染色体の末端配列テロメアの長さを保つ新たな仕組みを解明 —細胞老化の仕組みに迫る— 理工学部・田中克典教授ら

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[ 編集者:広報室  2014年4月8日 更新  ]

 関西学院大学理工学部・田中克典教授およびそのグループは米国イリノイ大学シカゴ校医学部・中村 通教授のグループ等との共同研究により、染色体の末端配列テロメアの長さを一定に保つ新たな仕組みを解明しました。テロメアの長さは細胞の寿命やがん化と密接な関係があり、抗がん剤の開発や細胞の老化を防ぐ研究へ繋がることが期待できます。

 本研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)(オンライン初期版:Early Edition)に掲載されました。

ポイント

 この研究により、細胞の寿命やがん化と深く関係する染色体末端テロメアの長さを一定に保つ新たな仕組みが明らかになりました。また、発見した新たな仕組みを標的とし、抗がん剤の開発や細胞の老化を防ぐ研究への展開が期待できます。

論文タイトル

原題: SUMOylation regulates telomere length by targeting the shelterin subunit Tpz1Tpp1 to modulate shelterin-Stn1 interaction in fission yeast

タイトル和訳:分裂酵母において、シェルタリン複合体構成因子であるTpz1タンパク質のSUMO翻訳後修飾が、シェルタリン複合体とStn1タンパク質の相互作用を調節することでテロメアの長さを制御する

著者名

Keisuke Miyagawa, Ross S. Low, Venny Santosa, Hiroki Tsuji, Bettina A. Moser, Shiho Fujisawa, Jennifer L. Harland, Olga N. Raguimova, Andrew Go, Masaru Ueno, Akihisa Matsuyama, Minoru Yoshida, Toru M. Nakamura, and Katsunori Tanaka

1.研究の背景と経緯

 私たち動物の細胞には分裂の回数に限り、つまり寿命があります。
 これには染色体の末端に存在するテロメアと呼ばれる繰り返し配列(図)が深く関係しています。
 ヒトを例に挙げると、TTAGGGという核酸配列が1500回ほど繰り返されています。
 細胞が分裂する度に、テロメア配列が少しずつ失われていきます。
 テロメアの長さは、細胞の分裂回数を測る尺度としてはたらき、「分裂時計」もしくは「老化時計」ともいわれています。
 体細胞では、テロメアの長さが半分ぐらいになると細胞が寿命に達し、分裂を停止します。
 ヒトの生殖細胞では、テロメラーゼというテロメアDNAを合成する酵素がはたらき、細胞分裂を繰り返してもテロメアは短くなりません。
 テロメラーゼのはたらきは細胞のがん化とも深く関わります。
 多くのがん細胞ではテロメラーゼが活性化された状態にあり、決められた回数が過ぎても細胞分裂を繰り返します。
 このように、がん細胞はテロメアによる細胞分裂回数の監視を逃れた状態にあるといえます。
 本研究グループは、テロメアの長さを一定に保つ仕組みの解明に取り組んできました。

2.研究の内容

図.テロメアの構造とテロメアの長さを制御する仕組み

図.テロメアの構造とテロメアの長さを制御する仕組み

 本研究では、真核生物の細胞周期研究のモデル生物として広く用いられている分裂酵母という酵母菌を用いて、テロメアの長さを一定に保つ新たな仕組みの解明に取り組みました。
 分裂酵母のテロメア配列とその配列に結合するタンパク質群(シェルタリン複合体)はヒトのものとよく似ています。
 よって、分裂酵母で得られる知見はヒトの細胞にも適応できる可能性が高いと考えられています。
 分裂酵母では常にテロメラーゼがはたらき、ヒトの生殖細胞の場合のように細胞分裂を繰り返してもテロメアの長さは一定に保たれています。

 田中教授らはかつて、タンパク質の翻訳後修飾因子の1つであるSUMO(スモ)というタンパク質を失った分裂酵母では、テロメアが通常より長く伸びるという現象を発見しました。
 SUMOは不用タンパク質の分解の目印としてはたらくユビキチンによく似たタンパク質です。
 しかし、その発見以降長い間その現象を説明する仕組みについては全く分からないままでした。
 今回の研究成果により、テロメア配列に結合するシェルタリンと呼ばれるタンパク質複合体の1つであるTpz1タンパク質にSUMOが目印として結合することが分かりました。
 そして、SUMOが結合するとTpz1タンパク質はテロメラーゼのはたらきを抑える能力を持つStn1タンパク質と相互作用できることも分かりました。
 以上、SUMOという目印がTpz1とStn1のタンパク質間の相互作用状態を制御し、テロメラーゼのはたらきを細胞周期の進行に合わせて調整していることが明らかとなりました(図)。

3.今後の期待

 テロメアの研究において、分裂酵母での知見はヒトの細胞にも適応できる可能性が高いとされます。
 よって、今回分裂酵母で解明されたテロメアの長さを一定に保つ新たな仕組みがヒトの細胞にも存在する可能性が考えられます。
 細胞の寿命やがん化とテロメアの長さには密接な関係があり、SUMOによるテロメアの長さ制御の仕組みを標的とした抗がん剤の開発や細胞の老化を防ぐ研究に貢献できると思われます。

用語解説

■ テロメア:真核生物の線状染色体の末端にある繰り返し配列。特殊な方法で複製し、細胞分裂のたびに染色体が短くなるのを防いだり、染色体の末端を損傷から守るはたらきも持つ。

■ ユビキチン:76個のアミノ酸からなる小さなタンパク質。不用タンパク質を選択的に分解する目印としてはたらく。

■ SUMO:Small Ubiquitin-related Modifierの略であり、ユビキチンとよく似たタンパク質。ユビキチンがタンパク質分解の目印となるのに対して、SUMOにはそのような機能はない。SUMOによるタンパク質の翻訳後修飾(SUMO化)は、細胞核-細胞質の輸送、エピジェネティクス、アポトーシス、タンパク質の安定化、ストレス応答、細胞周期の進行など様々な細胞内の機能に関係する。

■ 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe):アフリカで古くから作られていたポンベ酒から分離された酵母菌。分裂酵母はパン酵母(出芽酵母)と並び、真核生物のモデル生物として大変優れた微生物である。特に、均等分裂による増殖をするため細胞周期の研究に広く用いられている。