囲にどんな人がいるかは分かりません。そのため、こうすれば必ず上手くいくという方法は無くて、相手次第なところがあります。他人がどう行動するか、どう思っているかというのは不確実なものです。そのため、他人を相手にどうするかを決める、という意思決定は、常に結果が分からない状態での選択や判断になります。人は、不確実な情報をどのように処理して、選んだり、決めたりといった意思決定をしているのか。そういったテーマを扱っているのが「意思決定の心理学」です。
 

ゼミではどのようなことをしていますか。

学生がそれぞれのテーマのために必要な実験を行い、研究を進めています。
例えば、偏見やステレオタイプについての意識を調べる潜在連合テストという実験があります。こういった意識を調べるには言葉で聞くことももちろん可能です。「○○な人は性格が悪いと思いますか?」といったように。しかし、そのような質問に「はい」と答える人はほとんどいません。こういった表に出にくい事柄、あるいは自分でも気づいていないような心の奥底を測るために実験を行います。
ここに、トランプがあったとして、「スペードとクローバーを左」、「ハートとダイヤを右」に分類する作業はそれほど難しいことではありません。でも、「スペードとハートを左」、「クローバーとダイヤを右」となると少し難しくなりませんか?それは、ハートとダイヤは「赤」同士、スペードとクローバーは「黒」同士、というように、二つのマークを関連した近い関係のものとして認識しているからです。最初の組み合わせは、「近いもの同士」という認識のままに分類すればよいので簡単なのですが、後の方の組み合わせは、自分の思う「近いもの同士」と反するような区別をしないといけないので、難しく思えるのですね。
同じようなことは人の意識を調べることに応用できます。例えば、人種に対する偏見を調べる際には、人種を表す言葉と、よい意味や悪い意味を持つ言葉を見せて、「白人に関係する言葉か、よい意味を持つ言葉を左」、「黒人に関係する言葉か、悪い意味のことばを右」、のように分類してもらうといった実験が考えられます。
潜在的に白人を好意的にみている人ほど、「白人関連語」と「よい意味を持つ言葉」、「黒人関連語」と「悪い意味を持つ言葉」を組み合わせて分類する方が簡単に感じ、素早く反応できます。組み合わせを入れ替えると、その人にとっては難しくなり、反応時間も長くなる傾向がみられます。自分は人種について偏見を持っていない、むしろ人種偏見は軽蔑すべきものだと思っている人であっても、反応時間の差が生じることが非常に多いです。
こういった実験を活用して、潜在的な意識と顕在的な意識の違いを調べたり、どのようなアプローチをしたら潜在的な意識が変化するかを研究したりしています。
 

受験生にメッセージをお願いします。

心理学部ではなく、社会学部で社会心理学を学ぶ良さがあると思います。
社会心理学の学問としての独自性は、社会で生じている問題に対してどのように迫るかにあるので、社会に対する感受性やセンスを身につけるには、心理学を学ぶだけでは不十分だと感じています。社会学部で、社会学的な理論や物の見方を同時に学ぶことで、社会の中の人間というものをより多面的に見られるようになる。その良さが関学の社会学部にはあると思います。