§1 数 と 式
8 不等式の証明(1)
この「不等式の証明」においても,証明方法にこだわって,説明していくことにしましょう。基本テーマは,「不等式において,何を証明するのか」です。
不等式を証明する前に,少し数の基本的性質について確認しておくことにします。これらのことが,ベースになっているので,今後,断りなく利用することがありますので,覚えておいてください。
2つの実数 a,b,c について
基本1.a>b, a=b, a<b のうち,どれかが成り立ちます。
基本2.次のような大小関係の基本性質があります。
(1) a>b, b>c ⇒ a>c
(2) a>b ⇒ a+c>b+c, a-c>b-c
(3) a>b, c>0 ⇒ ac>bc, 
(4) a>b, c<0 ⇒ ac<bc, 
が成り立ちます。ここで注意することは,両辺に負の数を掛けたり,割ったりするとき不等号の向きが反対になることです。
基本3.平方・平方の和の符号について
(1) すべての実数に対し a2≧0 となります。特に,等号が成立する(つまり a=0 が成立する)のは a=0 のときだけです。
(2) a2+b2≧0 のとき,等号が成立する(つまり a2+b2=0 が成立する)のは a=b=0 のときだけです。
基本4.a>0, b>0 のとき
|
注意!
記号「⇔」は
a>bならばa2>b2
a2>b2ならばa>b
が同時に成り立つ
こと表します。詳
細はここをクリッ
クして下さい。
|
(1) a>b ⇔ a2>b2
(2) a≧b ⇔ a2≧b2
これらは,a>0,b>0 のときだけ成り立ちます。もしこの条件がなければ,a=1,b=-2 とすると,a>b は成り立ちますが,a2>b2 は成り立たないことは明確ですね。このように最初に書かれている条件を,かるく見落としがちですが,数学の文章には不必要なものはなく,全て利用されます。与えられた条件を注意深く,読み飛ばしのないように心掛けましょう。
ここで,基本1〜基本3は証明しなくても良いとして,基本4は証明しておくことにしましょう。ちょうど手ごろな問題です。
例題1 a>0,b>0 のとき a>b ⇔ a2>b2 が成り立つことを示せ。
[証明] 基本2の(3)の性質を用います。
・まず a>b ならば a2>b2 が成り立つことを示しましょう。
そこで,a>b とするとき,a2>b2 が成り立つことを示します。
a>b の両辺に a,b を掛けます。a>0,b>0 なので
a を a>b の両辺に掛けると a2>ab (基本2の(3)を用いました.)
b を a>b の両辺に掛けると ab>b2 (基本2の(3)を用いました.)
となります。この両式をあわせると,a2>ab>b2 となりますので,ゆえに a2>b2.
・次に逆を示しましょう。つまり,a2>b2 とするとき,a>b が成り立つことを示しましょう。a2>b2 なので,a2-b2>0 .よって,(a-b)(a+b)>0 となりますが,a>0,b>0 であるので,a+b>0.一方,a-b,a+b の積が正であることから,a-b>0 となります。よって,a-b>0 より,a>b となります。 証明終
証明していくコツは,
T.どの条件が利用可能であるのか
U.何が結論なのか(利用不可能なのか)
を区別して理解することです。そうしないと,何を示したいのか分からなくなってきます。では,不等式の証明の代表的な問題を解いていくことにしましょう。
|
ワンポイント
2乗の形にすることを「完全平方の形にする」
と言って,今の場合ですと次のようなしくみ
になっています。a2+ab に着目して

となっています。つまり,強引に2乗の形
を作っているのです。詳しくはここをクリ
ックして下さい。
|
例題2 (完全平方型) a,b を実数とするとき,次の不等式が成り立つことを示しなさい。
[証明]このとき,利用できることは,a,b が実数であることと,a2+ab+b2 だけです。したがって,次のように変形していきます。
ここで,a,b はともに実数なので,基本3の(1)より,
, 
となります。よって,
|
ワンポイント
等号が成立するとは次の
ようになるときです。

|
となり a2+ab+b2 ≧ 0 は成立します。特に等号が成立するとき,すなわち,
が成立つとき,基本3の(2)を用いて
, 
となります。よって,この両式が成り立つ a,b の値は,a=0,b=0 のときに成り立ちます。 証明終
等式の証明と比較し,少しややこしく感じますが,何を示すのかということをよく考え,利用できる条件はどれであるか,ということをまとめていけば方針がたちます。
では,次の種類の問題に取り組むことにしましょう。
例題3(両辺が正のとき,両辺を2乗する方法) A≧0,B≧0 のとき次の不等式が成り立つことを証明せよ。
ただし等号は,A=B のとき成立する。
[証明] 左辺の2を払って,
を証明します。左辺
0,右辺
0 なので,基本4の(2)を用いて,
A2+2AB+B2
4AB
ここで,A,B は実数なので,(A-B)2 ≧ 0 … @ となります。。よって,A2+2AB+B2 ≧ 4AB が証明されました。つまり,
が示せたので,基本4の(2)より,
となります。また,等号は @ において,(A-B)2=0 となるとき,つまり,A=B のとき成立します。 証明終
ところで,上の例題2において,左辺と右辺は特別な意味を持っています。
|

|
これを「相加平均」と言って,私たちがよく「平均」と呼ぶものです。2つの数があって,その和を2で割るということですね。
|
|

|
これを「相乗平均」と言って,平均の一種です。あまり見かけませんね。でも,平均として扱うことができます。覚えておいてください。
|
具体的に言いますと,定期考査において,英語の得点が36点,数学の得点が60点であったとき,上の方法で平均を求めると,
となります。このことからも分かるように,相加平均と相乗平均を比較すると,上で証明したように,相加平均の方が相乗平均よりも大きくなっていることが分かりますね。相加平均と相乗平均の値が一致するときは,英語の得点と数学の得点が一致するときとなります。このように,相加平均は相乗平均よりも大きくなる関係のことを,「相加・相乗平均の関係」と言って,この関係は証明しなくても用いることができます。
少し説明が長くなりましたが,このような2つのパターンを用いて,練習問題を行いましょう。
いかがでしたでしょうか? あともう少し不等式の証明について説明するところが残っていますので,つきあってください。
次の章では,条件付きの不等式にチャレンジします。