5 エレベータの怪
皆さんは,次のような経験をしたことはありませんか?
5階立ての建物の4階にいて下に降りようと,エレベーターの前に立つと,いつもエレベーターは上向きで,なかなか利用することができない。「なんて,ついていないのだろう」
5階建ての建物ならともかく,それが60階立ての建物の50階にいるような場合,ほとんどエレベーターは上向きとなります。一体どうして,このようなことが起こるのでしょうか。
まず,右のシミュレーションで,次のようなことを考えましょう。5階立ての建物において,観測者は,4階にいるとします。その時,エレベーターが
4階以上(4階か5階)にある回数
3階以下(1階か2階か3階)にある回数
と試行(観測)回数を測定することにしましょう。それらより,エレベーターの前に立ったとき,それが下の階にある確率を求めることができます。
しばらく右のシミュレーションを眺めて,その確率(割合)がいくらに近づいていくか考えてみてください。いかがでしょうか? この問題を,数学的にフォーミュレーションし,4階のエレベーターの前に立ったとき,下向きのエレベーターに出会う理論的確率を求めることにします。
[仮定]
1.5階立ての建物において,任意に,4階でエレベーターの位置を確認し,4階以上にエレベーターがあるか,または,3階以下にエレベーターがあるか観測する。
2.利用する階数に,偏りがないものとする。例えば,2階にスーパーがあって,3階以上の階は住まいになっているような場合などは考えないことにする。
このとき,
4階以上にエレベーターがある確率(割合)
3階以下にエレベーターがある確率(割合)
を求めたい。皆さんなら,どのように考えるでしょうか?
次のように,考察してみて下さい。
観測者は,4階にいると仮定します。すると,左のように,標本空間 Ω は1階から5階までとなります。4階において,下向きのエレベーターに出会うには,エレベーターはピンクのエリアになければなりません。その事象を,A とします。すると,標本空間の面積と,事象 A の面積はそれぞれ,
標本空間 Ω の面積 = (幅 h)×(階の高さ v)×5
事象 A の面積 = (幅 h)×(階の高さ v)×2
となります。したがって,求める確率 p は,
となります。実際,上のシミュレーションでも確かめることができます。
このエレベーターのパラドックスは,物理学者ジョージ・ガモフとその友人マービン・スターンの書いた『パズル数学』という本に始めて出てきたものです。彼らは,エレベーターの台数が増えても,エレベーターが上からくる確率と下からくる確率は同様に計算することができると述べていました。
その後,スタンフォード大学の計算機科学者ドナルド・クヌース(あの TeX で有名な)が,"ガモフ・スターンのエレベーターの問題"という論文の中で,エレベーターの台数が増えるにつれて,上りあるいは下りのエレベーターをつかまえる確率は,どの階においても2分の1に近づくことをクヌースは示しました。興味ある方は,その証明を次の章で示し,そのシミュレーションを行なっていますので見て下さい。
次のようなことはありませんか?
よく特急電車に乗車しようと思うのですが,なかなか,ホームに着いたと同時に特急電車が待っているということがありません。それは,普通電車の停車時間より特急電車の停車時間の方が短いためです。
今,左のような時刻表になっている仮定します。すると,13時から14時までの間で,来た電車に適当に乗車するとき,特急に乗る確率を求めてみましょう。
特急に乗車することが可能である全時間に,着目しましょう。
例えば,13時02分であれば,次の13時10分発の普通電車となります。したがって,特急に乗るためには,Fig.1 の赤い部分に到着しなければなりません。
そこで,標本空間 Ω を60分とし,特急に乗る事象を A としますと,
標本空間 Ω = 60分
特急に乗れる事象 A = 6分 (Fig.1 の赤い部分)
となります。したがって,特急に乗車する確率 p は,
となります。
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練習問題1 あるバス停の 13 時と 14 時の間の時刻表は,
となっている。13 時と14 時の間に,発車時刻を知らずに来た人が 5 分以内で乗れる確率 p を求めよ。
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4階で下りのエレベーターがくる確率を 0.5 以上にするには,エレベーターの数を何台にするとよいか,などいろいろ面白い問題があります。結構,身近なものの中にも,確率の概念が潜んでいます。