§2 三角比
3.鈍角の三角比
この章では,前の章で学習しました鋭角の三角比を,鈍角にまで拡張することにしましょう。しかし,今までのように直角三角形を前に,向かって右側に直角,そして左側に鋭角がくるようにして置き,「斜辺分の底辺」として求めるわけにはいきません。なぜなら,今度は鋭角でなく鈍角なので,「1つの角が鈍角であるような直角三角形?」は作れないからです。そこで,今まで学習してきた性質(鋭角の三角比の定義や性質)をすべてそこなわないように,鈍角の三角比(たとえば,sin120゚)を定義することを考えることにします。
鈍角の三角比

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今まで考えてきたことを,xy 平面上に埋め込むことにします。つまり,右の図を見て下さい。半径 r の半円周上に任意の点 P(x,y) が,
にとられたとします。この時,線分 OP と x 軸となす角を α とすると,α は第1象限にあるので 鋭角 となり,今まで学習しました鋭角の三角比と同様に,
となります。次に,図のように,点 P'(x,y) が,
にとられたとします。線分 OP' と x 軸となす角を β (x 軸の正の部分を基準とします)とすると,β は第2象限にあるので 鈍角 となり,今まで学習した三角比の定義を適用することができません。この時,今までの鋭角の三角比の性質を保持しながら,拡張することにします。そこで,次のように定義することにします。
「なーんだ。これでは,鋭角の三角比の定義と同じではないか」と思われますが,実際,三角比の方法は同じです。しかし,x のとりうる範囲が少々異なっています。鈍角の場合,第2象限まで動きますので,x の値が負になることもあります。けれども,このように定義すると,鋭角の三角比に全く影響をおよぼすことがないことに気がつくでしょう。
ここで三角比の定義を次のように定めます。
定義2 (三角比)

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このように定義したものの,利用してみなければ分からない点がありますので,一度どのようなものなのか,まず体験してみましょう。そこで,右の「鈍角用三角比生成機」を見てください。ここでは,半径を1として(この円のことを単位円といいます)いますので,sin, cos の分母の半径は1となっています。マウスを円周上の点 P にあわせ動かしてみてください。同時に三角比の値が変化していくことを,確かめてみましょう。
どうですか? 鋭角の三角比と異なっているところに気がつきましたか? そうですね。負の値が出てきました。なぜこのようなことが起こるのかといいますと,x のとりうる範囲が負になるからです(半径はいつも正となります)。また,「x」と書かずに「x 座標」と書いたことにも注意してください。これから,x とは x 座標を意味しますので,注意が必要です。ではここで,鈍角の三角比の練習を行なってみましょう。
例題3 sin120゚,cos120゚,tan120゚ の値を求めよ。
[解答]左の図を見ながら,順を追って説明していきましょう。
@ 半円を描き,半径(動く半径のことを 動径 と呼びます)を 120゚ 動かします。ただし半径は,今のところ適当でかまいません。
A 次に,x 軸に垂線を下します。
B すると,第2象限にいつもよく見る直角三角形が現れます。1角が 60゚ となりますから,
となることより,点Pの座標は,
となります。
ワンポイント
「x」はx座標です。
三角形の「長さ」とx
座標の区別をしてお
きましょう。
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C このことより,半径を 2 とします。
D よって,x=-1<0 であることに注意しますと,求める三角比は,
となります。要するに,点 P の座標が分かればよいのです。
また,用いる三角形によって半径の取り方は,適当に決めればよいのです。なぜなら,左の図を見てみれば分かるように,三角形によって 3 辺の長さは異なりますが,3 辺の比は一定です。したがって,半径の長さに関係なく三角比を求めることができますので,気にせず取り扱うことにしましょう。
例題4 cos180゚,sin90゚ を求めよ。
[解答] 
では,今までのことがらを,次の練習問題でまとめておきましょう。
練習問題4 次の表を完成せよ。
まとめ3

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いかがでしたか。この表は覚えるのではなく,例題3の作業により,導き出すことができるように,頭の中で訓練しておいてください。
また,この表から
となることが分かります。そして,符号だけを考えると右のような関係が成立することが分かります(x,yの符号の変化に注目!!)。
上の練習問題の表の値が,これから行なう三角比の応用問題の基礎となります。三角比が苦手になるか,ならないかの分かれ道となりますので,確実に理解しておきましょう。次の章では,もう少し,例題3の考え方に慣れていただくための練習を行ないます。