学部長メッセージ

[ 編集者:社会学部・社会学研究科        2020年7月17日   更新  ]

                                                                                                                                                                                                                                                               

 関西学院大学社会学部を進学先として検討している受験生の皆さん、並びに高等学校の先生方に向けて、このメッセージを書いています。
 
 高校生の皆さんは、どのように受験する大学や学部を決めるのでしょうか。最初のステップとして文系か理系かを選択し、文系を選択したのちに、ほとんどの総合大学に設置されている文学部、法学部、経済学部、商学部などから、自分が何を勉強したいのかを考え始める人も少なくないのではないかと思います。
 毎年、面接でよく耳にし、志望理由書で目にするのが、「社会について幅広く学びたい」という動機です。
 実はここで少し気になってしまう点があります。それは社会学部の選択が、他の学部の消去法から導き出されたのではないかということです。
 
 まず、文系学部の中で、法学部を消去した人に考えてもらいたいことがあります。
法律や行政のことをぬきにして、社会が理解できるでしょうか。トラブルに巻き込まれた場合、誰に相談し、どのように解決していくことができるのか。代表制という仕組みによって、自分の意見を行政の施策に反映させることがどのように可能なのか。こうしたことを理解しておくことは大切です。
 法学部を消去した人は、本音では「法律は文章や用語が難しそう」と考えて、消したのかもしれません。
 
 次に、経済学部や商学部を消去した人に考えてもらいたいことがあります。
「はっきりいって、世の中お金」などと言われます。お金のことをぬきに、日々の生活や将来の人生設計は成り立ちません。経済学は、人間の選択行動を研究する学問であり、具体的な財とサービスの仕組みを理解せずして、社会が見えてくることがあるでしょうか。
 経済学部を消去した人は、本音では「数学、数式がヤバい。自分にはマジ無理」と考えて、消したのかもしれません。
 経済学を学ぶに数学は必須です。同じく、社会学でも、高校の確率・統計の延長として、具体的な社会調査や統計の理解が必要となります。数字で社会をとらえることの大切さは、ぜひ消去せずにおいてもらいたいと思います。
 
 そして、文学部を消去した人に考えてもらいたいことがあります。
 文学部の根幹である<文・史・哲>つまり、文学、歴史学、哲学の学問の中での存在感を無視することはできません。欧米の大学の組織構造を見ると、Arts&Scienceという大きな枠組みがあって、その外側に、医学、法律学、経営学、工学といった実用的な学問が別に存在する形になっています。文学部の学びは、学術の中心です。社会学の歴史を理解するにも、古典古代からの哲学・思想を学ぶことなしにはあり得ないのです。文学部を消去した人は、本音では「あまり分厚い本読むのはしんどそう」とか「語学が苦手だから」と考えて消したのかもしれません。
 実際のところ、こうした皆さんの本音の理由もよく理解できます。
 
 さて、皆さんは、どうして社会学部長が、社会学部の宣伝を一切せずに、他の文系学部の良さや存在意義を語るのか、訝しく思う人もいるでしょう。その理由を説明します。
 
 私の希望は、他学部の消去法だけで、社会学部を選ぶのはちょっと待って欲しい、ということです。
 
 いや、消去法でも良いのですが、<法学部は用語が難解でダメ>、<経済学部は数学がいるからダメ>、<文学部は分厚い本読むのが無理だからダメ>という消極的な消去法ではなく、積極的な消去法で社会学部を志望してもらいたいと期待しています。
 
 <法律を学んでも理解できない社会秩序がある>、<経済学で普通に想定されるように人間は振る舞わない場合がある>、<何世紀も前の話と同じことが今起きているのではないか>という着想です。
 他学部では、カバーできないことを社会学部で取り組んでみようという心意気なのです。
 なぜなら、私たち社会学部の教員は、社会学を学ぶことによって、「法律学」でも、「経済学」でも、決してとらえることのできない、この社会の事実が明らかにできると信じるからです。
 
 高校の先生方には、「社会について幅広く学びたい」と志望理由書に書かれている場合に、社会を理解する上で、{社会-(法律+経済)}という見方で良いのか、考えてみていただけたら幸いです。
 
 法律も家族のあり方が変化すると、現状のままでは機能しなくなるとか、経済学者の予測通りに、消費者が行動しないということに気づいてもらえたらと思います。法律をいくら精緻に解釈できても、また、エレガントなモデルや数式で市場を説明できても、なお、社会の本当の姿や人間の行動を描き出すことはできない。そこを埋めるのは何か。この問題に切り込むために、社会学という比較的歴史の浅い学問分野の存在意義が出てくるのです。消極的選択ではなく、積極的選択として、社会学部を志望する可能性がここにあるのではないでしょうか。
 
 多くの高校生の皆さんが、積極的に社会学部の魅力や存在意義に気づいて下さること、高校の先生方が自信をもって、社会学部を勧めて下さることを、心より願っております。
 
 
社会学部長 森 康俊