6 エレベーターの怪(2)

 エレベーターが2台以上あるときのシミュレーションを行なってみましょう。その前に,どのようなルールで,エレベーターが選択されるのか,説明しておきます。

 上のルールにおいて,1および2は,「呼び出す階,行き先の階に偏りはないものとする」と言い換えることができます。では,100階建てのビルディングに6機のエレベーターのある場合のシミュレーションを行うことにしょう。

 上のシミュレーションにおいて,観測階は,10階から10階ごとに90階までの階とします。ここで注意してほしいことは,観測階はあくまで観測する階であって,呼び出す階ではないということです。WT(Wating Time)とは呼び出してからの待ち時間,すなわち,呼び出されるエレベーターが現在の階とどれだけ離れているかを表しています。また,右端のグラフは,呼び出されたエレベーターが上の階からくる確率を表しています。

 このことは,TeX で有名な Donald E.Knuth は,Journal of Recreational Mahtematics の 「The Gamow-Stern Elevator Problem」の中で,次のような証明を行なっています。

 最初に,

とし,エレベーターが n 台設置されていると仮定します。このとき,私たちがいる階を「our floor」としたとき,エレベーターが上からやってくる確率 q を求めます。

Fig.1


 
 Step1. まず,Fig.1のように,円周の長さが 1 である円を考えます。そして,円周上の真下の点を最も下の階,円周上の真上の点を最上階であるとします。このとき,私たちの階に対応する点を2種類に分けて考え,

とします。すると,円周は2つの部分「Area A」と「Area B」に分かれます。

 今,この円周上にエレベーターの台数分の n 個の点を一様(ランダム)に配置します。そして,それらの点を,円周に沿って時計周りに回転させることを考えます。

Fig.2




Step2. Fig.2のように n 個の点(図では6個の点)が,全て「Area A」に配置されたとき,これらの点は全て右回りに回転するので,必ず「Area A」から「Area B」へ移動することになります。したがって,この場合は,全て私たちの階へは上からエレベーターがくることとなります。したがって,エレベーターが上からくる確率は q1 は,

となります。

Step3. では,n 個の点の一部がFig.3 のように,「Area B」に入る確率 q'2 は,

 このとき,Fig.3の左図のようにエレベーターが上からやってくる場合と,Fig.3の右図のようにエレベーターが下からやってくる場合に分かれます。

Fig.3



このようなとき,上からくる確率と下からくる確率は,互いに等しいと考えることができますので,エレベーターが上からくる確率 q2 は,


 以上のことより,エレベーターが上からくる確率 q は,

となります。

 最初に p 0.5 と仮定しましたが,これは,容易に拡張することができ,0 p 1 のときは,

となります。このとき,n を無限大に近づけますと,限りなく0.5に近づいていくことが分かります。また,このことから,上のシミュレーションのように,100階建ての建物でエレベーターが6機あるとき,90階で上からエレベーターがやってくる確率 q は,

に近づくことが分かります。