佐藤 哲彦 教授(2)

[ 編集者:社会学部・社会学研究科      2015年5月7日   更新 ]

社会学で見る「社会問題」

授業ではどのような科目を担当されていますか?

「社会問題論」という授業を担当しています。現代の犯罪報道などを入り口に、社会学は社会問題を、特に「逸脱」をどのように考えてきたかなどについて教えています。
最近では、犯罪や非行などの逸脱行為が起こると、個人の心理を問題視する傾向がとくに強くなっています。「心の闇」などは典型的な文句ですね。しかし実際には、社会的な要因、例えば生まれた境遇や現在の環境などが深く関わっています。
そのような社会的な物事との関係で「逸脱」を考える重要性を教えています。

「社会問題論」での考え方について、もう少し教えてください。

例えば、近年、「キレやすい若者」や「ゲーム脳」、「ニート問題」のような、若者がダメになった結果として凶悪犯罪が増加した、といった話がありました。でも統計的に見ると、それは全くの幻想だということが分かります。
では、なぜそのようなことが言われているのか。そこには既得権益の問題が見てとれるでしょう。バブル崩壊以降、非正規労働に就かざるを得ないなど、若者が差別されている状態にあります。なのに、それを若者自身の責任だとすることで既得権益を守ろうとする力が働いているのではないか。若者の責任にすることで、社会を統制する側の問題を見逃しているのではないか。そうした大きなテーマについて授業で問いかけています。
学生にはマスメディアが報じることを鵜呑みにせず、相対化する視点を持ってほしいと思っています。

受験生へのメッセージをお願いします。

大学に入ったら「勉強」した方がいいと思います。なぜなら、勉強したら自由になれるから。知識は自分を自由にしてくれます。そして、勉強すれば色々なことが分かるし、今までの「当たり前」が実は「当たり前ではない」と分かる過程は、すごく楽しいものです。ただ、高校生の多くがイメージする勉強はおもしろくないと思う。しかしそれは勉強というより訓練だからです。訓練はおもしろくないですよ、当たり前です。でも、大学でする「勉強」は楽しいですよ。

「訓練」と「勉強」の違いについて具体的な例を教えてください。

私は「医療社会学」も教えていますので「医療」を例に挙げると、高校までは「近代において抗生物質が発明され、医療技術も発達したことで死亡率が低下して…」といった内容を学ぶと思います。
しかし、これは事実ではありません。もちろん、抗生物質は感染症には実際に効果があります。しかし、統計資料を見ると抗生物質や医療機器の発明が近代社会における死亡率低下に与えている影響は大きくない。
では、何が死亡率の低下に影響を与えているのか。それは社会の変化です。教育の向上や衛生の向上といった社会文化的な変化が死亡率の低下に与える影響が、実は大きいのです。
このように、教科書などで「そう教えられたから」それを覚えるのではなく、自分の頭で考え、自分の目でみて、自分の肌で感じて、そこから物事を探究するのが大学の学びです。それは辛い訓練ではなく、常識に縛られている自分自身を自由にしてくれます。
それが「勉強」ということだと思います。

◆インタビューを終えて・・・
「当たり前」が実は「当たり前」ではない。佐藤先生のお話から「当たり前」を疑ってみることの大切さに気付かされます。
もちろん、ドラッグを使っても大丈夫!ということではありません。でも、なぜドラッグはダメなのかを自分の頭で考えることは、これまでなかったように思います。
常識に「?」を付けてみる。すると、今まで見えなかったことが見えてくる!